地域と歩む|信州大学地域戦略センター
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の産出帯(本州で最大)周辺に連なっている。黒曜石とは、溶岩が急速に冷却してできた天然ガラスのような石で、割れ口の縁が鋭利な刃に加工できる。縄文人たちは、石器を作るのに最適な石材=黒曜石が取れるこの地を生活のベースとし、たくさんのムラをつくっていたのだ。ここから持ち出した黒曜石の矢じりなどの石器は、関東や遠く青森の遺跡でも見つかっているという。ほかにも、「飯田市竹佐中原遺跡では、人類が日本列島に渡ってきた最も古い段階の生活の痕跡や石器が見つかっています。また中野市柳沢遺跡で発見された(2007年)弥生時代の青銅器は、日本列島の青銅器文化の定説をも書き換える発見であったといわれています」(大竹憲昭さん:長野県埋蔵文化財センター調査部長)等々、長野県は、古代の文化が身近に感じられる土地柄なのだ。発掘調査の多くは、開発のために行われる。公共事業の場合、発掘調査、整理作業、報告書作成費用は、すべて税金で賄われるが、多くの遺跡は調査後に破壊されてしまう。残るのは遺物と発掘調査の記録類、そして「発掘調査報告書」のみだ。ところが報告書は、残念ながら300部ほどしか刷られていない。文化庁、国立博物館、主要な図書館、都道府県や市町村教育委員会等々に配布されると、一般には流通されない、手に入りにくいものとなってしまっている。このままでは、古代のメッセージが、一般市民までなかなか届けられない。それを解決し、広く多くの人々に届けてくれるのが「遺跡資料リポジトリ」だ。パソコンがあり、インターネットが見られる環境さえあれば、キーワードで多数の報告書を簡単に検索して見たり、ダウンロードし、印刷することもできる。昨年秋に日本考古学協会が5万6千冊余りある蔵書をイギリスの研究機関に寄贈しようとしたところ、会員からの反対運動で寄贈については、いったん白紙に戻されたという話があった。そもそも蔵書の保管場所、保管のための多額な費用に窮していたことから発生した問題だった。北裏遺跡群 木棺墓の調査 (長野県佐久市)遺物を洗う写真提供:長野県埋蔵文化財センター土器を接合し、復元する「遺跡資料リポジトリ」が果たす役割には、公開と同時に資料の保存もある。古い資料であればあるほど閲覧要望も高いが、電子資料ならば閲覧や保管のためにスペースをとることもなく、閲覧のための劣化もないから保存と活用には矛盾がない。さらに大竹さんは世界へ通じる道について期待を寄せている。「2009年、イギリス大英博物館の企画展で日本の縄文時代の土偶展を行い、1ヶ月余りの期間に8万人の観覧者がありました。私も昨年イギリスに行き、日本の縄文時代を始めとした先史・原始時代に諸外国の方々の関心が非常に高いと感じましたが、日本の情報が手に入らないと、皆さんが口をそろえて言います。遺跡資料リポジトリは、現段階では日本語のままですが、長野県の、日本の考古資料情報が世界に発信できるという点でも大きな期待を持っています」現在の調査報告書は、やや難解な部分もあってなじみにくい面もあるが、研究者でない閲覧者が増えることで、わかりやすい調査報告書へと工夫されていく可能性もある。今後より多くの資料の掲載、参加地域の増加へと、さらに充実したリポジトリが構築されるよう期待が高まっている。古代のメッセージを埋もれさせないためにより多くの報告書の保存、そして世界のだれもが手にできる文化財へ。歴史を学ぶということは、言い古された言葉ですが「温故知新」だと思っています。縄文文化は日本の文化のルーツ、現代社会や日本人の特質を考える上の基層文化です。その情報は、遺跡の調査報告書が原点。誰もが、直に遺跡調査報告書という原書に触れやすくなるリポジトリは、大歓迎すべきもので、研究者にとっても大切なことです。また私のところにも多くの報告書がありますが、研究者が持ちきれず、保管場所の確保も難しくなれば、今後さらに電子化の存在価値は増していきます。専門誌、調査報告の掲載された学会の機関紙などのバックナンバーを揃えて掲載してもらえると嬉しいですね。継続性ある事業であること、より多くの貴重な古い報告書が掲載されることが期待されます。学会も資料提供の呼びかけなど協力していきたいと思います。継続が存在価値を高める、リポジトリ長野県考古学会 会長 会田 進発掘調査報告書152011.09.30 掲載

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