2012環境報告書
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2-2 環境研究工学部土木工学科地水環境工学藤縄 克之●1948年 富山県生まれ●1971年 京都大学農学部卒業●1977年 京都大学大学院農学研究科博士課程修了 農林水産省研究員●1981年 科学技術庁客員研究員 (オランダ・デルフト工科大学土質工学研究室)●1989年 信州大学教養部教授●1995年 同 工学部教授ふじなわ かつゆき教授 2011年11月15日、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から研究開発委託された、藤縄教授の「地下水制御型高効率ヒートポンプ空調システム」の実証実験プラントが工学部キャンパスに完成し、記者会見・設備見学会が行われた。年間を通じてほぼ一定の温度(14℃)を保っている地下水を制御し、効率よく冷暖房に利用する世界初のシステムである。省エネ効果が高く、環境への負荷も少ないと建設業界やマスコミから注目された。地下水の熱エネルギーを活用する高効率ヒートポンプ空調システム二層の帯水層を冷暖房に使い分ける冬でも約2倍、夏の省エネ効果が楽しみ実証実験プラントを見学するマスコミや関係業界の方々。この後の記念講演会には約100名が参加した実験プラントの中心となる新開発の水冷式ヒートポンプは、水温に応じて最適な運転モードが選択できる講義棟の廊下に設置されたモニター。地下水温や室温、運転モードなど、システムの状況がすべてここで確認できるプロフィールChapter:03 地下水を冷暖房に利用するシステムはこれまでにもあったが、地下水の動きを制御して、より効率を高めている点が新しい。具体的には、冷房用、暖房用と二層の帯水層を用い、冬は暖房用の帯水層から汲み上げた地下水の熱を暖房に利用し、温度が下がった排出水を冷房用の帯水層に戻す。この冬の実験では、約14℃の地下水は熱を奪われて9℃にまで下がったという。暖房用の適正温度より地下水温のほうが低いので、ヒートポンプの助けを借りて地下水から熱を取り出し、その熱で空調側の循環水を30数℃まで加温して暖房する。夏は冷房用の帯水層から汲み上げた地下水を利用するが、水温が低いのでヒートポンプを使わなくてもそのまま冷房に用いることができる。このフリークーリングにより、消費電力を大幅に削減することができる。そして温度が上がった排出水は暖房用の帯水層に戻される。これにより暖房用の帯水層の地下水温度はより上がり、冷房用ではより下がるため、それぞれ半年後には高効果で地下水を利用できるようになる。 効果は省エネだけではない。熱のやりとりは地下水のみで行われるので、一般のエアコンのように冷房時に熱風を室外に放出することもなく、ヒートアイランド現象の防止にもなる。また、汲み上げた地下水は再び地中に戻すので、地盤沈下の心配も少ない。 実証実験は講義棟の3教室を使い、2室は地下水熱源の空調システム、1室は空気熱源の従来型システムを用いて比較した。 実証プラント稼働から約半年、この冬の結果はどうだったのだろうか。5月24日、IEA(国際エネルギー機関)の国際会議に出席し、前日スペインから帰国したばかりの藤縄教授の研究室を訪ねた。さっそく冬のパフォーマンスについて尋ねると、「期待以上でした」と顔がほころんだ。「IEAでも発表してきたところですが、たいへん注目され、好評でした」と、発表資料をもとに成果を解説してくれた。 従来型の教室は室温を24℃に設定したが、なかなか部屋が暖まらないうえに、外気温が低い日には16℃にしかならず、寒すぎると苦情が出ることもあった。地下水制御型空調システムを導入した教室は、設定温度21.5℃に対し平均20.5℃とほぼ設定どおりの室温。さらに消費電力は従来型の半分ですんだという。NEDOが設定した省エネ目標は1.5倍、藤縄教授自身は1.7倍以上を目標にしていたが、冬の間に2倍を達成できると、夏はさらに大きな効果が期待できるため、年間を通すと目標の数倍というパフォーマンスを達成できる可能性が出てきた。課題は初期費用の低減化とPR このシステムは、病院、老人ホーム、スーパーマーケットなど大勢の人が集まる大型施設で最初に導入してほしい、と藤縄教授はいう。夏の実証実験はこれからだが、年間を通じたランニングコストは、空気熱を利用する従来型と比較すれば圧倒的に優位であり、とくに夏の消費電力削減への効果は大きい。 普及への課題を藤縄教授に聞くと、一つは初期費用。量産されるようになれば、水冷式ヒートポンプ価格が下がり、初期費用はぐっと下がる。藤縄教授は初期投資を10年で回収できるようにすることを目標にしているが、「初期費用だけで比較するのではなく、設備導入費用とその施設を30年40年と利用したときのランニングコストの合計のライフサイクルコストを比較すれば、地下水利用のほうがはるかに費用対効果は高い。そういう長期的な視点で見てもらえるようになれば…」と言う。もう一つは、大手の建設業界では徐々にこのシステムの学習を始めているが、全国的にはまだPR不足で、各地の建築事務所に知られていないという点をあげる。これではクライアントが希望しても導入できない。地下水や地盤に関する知識も必要になる。 「卒業生が徐々に普及させてくれる、そのためにわれわれも教えているのですから」と、藤縄教授は期待している。35

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