地域と歩む|信州大学地域戦略センター
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地域ブランド研究会の研究大会の後半では、「安曇野景観と安曇野の水を守る」をテーマにパネルディスカッションが行われた。話題提供は、景観の保全・形成の現場で奮闘される安曇野市役所建築住宅課建築景観係の井口寿彦さん。2011年3月に制定した安曇野市景観計画について、「山岳と田園の育むよさを大切にし、暮らしやすさをみんなで共有できるまち」を実現することを趣旨としているなどと解説した。これを受けて、関西学院大学教授の渡辺勉(元信州大学人文学部准教授)さんのコーディネートのもとで、活発な意見交換となった。上条さんは、地下水の保全と利用を促進するために、そのための費用を市民の応分の負担によってまかなうシステムづくりが重要だとし、景観保全に関しても同じだと訴えた。※1等々力さんは、なにより、地域の人々が地域のことについてもっと関心を持ち、知らないといけないと強調。地域にあるものを深く知れば、それを大切にしなければならないと思うはずだと強調した。村山教授は、もともとの安曇野の景観とは何だったのか、何が素晴らしかったのか―という原点をはっきりさせ、その共通認識を広げることが大切ではないか、地下水についても、安曇野の水利用の歴史に戻りつつ、現在において、どのような利用方法が適当かを考えるべきだとした。中野さんは、景観にせよ水にせよ、なくなったら何が困るのかの危機意識と、自分たちは何ができるのかの可能性認識について、市民的合意を図ることが重要だと話した。中野 康人氏関西学院大学社会学部教授2010年安曇野市で実施した調査に基づくと、安曇野市の市民は、自然や緑に関しては肯定的な評価を持つ一方、建物や施設のデザインや歴史的景観の維持については中立的な意見が多い。「安曇野」という地域名称はもともと文学の文脈で言われるようになったもので、代表的なものが臼井吉見の小説『安曇野』です。しかし、もとを質せば明治の終わりに、国木田独歩が書いた「武蔵野」を意識して『安曇野』について語った人がいました。現在の塩尻市出身の吉江喬松という早稲田大学の仏文学の教授だった人で、「武蔵野の優婉な趣き」に対して「安曇野の荒漠雄大なる風致」を讃えています。もう一人は地域の研究者だった胡桃沢勘内(平瀬泣崖)という人で、松本平を東の筑摩野と西の安曇野に分け、安曇野の特徴を、威圧するような大自然の雄大さにあるとしています。どちらも、共通する安曇野の景観、原風景を指摘していると思います。安曇野という地域は、その魅力ある景観に特徴があり、文学・歴史学・社会学・民俗学…つまり人文科学的な知の関心の対象なのです。この地の人々の暮らしや歩みが、地域コミュニティやまちづくり、景観形成やブランド構築など、多様な研究の素材を提供してくれました。現在、共同で研究している景観と水の問題も、現代における最もホットな問題であり、ぜひ、安曇野からまとまった展望を提示できるように、力を合わせて進んで行きたいと思います。■パネリストとそれぞれのプレゼンテーション等々力 秀和氏安曇野案内人倶楽部ガイド活動の中で景観とは歴史的に形成されてきたもので、この地にないものを持ってきても位置づかないと感じる。古いものを維持するべきだが、それは皆個人のものである点が難しい。上条 和男氏㈲就一郎漬物本舗代表取締役安曇野市地下水保全対策研究委員の一人だ。安曇野の地下水は減少傾向にある。地下水は誰のものなのかについて議論しながら、地下水を保全し、有効に活用する方法を皆で探っていきたい。村山 研一信州大学人文学部教授日本における景観問題は1963年の鎌倉の鶴岡八幡宮の裏山開発が出発点。私有財の開発を規制する根拠は何かが議論を呼んだ。安曇野の景観や地下水の保全についても同じことが問題になっている。渡辺 勉氏関西学院大学教授パネリストの様々な視点からの問題提起があった。景観にせよ地下水にせよ、私有財である物を規制したりする際の正当性や合意形成の問題、さらにそれを支える根拠について議論したい。※1 安曇野市地下水保全対策研究委員会が答申を出した中間報告書については本誌6Pで同委員会の会長を務める工学部藤縄教授の解説で紹介する1978年東京大学大学院、社会学研究科修了、1978年信州大学人文学部講師、1980年信州大学人文学部助教授、1992年信州大学人文学部教授、2008~2009年信州大学理事、2009年信州大学人文学部教授■コーディネーター安曇野は人文科学の力が試される理想のフィールド安曇野との地域ブランド研究の先頭に立つ人文学部 村山 研一教授パネルディスカッション村山 研一 教授やまむらけんいち信州大学人文学部PROFILE安曇野景観と安曇野の水を守る「安曇野」という地域名称はもともと文学の文脈で言われるようになったもので、代表的なものが臼井吉26352012.03.30 掲載

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