2013繊維学部研究紹介
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バイオマスの育成から利活用まで、植物ゲノム工学とバイオリファイナリー石油、石炭は、大昔の植物バイオマスから変化したもので、燃料、繊維、化成品の原料となっています。これらの製品は、バイオマスからも作ることができ、バイオ燃料、バイオファイバー、グリーンケミカルと呼ばれています。これがバイオリファイナリーです。再生可能なバイオマスの育成から利活用まで、世界中で技術開発が進められています。企業では、バイオマス育成のための組換え技術の開発から、バイオ燃料の石炭火力での燃焼試験まで幅広く技術開発を担当してきました。大学の強みは長期的展望に立った調査研究であり、ファイバーを主軸としたバイオリファイナリーの将来予測と、バイオマス改良の基盤となる植物ゲノム工学技術の研究に取り組みます。バイオマス植物の生産性や病害虫耐性などの特徴はゲノム上の多数の遺伝子が支配しており、交配と選抜により改良がなされてきました。現在の遺伝子組換え技術では、数個の遺伝子を操作しゲノム上に無作為に追加することしかできません。当研究室では、独自に開発したSDI、CSEベクターを用いて、遺伝子の交換と染色体の除去によりゲノムの自由な改変を可能とする植物ゲノム工学技術の開発を行っています。外来の遺伝子が残留せず、育種素材としての信頼性も担保でき、世界標準の技術としての普及を目指します。卒業生はまだ出していませんが、企業の研究現場での経験を活かし、ニーズに合った研究開発への取組み方の指導と、次世代のバイオマス産業の調査分析と将来予測を通じて学生にマッチする分野の探し方をアドバイスしていきます。海老沼宏安教授日本製紙グループ本社エネルギー事業部部長代理を経て2013年4月1日より現職。研究分野は、自由に植物のゲノムを改変する植物ゲノム工学と、次世代のバイオマス産業を目指したバイオリファイナリー。SDIベクターは、染色体上の狙った場所に正確に遺伝子を導入する技術です。再現性の高い遺伝子解析を可能とし世界標準技術としての改良普及を目指します。CSEベクターは、植物の染色体を自由に取り除く技術です。ゲノムを改変した個体は、育種素材としての利用価値が高く早期の実用化が期待されます。生物資源・環境科学課程応用生物科学系海老沼研究室研究から広がる未来卒業後の未来像玉田研究室シルクの新しい利用分野の開拓!再生医療用材料など医療分野への活用を目指してシルクは、繊維の女王として6000年以上前から利用されている優れた衣料用材料です。また、カイコという生物が生産する環境に優しい生物資源材料でもあります。シルクの衣料分野を超えた新しい利用技術の開発を中心に研究を進めています。絹糸は外科手術で傷を縫うときの糸として古くから現在も臨床で使用されています。また、最近の研究では、シルクから作った材料が、再生医療で細胞の足場として、良い性質を示すことが多く報告されています。研究室では、シルクの医療分野への活用を目標に、シルクの構造や性質を新たな観点で解析し、さらに、化学修飾、タンパク質工学、遺伝子組換え技術による機能性シルクの創出を目指しています。2012年のノーベル賞を受賞された山中先生のiPSにより、再生医療の実現が近づきました。しかし、細胞のみでは十分な再生治療が期待できない場合もあります。組織を再生する細胞を支える材料の開発も重要な課題です。シルクが、その材料の一つとして治療に貢献でき、われわれの研究が多くの患者さんの幸せにつながることを期待しています。シルクは医療分野のみならず、広い産業分野でも活用ができる可能性があります。それらを一緒に見つけませんか?工学・農学・医学という学際的、多彩な業種の業際的な分野の研究となりますので、卒業後は、多様な視点から課題を解決できる人材となって活躍してもらいたいと思います。玉田靖教授京都大学大学院卒業後、日本合成ゴム(現JSR)株式会社で研究員として勤務した後、蚕糸・昆虫農業技術研究所(現農業生物資源研究所)で、シルク利用研究に従事、2013年より現職。専門は、バイオマテリアル。生物資源・環境科学課程応用生物科学系研究から広がる未来卒業後の未来像カイコ(家蚕)(左)と繭(右)。カイコは、純度の高いシルクタンパク質を環境低負荷で効率良く生産するタンパク質製造工場ですシルクタンパク質(フィブロイン)100%から出来たスポンジ材料。現在、軟骨再生用、脊髄損傷神経再生用、難治性創傷保護治療用材料としての研究が進行中です。

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