地域と歩む|信州大学地域戦略センター
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大町市と信州大学の連携の一つの柱を構成するのが、日本最先端の多角的な山岳研究の分野だ。その歴史は古く、昭和33年、針ノ木岳自然園の開設のための基礎調査を4月から10月まで信州大学が協力したことに端を発する。以来、特別天然記念物ライチョウの保護・飼育に関わる取組み、高瀬川電源開発にともなう環境変化の調査・研究―などを共同で行ってきた。大町市と信州大学との包括的連携協定締結への道筋をつけたのが、この山岳研究の分野だと言っても過言ではなかろう。同協定締結をステップにして、平成22年からは、小坂共榮名誉教授(前副学長)が山岳博物館専門員として地質関係の分野を担当するほか、山小屋研究、山岳気象観測などで、新たな共同研究を進めている。本年(平成23年)4月~6月には、大町山岳博物館創立60周年を記念して、同博物館と信州大学山岳科学総合研究所が協力して連携企画展「山岳を科学する2011」を開催。登山愛好家、自然環境問題に関心のある方、一般市民や学生・生徒等多くの見学者が訪れた。特に、信大の研究者たちが実際に使う捕虫網や測量器具などの展示が、「普段は触れることのできない自然科学者の仕事ぶりを垣間見られる」と好評だったという。また、期間中に5回に分けて開催された鈴木啓助所長をはじめとする5名の研究所教員による講演会も、毎回大勢の参加者を得て大好評であったと聞く。大町山岳博物館の宮野典夫館長は次のように語る。「大町市は北アルプスの山麓の街。山岳を研究し、学習するのに最適なフィールドです。その地で地域の博物館と信州大学が共同して研究・教育活動を展開できることは素晴らしいことだと思います。60周年を記念しての連携企画展では、信大が持つ高度な専門的研究内容と、当博物館が持つ展示・解説・教育のノウハウを、相互補完的に活用することができ、山岳研究・教育の新しい時代を拓く扉が開けたような気がしています」。連携企画展では、北アルプスの山小屋を通じて山の建築史や登山史を再発掘する研究もあった。信大山岳科学総合研究所の一員で、ともに工学部建築学科の土本俊和教授と梅干野成央(ほやの しげお)助教が進めるもので、日本では初めての分野の研究だ。「山岳は近代になりアルピニズムが普及する中で拓かれてきましたが、その中で、どこに、どのような山小屋の建物が、どのようにして建てられてきたのか?―を調査・研究することで、アルピニズムの普及以前から営々と続く、山岳と人間との関わり合いの歴史が浮かび上がってくると思うのです。」梅干野助教はこう語る。登山のガイドブックの山小屋紹介のようなものはこれまでもあったが、山小屋の構造を計測・記録し、地形や使用されている資材、現在に至る経緯などとの関係で調査・研究したものは、今までには日本にはなかったという。これまでの調査研究で、日本の近代登山普及に影響を与えたウォルター・ウェストンが明治24年から5回にわたり山行した島々から上高地に至る登山道で、ウェストンが宿泊・休憩した場所は、それ以前から山仕事等のために地元の人々が小さな小屋を建てていた場所であることが分かってきた。「私たちが目にしている景観は、実は、古から人々が山岳で育んできた文化を基盤にしているのです」と梅干野助教は力を込めた。この山小屋の研究について、大町山岳博物館側の担当者である清水隆寿学芸員は「これまでの登山史研究では重視されていなかった山小屋の建築に初めて焦点を当てた画期的な研究です。その研究成果も活かされて上高地の徳本峠小屋休憩所や同じく嘉門次小屋囲炉裏の間などが国の登録有形文化財に登録されることが決まりました。登山や山小屋への見方を大きく変える力を持っていると期待しています」と話す。鷹の目と蟻の目で森を見る(加藤正人氏ら)雪が語る山の環境(鈴木啓助氏)上高地の生い立ちを探る(原山智氏、河合小百合氏)水生昆虫のすみわけとDNA(東城幸治氏)DNA塩基配列の決定法(上田昇平氏)南北アルプスの稜線とお花畑の蝶(中村寛志氏)山のタテモノをはかる(土本俊和氏、梅干野成央氏)登山と体力―インターバル速歩で登山力をアップ―(能勢博氏)などカモシカの展示の前で宮野 大町山岳博物館長梅干野助教/山小屋調査で作成したフィールドノートを手に。や  まや  まや  ま[( )内は信大山岳科学総合研究所の担当教員]■連携企画展の主な展示内容山岳を科学するや   ま山小屋も山岳景観の重要なポイントになっている北アルプス(写真提供:梅干野助教)国の登録有形文化財に登録されることが決まった嘉門次小屋囲炉裏の間(写真提供:梅干野助教)日本最先端の山岳研究 山岳博物館創立60周年で連携企画展山小屋に見る山岳建築の歴史 建築文化・景観形成の視点から弐18大町市と進める“岳のまち”づくり信大NOW No.71地域と歩む。

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