地域と歩む|信州大学地域戦略センター
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オオルリシジミは、開長3~4cmの瑠璃色の羽をもつ小さなかわいらしいチョウだ。かつては東北地方や中部地方など各地で見られたが、現在は長野県の安曇野市、東御市、飯山市、そして九州阿蘇地方にしか生息していない。初夏に蛹(さなぎ)から羽化した成虫がクララという植物のつぼみに卵を産む。オオルリシジミはクララの花とつぼみしか食べない。1週間で孵化し、幼虫になる。幼虫は1カ月後に土の中で蛹となり、そのまま初夏を待つ。羽化して飛んでいる姿が見られるのは5月下旬~6月中旬だけだ。環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧Ⅰ類に指定され、さらに長野県指定希少野生動植物*1にも指定されている。安曇野市では、1991年の個体確認を最後にオオルリシジミが絶滅したが、3年後に野外で再度発見された。それは半人工飼育によるものだったが、皆でこれを守っていこうと「安曇野オオルリシジミ保護対策会議」(以降、保護対策会議)を設立した。その後、国営アルプスあづみの公園内に保護区が設定され、放チョウ(蛹)に取り組んだ。しかし数年取り組んでも、次世代の定着は難しかった。「我々も目で確認できるいろいろな天敵を知っていましたが、それだけではない何かがあるから、ここまで減ってしまうのだろうと、中村研究室に調査研究をお願いすることになりました」(那須野 雅好代表)依頼を受けた中村研究室では、2005年から調査を開始して2007年までに、卵から蛹になるまで段階ごとの死亡率を調べ保護団体「安曇野オオルリシジミ保護対策会議」との連携オオルリシジミとは蛹を撒いても、次世代が定着しない2008年3月信州大学農学部卒業。現在大学院総合工学系研究科(博士課程)2年。父親は信州大学を卒業した昆虫学者。子どもの頃、ギフチョウを飼育した経験を持つ。伊那谷のミヤマシジミ、ヒメシジミの研究・保全保護活動も行っている。*1長野県指定希少野生動植物を無断で捕獲すると、30万円以下の罰金が科せられる(長野県希少野生動物保護条例 条例第32号)江田 慧子 さんこうだけいこ絶滅危惧種のオオルリシジミを復活させる。2011年5月、「安曇野オオルリシジミ保護対策会議」と信州大学農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター(AFC)昆虫生態学研究室(中村寛志教授)が安曇野にオオルリシジミの自然個体群を回復させた。研究に携わった江田慧子さん(大学院総合工学系研究科2年)らが目指した、保全保護の現場に対応する研究は、オオルリシジミの保護対策活動を大きく前進させることになった。(文・中山 万美子)オオルリシジミと植物クララ。つぼみに小さな白い卵を産み付けている。オオルリシジミと植物クララ。つぼみに小さな白い卵を産み付けている。た。すると、すでに卵の、あるいは孵化したばかりの段階(1齢幼虫)でほとんどが死亡し、蛹になる前には、ほぼ全滅に近い状態だったことが判明した。特に卵の段階の死亡が多かった。どうやらその主な原因は、成虫でも体長わずか0.5mm程のメアカタマゴバチの寄生によるものだということもわかってきた。四40多様な生き物たちが育まれる安曇野で─②信大NOW No.74地域と歩む。

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