2013繊維学部研究紹介
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光合成を模倣した人工的な仕組みづくり。ナノメートルの精度で色素分子と半導体層を積み上げる植物の光合成は、光エネルギーを化学エネルギーに変換する効率のよい仕組みを持っています。その中で、分子の位置の正確な制御と、効率のよい電子伝達の仕組みが特に重要です。宇佐美研究室では、光合成を真似た人工的な仕組みとして、光を吸収する色素と電子を伝える半導体をナノメートルの精度で積み上げた仕組みをつくり、その光化学反応を調べています。酸化物半導体をナノメートルの厚さで1枚づつ積み上げる方法は、「墨流し」と同じ原理に基づいています。空気と水溶液の界面を利用して色素と半導体をクーロン力で結合すると、色素と半導体を組み合わせた単分子膜が得られます。この組み合わせは多様なので、光化学反応や電子伝達に最適な組み合わせを探索しています。この手法は、高効率な反応場の構築に限らず、ナノスケールの複合材料を作る一般的な方法としても期待できます。宇佐美研究室では、ナノ薄膜の合成と光機能に関する上記の研究の他、実用化に近い応用例として、多孔質ガラスの細孔表面に酸化チタン薄膜を焼き付けた光触媒反応器を開発しています。この反応器では多孔質ガラスの内部を紫外線が通過し、反応器の中心まで光が届くので、濃厚で濁った溶液にも高い活性を示します。この反応器は、純粋な光化学反応の他、排水の水質浄化や植物工場の培養液浄化への応用も検討されています。また、生物系と物理系の研究者との共同研究により、珪藻のシリカ殻が持つ規則的なナノ構造が光の干渉効果を示し、光合成に適した光を捉える光学的機能を示すことを明らかにしました。光化学、生物学および物理学の境界領域に取り組むことにより、光合成を模した効率の高い光化学反応システムに迫ります。化学、電気、機械メーカー等に卒業生を輩出。材料化学工学課程では、環境とエネルギー問題の解決に寄与できる研究者、技術者の基礎知識を身につけるよう、3年次までのカリキュラムが用意されています。研究室では、身につけた知識を広く材料化学分野で生かせるよう未知の研究課題について卒業研究に取り組みます。研究室ゼミや共同研究により、境界領域にも果敢に取り組む姿勢を身につける環境づくりを心掛けているとのこと。先生は、「基礎知識をしっかりと固め、学んだ知識をフル活用して境界領域の宝物を見つけ出してみよう。」と学生を激励しているそうです。宇佐美久尚教授信州大学助手、助教授を経て、2007年より現職。研究分野は光化学と界面化学、光触媒反応器。材料化学工学課程化学・材料系研究から広がる未来卒業後の未来像クリーンブース内で色素-半導体単分子膜を製膜する。クリーンウエアに身を包み、丹精込めて合成した色素を製膜する緊張の瞬間試作した光触媒反応装置の活性評価試験。学生自身のアイデアを盛り込んだ装置の評価に熱が入る上田市浄水場から採取した珪藻の顕微鏡写真。光合成の仕組みにどこまで迫れるか宇佐美研究室木村研究室ナノテクで拓く機能性材料。生物構造の模倣による新しい機能発現生物は進化過程で優れた性能を持つ構造体を獲得しています。様々な反応を触媒する酵素や二酸化炭素を使った光合成などです。様々な機器の発達により、これらの生物構造体の詳細な構造が解明され、ナノメートルスケールで複雑な構造を持つことがわかっています。そこで、人工的にこれらの構造を模倣し、生体内での高効率なエネルギー変換および物質変換機能の構築について研究を行っています。具体的には、環境中で有害な物質の分解・微量な物質を検出できる化学センサ・シリコンを使わない太陽電池などの研究を行っています。化学を武器とし、電機や機械などの多分野との接点を持つ多面的な人材となることを期待しています。これまでに、化学・材料系メーカーを中心に、電機・機械メーカーにも卒業生を排出しています。木村睦教授平成二年筑波大学第二学群農林学類卒業、平成四年筑波大学大学院(環境科学専攻)修士課程卒業、平成七年信州大学大学院(工学系研究科)博士課程修了専門:機能材料化学ナノ構造材料を使うことにより、非常に低い濃度のガスを感知することができるようになります(人工嗅覚センサの開発)材料化学工学課程化学・材料系研究から広がる未来卒業後の未来像私たちの研究室では、生物構造を観察し有機および無機化学的合成手法を使った新しい機能性材料の創成について挑戦しています。ナノスケールの大きさを持つ環境浄化触媒、微量な化学物質を感知することができる高感度センサ、カラフルな太陽電池を実現する機能性材料について、研究を進めています。様々な元素を自由自在に操り、生物内に存在するナノ構造に近い構造を創り、さらに得られる材料の機能を詳細に解析しています。これらの材料は、これからの持続成長可能な社会構築のためのキー材料となります。

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