地域と歩む|信州大学地域戦略センター
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酵素を活用した加工技術の実地研修をした工学部天野良彦教授信州各地の伝統野菜と地域おこしについて話した農学部大井美知男教授40年に及ぶ経験を基に農村加工について話した小池芳子氏(小池手造り農産加工所会長)これに比して、第2期は、「応用編」と位置付けた関係もあり、より明確に農商工連携のキーパーソンや6次産業化のコーディネーター、直売・加工事業の牽引者になることを意識的に目指す受講生が多かった。そして、受講生が、農水省認定の長野県6次産業化プランナー(4人)の1人として活躍していることに象徴されるように、「応用編」にふさわしく、次世代リーダーの育成に大きな成果を得ることができたと言えよう。受講生が、研修修了後ただちに―いや、研修中からも―、それぞれの持ち場で新たな実践的試みを開始できたのは、受講生の目指す課題が明確であったからである。だが同時に、直売所学校の研修プログラムがきわめて実践的だったことによるところも大きい。実際、本事業では、この種の人材育成事業にありがちの農業経営学や農業経済学、また加工学やマーケティング理論などの座学による研修にとどまることなく、長野県の活発な直売所や加工所の現場の経験に学ぶことを心がけた。県内各地の直売所8カ所の客層分析や店舗運営の評価・検討を行い、運営者と意見交換をする実地研修にも取り組んだ。農産加工については、「農村受託加工」というビジネスモデルを初めて構築した下伊那郡喬木村の小池芳子氏の経験に学んだ。そしてそれを基に、新たな展開をもたらす可能性が高い酵素技術を応用した加工法を工学部天野良彦教授から指導してもらい、実際にそれを活用した試作品も作った。受講生の中の有志は、課外活動として、この試作品を実際に商品化して、テストマーケティングまで行ったメンバーもいたのだ。その他、伝統野菜や特産トウモロコシを活用した農業振興、伝統文化を活かした地域づくりの視点などを信州大学の教員が話し、受講生の取組みの質的高度化に資した。新商品開発、地域振興の戦略構想、直売所ネットワーク形成の必要と方向性などについても、長野大学、松本大学、首都圏在住の専門家などを招いて研修した。農商工連携・6次産業化に関わる実践と理論。この両者を融合し、実践に理論を適用することで実践の高度化を図り、理論を実践で検証することによって理論の高度化を図る―このようなプログラムの構成が効果を発揮したということができよう。信州直売所学校のもう一つの特性は、この人材育成事業の場そのものが、農・商・工の、そして産・学・官の新しいネットワーク形成の場として大きな役割を発揮したことである。先に述べた工学部天野教授の下での加工技術の研修は、加工の新技術を求める人々の新たなつながりとなって動き始めている。伝統野菜や在来品種の選抜に関わる農学部大井美知男教授や松島憲一准教授の講義は、地域資源開発と地域おこしの新たな連携の輪を広げている。また、受講生の中の障害者福祉に関わるメンバーが直売所や加工所との連携を広げたり、同じく受講生だった農業高校の教員の方々が、県内大学の教員とのつながりや、地元農家や直売所との協力関係を構築したり―というように、受講した一人ひとりが様々な人的ネットワークを広げ、活躍の領域を拡大して行ったのである。もちろん、その輪は、第1期の修了生にも広がり、第1期、第2期合わせて総勢80人の修了生を核にして、新たな胎動が生まれようとしているのである。このような実践的なネットワークの形成が可能になったのは、そもそも、本人材育成事業の推進に当たり、信州大学を中心にして、長野大学や松本大学(松商短期大学部)の教員等が参加し、長野県、長野県産直直売連絡協議会、JA長野中央会という関連諸機関が共同して運営委員会を構成してきた、その連携の力が深部にあったからに他ならない。こうした成果を教訓と引き継ぎ、信州直売所学校はさらに新たなステップアップにむけて準備を進めている。直売所客層調査実践と理論―融合の独自プログラム直売所学校がネットワーク形成の場信州直売所学校、2年間の軌跡232012.03.30 掲載

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