地域と歩む|信州大学地域戦略センター
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樹林を作っていきたい。そのためには、周囲に残されている自然林を参考にし、これに類似した樹種の組み合わせを目指します。そのためには,植栽に加えて森林の自然再生力をも活用します。お城にふさわしい景観を持つ林を造成したいですね」また、公園内にある木を文化財に指定するという試みも進行中だ。岡野教授は「このモミの樹齢は確実に100年を超えています。健康で、真っ直ぐに伸び、腐ったり、枝が枯れたりしていない。その姿の素晴らしさはもちろん、厳しい冬にも葉が枯れ落ちることのない常緑樹は繁栄を意味し、お城と共存してきたと考えられます。その歴史を考えると、文化財として相応しいものであると思います」と語る。佐々木邦博教授は造園学を専門とし、快適な住環境のための庭園や、暮らしの場の近くで人々が集う公園、さらに里山、自然公園のレクリエーション利用、優れた緑の景観や環境を保全し、育むための研究も行っている。 「江戸時代にはすでに現在の公園のような役割を持つ『遊観所』があり、松や桜、楓を植え、桜の季節には人々はお弁当を広げ、酒盛りをし、今よりもっと華やかにお花見を楽しんでいました。例えば、花見の席では武士や農民などの身分の区別はなく、お互いに誰だかわからないように、仮面を付けて宴席に興じることもあったのです」。年に1度の桜の季節は、その魅力と魔力に酔う、日常とはかけ離れた時間だったのだ。「明治6年に政府が出した太政官布告第16号は『公園という制度を発足させる』というものでした。それにいち早く応じたのが、この高遠城址公園です。それまでのお城は役所と同じで、庶民が出入りできるところではありませんが、廃藩置県により高遠城は取り壊しになり、自由に入れる場所になりました。荒れていた城跡に旧藩士たちが中心となって、桜を植え、太鼓楼を移築し、公園として整備していきました」「歴史を深く理解し、大切な史跡を保存した上で、公園として、多くの人が『史跡に親しみ、楽しみ、学習できる』ようにすることが、私の役割だと思っています。例えば、二の丸や本丸の門の部材が保管されているので、それを参考に一部を復元したり、本丸の周囲に一部残っている土塁を復元したり。かつての本丸の御殿があった場所がわかるように園路のルートを変えるなど、工夫して整えていこうと考えています」「高遠」の名を広く知らしめた「天下第一の桜」。これはエドヒガンとキンキマメザクラの血統を継ぐ「タカトオコヒガン」という品種で、ソメイヨシノより花はやや小さいが、桜色が濃く、鮮やかなのが特徴。高遠藩の馬場にあった桜を旧藩士たちが移植したものがはじまりだ。今では1500本にもなり、満開の時には公園全体が桜色に染まる。森林生態学、造林学が専門の岡野哲郎教授は、その桜や、公園の林とその周辺の森を、樹木の生活史や成長過程、植生構造、更新動態などの視点から観察し、公園内の林を「自然再生力を活用した植栽にすること」をめざす。 「例えばカラマツ人工林は、本来お城にはない林。ですから、それを伐採し、近自然の今回、取材のアテンドを頂いた伊那市の担当者、大澤さんは本学の卒業生であり、笹本教授の教え子でもある。計画策定のための事務局案の作成、会議開催など計画全体の管理や、国や県とのコーディネートを行う。高遠と信大の繋がりは、高遠藩の学問所であった「進徳館」(のちの高遠学校)の書籍が、信大(長野県師範学校)へ移された明治時代に始まる。その4473冊は140年の時を超え、平成14年に信大が高遠町に永代貸与している。「町民やすべての研究者が活用できるようにとの目的で、信大から里帰りし、高遠町図書館で読むことができます。高遠町と深い繋がりがある母校の先生方と共に、町のシンボルである城跡と桜を、守り育むことができることを、とてもうれしく思います。桜の名所としては有名ですが、城跡としての認知度は高いとは言えないので、多くの方が訪れたくなるよう、魅力ある城跡として整えていきたいです」と大澤さん。確かな力に、若い感性が加わり、歴史に残る取り組みが生まれることだろう。史跡に親しめる、工夫ある公園をめざして周辺の自然をお手本に、「城らしい林」を再現信大と力を合わせ、「城跡」としても魅力あふれるものへかつての本丸の御殿があった場所がわかるように園路のルートを変えるなど、工夫して整えていこうと考えています」1974年信州大学人文学部文学科卒業。1977年名古屋大学文学研究科博士課程前期修了。1977年名古屋大学文学部助手。1984年信州大学人文学部助教授。2008年人文学部学部長補佐。2009年10月副学長。伊那市教育委員会高遠長谷教育振興課文化財係長野県安曇野市生まれ、平成13年3月信州大学人文学部卒、高遠町役場に入庁、教育委員会で文化財保護業務にあたる。市町村合併を経て、伊那市現職。趣味は旅行。笹本 正治 教授(広報・情報担当副学長 信州大学・附属図書館長)ささもとしょうじおおさわかずこ信州大学 人文学部人間情報学科 地域文化変動論1983年岩手大学卒業。1987年九州大学博士課程(後期)中退/1987年九州大学助手。1998年同大助教授。2004年信州大学農学部。信州をはじめ、伊豆七島御蔵島や北海道十勝の森にも調査に出かける。岡野 哲郎 教授おかのてつお信州大学 農学部森林科学科 山地環境保全学(写真左より)1979年京都大学文学部文学科卒業。1985年京都大学大学院農学研究科修了。日本都市計画学会等に所属。研究分野は造園学、主に史跡公園の整備と活用などを研究。「庭園史を歩く」(昭和堂)など著書多数。作者不明 「高遠城外郭図」 年代不詳伊那市立高遠町図書館所蔵二ノ丸門、不明の門、三ノ丸武家屋敷等の様子が描かれている。佐々木 邦博 教授ささきくにひろ信州大学 農学部森林科学科 緑地環境文化学史跡と公園のあり方について提言する佐々木邦博教授公園内の「銘木」について語る岡野哲郎教授ライトアップされ幻想的な桜(桜雲橋とお堀付近)大澤 佳寿子さん292012.01.31 掲載

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