• 受験生の方へ
  • 医師の方へ
  • 企業団体の方へ
  • 卒業生の方へ
  • 地域の方へ
  • 在学生の方へ

研究トピックス 研究活動詳細

子宮間葉系腫瘍に対する新規治療法・診断法の確立にむけて:
癌抑制因子LMP2 とCalponin h1 とのコミュニケーションリンク

免疫制御学講座 准教授 林 琢磨

近年、癌の研究が飛躍的に進み、早期治療の結果、子宮頸癌や胃癌などは死亡率が低下している。一方、ライフサイクルの変化に伴い、その罹患率と死亡率が上昇している腫瘍種もあり、婦人科領域では、子宮間葉系腫瘍の1つである子宮平滑筋肉腫(子宮肉腫)の発症も増加傾向に感じられる。同じ子宮間葉系腫瘍である子宮平滑筋腫(子宮筋腫)は、50歳以上の成人女性に罹患率70~80%で発症する良性腫瘍で、女性に発生する腫瘍で最も頻度の高い腫瘍のうちの一つである。従来は、その大きさを基準に手術が行われてきたが、女性の晩婚化・高齢初産婦の増加などライフスタイルの変化により、40歳代女性の妊孕性温存希望が強くなっている。故に、今日の子宮筋腫の治療方針では、この社会的背景を考慮して子宮を温存する方法が要求される。しなしながら、子宮筋腫に類似した悪性疾患である子宮肉腫がまれながら存在するため、多くの子宮筋腫患者の中で子宮温存の是非を決定する際、その除外診断が重要となる。残念ながら、現行の鑑別法は、手術摘出組織の病理診断であり客観性に欠けている。さらに、既存の抗癌剤では、子宮肉腫に対する顕著な有効性が認められず、子宮肉腫における治療後5年生存率は、全期平均で37%(I 期56%、II~IV 期7%)と国際的に集計提示されている。そこで、子宮間葉系腫瘍、特に、子宮肉腫に対する新規治療法・診断法の確立に向け、子宮肉腫の生物学的特性を理解することが重要である。

今から約13年前に、堀内 晶子医師等(当時信州大学医学部産婦人科講座:藤井 信吾 教授)は、平滑筋細胞において発現しているアクチン結合蛋白質の1つであるCalponin h1の発現が、子宮肉腫細胞において特異的に減弱していることを報告した(1)。良性腫瘍である子宮筋腫に分類される種々の腫瘍細胞では、Calponin h1 の発現が認められることから、Calponin h1 は、子宮間葉系腫瘍である子宮筋腫に属する種々の腫瘍と子宮肉腫とを区別するバイオマーカーとして期待されている。その後の研究成果により、堀内等は、Calponin h1 の子宮肉腫細胞の造腫瘍能、細胞増殖能さらに同細胞の細胞形態形成に対する影響性について報告した(2)。つまり、これまでの一連の研究成果により、Calponin h1 は子宮肉腫において癌抑制因子様の働きを行っていることが、明らかとされた(2)。しかしながら、Calponin h1 欠損マウスにおいて、子宮肉腫の自然発症が認められなかったため、当時より、子宮肉腫の発症には、Calponin h1 以外に他の因子による生物学的作用が関与していると考えられていた。

上記の研究報告から1年後、林 琢磨(当時マサチューセッツ総合病院/ハーバード大学医学部 講師)等は、利根川 進(マサチューセッツ工科大学/がん研究センター 教授)等の研究協力により、蛋白質分解酵素複合体(プロテアソーム)の構成因子であるLMP2 の発現低下が、ヒトの免疫系疾患の発症に関与している可能性について報告した(3)。さらに、その後の研究成果により、林等は、LMP2 欠損マウスのメスで子宮肉腫が自然発症し、生後14ヵ月までの罹患率は、全LMP2 欠損マウスのメスの約40%であることを報告した(4)。そこで、帰国後、林(現信州大学医学部医学科 准教授)、堀内(現相澤病院産婦人科医長)、小西 郁生(京都大学大学院医学系研究科器官外科学講座 教授)等の研究グループは、提携先医療機関(注1)と「子宮肉腫の腫瘍形成とLMP2 の発現との関連性」について検討を行っている。これまでの研究成果より、良性腫瘍である子宮筋腫に分類される種々の腫瘍細胞では、LMP2 の発現が認められるが、LMP2 欠損マウス同様、LMP2 の発現は子宮肉腫細胞において特異的に減弱している(5,6)。LMP2 において、子宮間葉系腫瘍である子宮筋腫に属する種々の腫瘍と子宮肉腫とを区別するバイオマーカーとしての可能性が問われている(注1)。LMP2 は子宮肉腫細胞において細胞増殖を抑制し、造腫瘍能を低下させることが認められた。その後の研究成果より、子宮肉腫でのLMP2 の生物学的応答性は、プロテアソームの活性化に依存せず、おそらくLMP2 単分子と他の細胞性因子とのコミュニケーションにより誘導されるらしい(6)。林等は、子宮肉腫での組織特異的に作用するLMP2 の癌抑制因子としての生物学的応答性について報告した(6)。
ここで気になる点は、子宮肉腫細胞において共に癌抑制因子として働くCalponin h1とLMP2 との関連性である。林等の細胞生物学的解析により、Calponin h1 の発現はLMP2 発現環境下において有意に誘導されることが明らかとされた(7)。さらなる研究成果より、子宮肉腫の造腫瘍能に対するLMP2 の抑制効果に、Calponin h1 がリンクしており、特に、子宮肉腫の細胞骨格・形態形成に対するLMP2 の生物学的特性は、Calponin h1 の生物学的作用に依存していることが明らかとされた(7)。林等の研究グループは、子宮肉腫での組織特異的に作用する癌抑制様因子LMP2 とCalponin h1 の生物学的応答におけるメカニカルリンクついて報告した(7)。

子宮間葉系腫瘍、特に、再発・転移を繰り返す子宮肉腫に対する有効な治療法は外科的摘出手法以外に確立されておらず、既存の化学療法では延命効果が殆ど期待されない。子宮肉腫におけるLMP2 とCalponin h1 の生物学的応答性についてのさらなる研究成果は、子宮肉腫および子宮間葉系腫瘍に対する分子標的治療と新規診断法の開発へと還元されると思われる。

hayashi_figure01.jpg


(注1)(独)科学技術振興機構 産学連携事業(事業担当者 林琢磨、堀内晶子、佐野健司、小西郁生:信州大学、京都大学、東京大学、東北大学、大阪市立大学、徳島大学、国立がんセ、兵庫県立がんセ、SIGMA-Aldrich)。産業財産権の名称:ヒト子宮平滑筋肉腫の新規鑑別マーカー:イムノプロテアソームLMP2、発明者:林 琢磨、小林 幸弘、佐野 健司、堀内 晶子、小西 郁生、権利者:国立大学法人 信州大学、特許取得国:ヨーロッパ(ドイツ、フランス)、米国、日本

論文内容に関しては、下記アドレスを参照
1. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9690561
2. http://jnci.oxfordjournals.org/content/91/9/790.long
3. http://www.nature.com/nm/journal/v6/n10/full/nm1000_1065.html
4. http://cancerres.aacrjournals.org/content/62/1/24.long
5. http://www.nature.com/onc/journal/v25/n29/full/1209434a.html
6. http://www.natureasia.com/japan/srep/highlights/srep00180.php
7. http://www.febsletters.org/article/S0014-5793(12)00404-8/abstract