地域と歩む|信州大学地域戦略センター
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今後の動態も追究する予定という。「今回の調査は試行的でしたが、『写メ』を用いた生物調査は効率よく、経費をかけずに多くのデータが集められます。特にGPS機能がついているものであれば、データの精度も高い。多くの人に楽しみながら参加してもらえる方法だと思います」(東城准教授)研究成果のフィードバック。RDBづくりに参加富士山麓の湧水群より多様な生物が棲む東城准教授の専門は、進化生物学。昆虫の生態調査や遺伝子解析などのデータから、昆虫の多様さはどのように進化してきたのかを探っている。准教授にとって、多様な生物が生息する安曇野の湧水群は絶好のフィールドだ。「“生物の多様性”という観点では、富士山麓の湧水群より圧倒的に多様ではないかと思います。北アルプスは富士山より古い隆起で、その分長い時間をかけて築かれた生態系が成立していますし、連峰であること、またいくつもの河川や湧水が合流・集合していることで、様々な要素が一堂に会するような特徴があるのかもしれません」准教授は学生たちと共に、複数の希少種が生息する烏川渓谷の「延命水」という国内屈指の大湧水に出かけ、カゲロウ類やカワゲラ類の調査をしたり、湧水河川の蓼川では、数年にわたって湧水性ヨコエビ類、底生動物、水生植物を調べている。これらの研究成果は国内外の科学誌に発表してきた。調査・研究ばかりではない。川の自然と文化研究所のメンバーとして、水辺の観察会や講演会、外来植物の駆除作業、豊科東小学校のビオトープづくり、豊科南中学校のプール水生生物観察会など、環境保全・環境教育の取組みも数多く実践している。これらの活動をもって、安曇野市のRDBづくりにも委員として参加、研究成果をフィードバックしている。「平成25年度に発行予定のRDBは、単に絶滅危惧種のリストアップとその解説書ではなく、安曇野の自然の特徴や、市民がどのように自然と関わりをもってきたのか、などにも触れていきます。例えば安曇野では、昔から稲干しのはざ掛けにハンノキを使ってきました。人々の暮らしは自然の恩恵を受けながら成り立ってきたこと、そこから生物多様性を保つことの意味や重要性を伝えます。また個体数や生息域ばかりでなく、遺伝的な多様性を維持することが重要であることなども盛り込む予定です。さらに市民との協働でRDBを作りあげるために、今回のカエル調査も参考に、市民に広く呼びかけ、身近な生物に関する情報を集約するようなことも検討されています。私も委員やNPOのメンバーとして、できる限り協力したいと思っています」制作の過程から参加する市民にとって、出来上がったRDBは、きっと愛着のある一冊になるだろう。信大の調査研究から、市民の環境保全活動へ、そして安曇野の生物多様性が保たれることにつながっていく。この活動は、まさに地域と歩んでいる。※写真はイメージです「水辺の観察会」(自然体験交流センターせせらぎ・2009年)「豊科南中学校のプール水生生物観察会」(2007年)親子や一般の方から集まった多くの「写メ」画像。皆さん楽しんで調査に協力してくれました。Rana nigromaculataRana porosa porosaRana porosa brevipodaトノサマガエルトウキョウダルマガエル松本盆地● トノサマガエル● トウキョウダルマガエル● ナゴヤダルマガエル信州大学伊那盆地ナゴヤダルマガエル今後の動態も追究する予定という。メ』を用いた生物調査は効率よく、経費を親子や一般の方から集まった多くの「写メ」画像。皆さん楽しんで調査に協力してくれました。あれば、データの精度も高い。多くの人に楽しみながら参加してもらえる方法だと思います」(東城准教授)トノサマガエル種群の主な分布長野県は3種群が生息するホットスポット「写メ」データが寄せられた地点と写真から判別されたカエルの情報安曇野市内からの情報提供が最多であった絶滅危惧II類(環境省)絶滅危惧IA類(長野県)準絶滅危惧種(環境省)諏訪湖392012.03.30 掲載

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