地域と歩む|信州大学地域戦略センター
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数年前から、水田の整備や減反により、各地でカエルの減少が叫ばれている。環境省のRDBでは、トノサマガエル種群のうちナゴヤダルマガエルは絶滅危惧ⅠB類に、トウキョウダルマガエルは準絶滅危惧種にリストされている。とくにダルマガエル種群では個体数の減少ばかりでなく、トノサマガエルとの交雑がおき、純粋な遺伝的形質が失われる可能性も出てきている。トノサマガエルが勢力を伸ばしてきたのだ。日本でこれらの3種が揃って生息しているのは、長野県のみ。トノサマガエル種群3種がいるのは長野県のみ東城研究室では、2008年、当時3年生だった小巻翔平さん(広島大学大学院博士課程)が3種の交雑や分布状況を把握する研究を始めた。分布状況を知るために、できるだけ広範囲から多くの情報を集める必要がある。そこで東城准教授が考案したのが、一般の人々から「写メ」を使って情報を提供してもらう市民参加型の調査だった。2009年、研究室ではさっそくチラシを作成し、配布。2010年の春から秋にかけて「写メ」を受けながら調査が行われ、92件の情報が寄せられた。その多くは男子小学生とお母さんで、親子が一緒に楽しみながら調査していた様子が伝わってきたという。安曇野市民の参加協力者も多く、中には小学校の先生がクラスの子ども達と一緒に取り組んでくれたりもした。調査結果は、安曇野を含む松本盆地で、トウキョウダルマガエルとトノサマガエルが生息し、トノサマガエルが川沿いに北に進出していく状況が見られた。伊那盆地ではナゴヤダルマガエルとトノサマガエルがほぼ重なって分布しており、ナゴヤダルマガエル単独で生息しているエリアがほとんど見られない状況だった。30年前と比較すると、トノサマガエルの勢力が拡大している。遺伝子解析の結果、交雑もかなり進んでいることが明らかになった。特に伊那地域のナゴヤダルマガエルは深刻な状態にある。この研究成果は国際誌に掲載予定だ。(『Zoological Science』2012年6月)。研究室では数年後にも同様の調査を行い、トノサマガエルは、川沿いを北進中。ナゴヤダルマガエルの生息状態は深刻※RDB:レッドデータブック。 絶滅が危惧される生物の 情報をまとめたものトノサマガエルトウキョウダルマガエルナゴヤダルマガエル安曇野市には、こんこんと水が湧き出る湧水群がある。南北に流れる犀川は、北アルプスに源を発し、中央アルプス、乗鞍、美ヶ原の山系から水を集めている。多様な生物が生息するこの辺りは、信州大学理学部生物科学科にとって重要な調査研究エリア。教員・学生共に地元との関わりを深めている。安曇野各地で講演会・観察会などを行っているNPO法人「川の自然と文化研究所」は、構成員に信大関係者が多く、今年度より始まった安曇野市レッドデータブック(以下RDB)作成の中心的な役割を担っている。東城幸治准教授もその一人だ。東城研究室で行われたユニークで新しい手法、携帯電話の画像送信サービス(*俗語で「写メ」)を取り入れたトノサマガエル種群調査を中心に、これらの活動をご紹介する。東城准教授の机。トビゲラやトンボなどのサンプルが所狭しと並ぶ。(文・中山 万美子)水生生物の調査・保全活動からRDBづくりへ筑波大学大学院博士課程生物科学研究科修了。1999年同生物科学系準研究員。2002年科学技術振興事業団科学技術特別研究員、日本学術振興会科学技術特別研究員。2004年信州大学助手。2012年同准教授。研究分野は進化生物学、系統分類学、比較発生学。東城 幸治 准教授とうじょうこうじ信州大学 理学部生物科学科 進化生物学カエル調査に市民が「写メ」で協力*調査結果は、安曇野を含む松本盆地で、トウキョウダルマガエルとトノサマガエルが生息し、トノサマガエルが川沿いに北に進出していく状況が見られた。伊那盆地ではナゴヤダルマガエルとトノサマガエルがほぼ重なって分布しており、ナゴヤダルマガエル単独で生息しているエリアがほとんど見られない状況だった。30年前と比較すると、トノサマガエルの勢力が拡大している。遺伝子解析の結果、交雑もかなり進んでいることが明らかになった。特に伊那地域のナこの研究成果は国際誌に掲載予定だ。(『Zoological Science』2012年6月)。研究室では数年後にも同様の調査を行い、トノサマガエルは、川沿いを北進中。ナゴヤダルマガレッドデータブック※四38多様な生き物たちが育まれる安曇野で─①信大NOW No.74地域と歩む。

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