地域と歩む|信州大学地域戦略センター
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年間約600万m3の地下水が今も失われている。東京ドーム約5杯分だ。水資源の保全・活用の全国モデルを「安曇野的」水資源の問題農業衰退とともに進む地下水の減少地下水の保全と活用で地域活性化安曇野の豊富な地下水の保全と活用に関する極めて重要な調査・研究が「安曇野市地下水保全対策研究委員会」で行われている。犀川・高瀬川・穂高川の三つの川が合流する地点(三川合流部)に湧き出す地下水は名水百選にも選ばれた日本を代表する名水。水道水のほとんどを地下水に依存する市では地下水は生命線でもあり、観光・文化・生活・産業すべての面において安曇野のシンボルでもある。しかし、宅地化の進展や転作による水田の減少等の影響を受け、地下水位は確実に低下している。この地下水の保全と活用の研究で同委員会の会長も務め、調査・研究を牽引する、工学部の藤縄克之教授に聞いた。「今年2月23日に安曇野市の地下水保全対策研究委員会は中間報告書を答申しました。これを基にして、安曇野市には水資源の保全と活用に関わる様々な施策を提案させていただこうと考えていますが、それは全国でもトップレベルのものになるだろうと期待しています」―同研究委員会の会長を務める藤縄教授は力を込めて話した。平成22年の発足時から会長を務める。安曇野では豊富な地下水がこんこんと湧出する。市の水道の93%に地下水が利用され、人々の生活を支える、名物のワサビや信州サーモンを育てる。ペットボトルに詰められて、広く全国でも販売され、今や海外からの注文が来るそうだ。そして、重要な観光資源として人々を魅了してもいる。その経済価値は控えめに見積もっても年間で987億円に上るとの試算もある。ところが、その安曇野の地下水が、昭和60年から平成19年までの21年の間に、毎年、概算で平均600万㎥(東京ドーム約5杯分)ずつ減少し続けているのだという。安曇野市と市民の危機意識は強い。「同じ水資源の問題といっても、安曇野と他所とはかなり意味合いが違う」と藤縄教授は言う。長野県内でも軽井沢や佐久地域などで水資源の保全が問題になっているが、それらは外国資本によって水源地の森林が買収されることによって生じている。一方、安曇野市の場合は地下水そのものが減少しており、それを元に戻し、さらに活用の道を広げることが喫緊の課題だ。前者は「規制」が対応策の柱だが、後者では市民参加の「保全」と「活用」が柱になる。その展望と方法を探るのが藤縄教授たちのミッションというわけだ。安曇野市の地下水が減少傾向にある第一の要因は、農地の宅地化や転作などによる水田の減少にあると藤縄教授は指摘する。安曇野の地下水は、もともと水田の水が地下に浸透して溜まったものが多いが、この水田が、稲作農業の衰退により、減少傾向にある。地下水の問題は、景観の問題、つまり人々の暮らし方の問題と密接に絡み合っているというわけだ。第二の要因は、年間降水量の減少と、雨の降り方の変化。「ゲリラ豪雨」ともいわれるように、近年多くなっている短い時間に一挙に降る雨では、雨水が地表部を勢いよく流れ下ってしまい、地下に浸透する量が豊富な地下水で拓け、安曇野の未来―地下水の保全と活用で共存共栄を―減るという。そして第三の要因は、地下水への依存度の高さ。特に、松本盆地の北側の市町村では、水道の取水源区分で、安曇野市が93%、池田町・松川村が100%地下水に依存している。さらに「名水」を汲み上げて売るミネラルウォーターの生産量の増大も大きな影響を与えている。藤縄教授ら研究委員会が中間報告に盛った、地下水の保全と活用のための具体的な取組み策は二つの柱を持つ。一つ目は地下水資源を強化するための取組み。水田の水源としての重要性の解析を踏まえ、転作田や休耕田に水を張ることはもちろん、耕作田でも冬期にも水を張ったり、代かきを早めたりする取組みを強化することを訴えている。また、農地以外でも、市民の節水とともに、雨水の地下への浸透を高める様々な取組みを提唱している。他方、二つ目には、地下水を活用した安曇野ブランドの確立と持続的向上を目指す社会システムの構築と地下水保全のための資金調達に関する取組みである。「地下水の問題は、その地域の産業や暮らしのあり方に関わる問題であり、文明のあり方を問い直す問題なのです。1次産業の繁栄なしには国の繁栄はありえない。その原点に立ち返るべきことを、地下水の重要性を通じて訴えたいですね」。藤縄教授の言葉は力強かった。信州大学 工学部 土木工学科教授、農学博士。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科博士課程単位取得満期。1977年農林水産省農業土木試験場研究員、1989年信州大学教養部教授、1995年信州大学工学部教授。信州大学 工学部土木工学科藤縄 克之 教授ふじなわかつゆき(文・毛賀澤 明宏)地下水利用負担額の算出方程式(藤縄案)/藤縄教授は、地下水資源強化のための資金調達に向け、こんな方程式も編み出し提案している。地下水がある範囲地下水が失われた範囲地下水が元々ない範囲部分21年間で1.25億m3の地下水量減1年間で600万m3の地下水量減372012.03.30 掲載

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