繊維学部_感性工学課程
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今、私たちは“モノ(=ハード)”の世界に生きているといっても過言ではありません。この“モノ”の世界では、生命の躍動や変化する自然の移り変わり、人が住み暮らしてきたことで築かれた歴史・・・など、ソフト面、いわゆる“心”をベースとしたものは棚上げにされていると言えます。その根底にあるのは、人々を一人ひとりの人間存在として捉え、心を考えるのではなく、人間集団として全体を俯瞰し、数字で把握する視点であると私は考えています。人間集団の視点は、荒っぽい言い方をすれば、“心”を捨てる考え方。その先には、地域コミュニティの希薄化、地方の地盤沈下、家族の個人化など、現代のさまざまな社会課題が生まれましたが、それに対して、“物質的豊かさ”を享受することもできました。私たちの衣食住のレベルは格段に向上し、そして、現在、世界一ともいえる豊かな社会が築かれるまでに至ったのです。しかし、そのような社会の中に生きる私たちは感じています。「便利で、安全で、清潔で、刺激的で・・・、そのようなモノはたくさんあるけれど、何か、充たされないものを感じる」と。なぜなら、やはり、私たちは“心を持つ”人間に他ならないからです。だからと言って、決して過去に返ろうということを言うつもりはありません。過去の地域コミュニティを復元する、家族をもう一度立て直す、という視点ではなく、新たな地域コミュニティを、新たな家族の姿を描くということが重要です。現在社会を越えて、一段高いステージへ私たちは進まなければならないと私は考えるのです。“生きる人間”、それをもう一度社会に取り入れ、組み込むことを目指し、明日に向けて、感性工学に関する研究活動をしているのです。具体的には、下記、3つの軸からの研究を展開しています。❶こころのしくみを知る(感性の生じる源としての脳ならびに感覚器官の生理的機能と感情・情動の問題を究明します。)❷こころの形を学ぶ(芸術的表現法や人と人や、人やモノとのやりとりを科学的に解明し、優れた対話型デザインシステムを研究します。)❸こころの喜ぶものをつくる(感性材料学、感性造形法、快適製品評価法など、豊かな暮らしをサポートする感性製品を研究します。)この3つを軸に、それぞれにおいて多様な研究者が日々懸命に取り組んでいます。“感性”という新たな価値を創出していくこと、それは、“モノ(=ハード)”の次の世界を拓く大きな挑戦ともいえるでしょう。すなわち、それは、『人間復興』への歩み―、新しい時代を拓いていくために、私たちは広く社会のさまざまな皆様と協働して進み続けていきたいと考えています。今までの世界で失われてきたものを、取り戻していく。05

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