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『これからの雇用政策・対策の着眼点と方向を考える』(2009.11.12) 

著者
角宮正義客員教授、
鈴木智弘教授
第1章:雇用現況の認識

鳩山内閣は、悪化する雇用情勢に対応するため、菅国家戦略担当相を本部長に緊急雇用対策本部をたちあげ、2009年10月23日(金)、緊急雇用対策をまとめた。 これは、雇用情勢が厳しさを増しており、景気が二番底を迎えれば、失業者と失業率が急激に悪化する恐れが強いため、目前の危機に対応するための、突貫工事とも言える「失業対策」である。この背景には、昨年末から年初にかけて出現した「年越し派遣村」のような事態を避けたいという狙いがあろうし、特に今年3月から急増した雇用調整助成金が底をつき、支給が打ち切られれば、雇用情勢が、年末から来年3月にかけ、急速に悪化する「3月危機」への懸念に対処するための第一弾の雇用対策と言ってよい。
最近の景気動向を見ると、各種指数は、若干上向きの傾向も出ているが、失業率、失業者数については、厳しい情勢が続いている、7月に過去最悪の5.7%を示した失業率は、8月に5.5%、9月に5.3%と前月より0.2ポイントずつ改善したが、失業者数は363万人に達し、前年同月比で92万人(33.9%)と11ヶ月連続で悪化している。理由別では、企業の倒産やリストラなど勤め先の都合が同51万人増の113万人と大きく増えた。失業者数は、過去最多だった2003年4月の385万人に近い水準で、高止まりしている。 また、有効求人倍率は、9月は0.43倍と、前月に比べ0.01ポイント改善し、前月を上回ったのは2年4カ月ぶりであるが、依然として低水準である。景気の先行きを示す新規求人倍率は前月を0.03ポイント上回る0.79倍となったが、依然として、雇用情勢改善の見通しは立っていない。
更に2010年度の大卒採用内定者数(2010年4月入社予定)は、日本経済新聞社の主要企業調査によると、今春入社した人数に比べて、28%(約73,000人)減になっている。景気後退や先行き不透明感を反映して、金融機関や製造業が軒並み採用を減らしていることが影響しており、2011年春の採用計画についても、約8割の企業が、2010年春と同水準と回答しているという。同調査によると、2010年度の大卒内定者数は、2005年度以来の低い水準であり、ITバブルが崩壊した2000年〜2001年度を6万人程度上回るものの「就職氷河期」と言われた当時の内定者数を比較しても厳しい状況であると言える。2010年7〜9月期は若干の景気指標が回復を示したとしても、今秋以降の不透明な景気動向を予測すると、新規学卒者の求人が回復・好転せず、企業は慎重な採用姿勢を崩さないと見られる。
こうしたことから「失業者の増加」「新規求人の低迷」「新規学卒者採用の厳しい見通し」に対する当面の緊急雇用対策が必要となる。
ここで、雇用に影響を与える最近の経済指標をまとめると次のようになる。鉱工業生産指数は6ヶ月連続で上昇している。これは、国内外の自動車生産の伸びと、液晶テレビの好調によるところが大きい。製造業の残業時間も2〜6月の前年比40%台の減少から、8月は27%減と減少幅が縮小している。しかしながら、設備投資の動きは鈍く、8月の機械受注は前年同期比26.5%で、受注額は7月に付けた過去最低額6647億円を僅かに上回る6681億円に止まり、過去2番目の低水準である。9月の貿易統計速報(通関ベース)は、9月の輸出額は、前年同月に比べて30.7%減の5兆1047億円となっている、7〜9月の輸出は、ほとんど変化がなく、輸出額は12ヶ月連続で前月同月比マイナスとなっている。ただし、9月の輸出額は対欧米、アジアともに減少ピッチが緩やかになった。米国向けは前年同月比34.1%減と、8月に比べ0.3ポイント改善した。欧州連合(EU) 向けは前年同月比38.6%減と、減少率が7.3ポイント縮まった。9月のアジア向け輸出は前年同月比22.2%減と、8月に比べて8.4ポイント改善した。輸入額は前年同月比36.9%減の4兆5841億円。輸出から輸入を差し引いた貿易収支は5206億円の黒字となり、前年同月の6倍近くに拡大した。単月では昨秋のリーマン・ショック後で最大の黒字となった。9月の輸入額は前年同月比36.9%減の4兆5841億円で、輸入が減少した主な品目はエネルギー関連で、原粗油(前年比49.5%減)、液化天然ガス(同52.3%減)、石炭(同51.2%減)などである。輸入原油単価は円ベースで、前年比マイナス48.0%、ドルベースでは同マイナス39.5%となったことが大きい。この結果9月の貿易収支は速報値ではあるが、5206億円の黒字となり、前年同月の6倍近くに拡大した。単月では昨秋のリーマン・ショック後で最大の黒字となった。
総務省の9月の家計調査によると、2人以上の世帯の消費支出は、実質で前年同月に比べて1.0%増となり、2カ月連続のプラスとなった。大型連休の影響で弁当や飲料などの消費が増えたが、生活実感に近い名目消費は1.5%減した。エコポイントや価格下落の効果でテレビやパソコンなどの消費も伸びたが、夏に続き、冬のボーナスも大幅なカットが報道される中、家計の消費支出の先行きは厳しいことが予想される。
日銀によれば、9月の企業物価指数(速報値)は前年同月比で7.9%下がった。昨年夏の原油高騰の反動で大幅低下が続いたが、低下率 は1960年の統計開始以降で最大だった8月(8.5%低下)から縮小し、低下に転じた1月以降初めて縮小した。昨年9月に原油価格が下落に転じていたことから、物価下落圧力がやや和らいだと思われる。総務省の9月の全国消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除くベースで前年同月比2.3%低下した。7カ月連続で前年同月を下回ったが、昨年夏の原油高の影響が弱まり、低下幅はやや縮小した。ただ食料品や衣料品の値下げ競争の影響が出るなど、物価下落傾向は収まっていない。 生鮮食品も含む総合指数は2.2%低下した。
日銀は、10月14日に景気認識を9月の「持ち直しに転じつつある」から「持ち直しつつある」に表現を変更し、更に19日に発表した地域経済報告では、全国9地域全ての景気判断を上方修正した。
しかしながら、海外市場は各国の財政政策で持ち直した面もあり、新興国向けの輸出による国内生産の回復が、今後、どこまで景気回復を主導できるのかは不透明である。これまでの景気の持ち直しは、政府の経済政策による需要の先食いといった性格があり、政策効果の息切れによって、二番底の懸念もぬぐえない。 雇用、物価、家計、所得の面から見ても、厳しい見方をせざるを得ない。即ち、設備投資や物価、賃金収入の下落傾向は、依然続いており、消費者の節約志向、低価格志向による消費不振が、大きく改善することは当面期待できない。デフレスパイラルの様相も鮮明になりつつある。
経済を本格的な回復軌道にのせるには、民主党の掲げる子供手当の創設などによる内需拡大策や財政の役割を十分認識しないで実施する公共事業の削減では、地方経済は疲弊するばかりであろう。 こうしたことからいえば今後の雇用環境は厳しく、それに対する骨太の方策と政策(方針)を体系的かつ整合性のある形で再構築し、できるものは迅速に優先順位をつけて実効ある対策として、実施にうつすことが必要となろう。

第2章:新しい雇用の課題と基本認識

新しい雇用の課題と、その基本認識を集約すると、第1の課題は、人口構造の変化という与件がこれからの雇用に、大きく影響するということある。2005年から人口減少が現実のものとなり、また、少子化も年々進行し、高年齢者(65歳以上)の人数も比率も20%をこえ、超高齢化社会に早いスピードで突入している。この人口構造の変化は、雇用者年齢の構成や人数の変化だけでなく、労働力人口の高齢化や年金、医療、介護等の社会福祉のあり方に大きな影響を及ぼすだけでなく財政や社会保障給付の面での負担は大きくなっている。 ちなみに国立社会保障・人口問題研究所が10月22日に発表した、医療や介護・年金などにかかった社会保障給付費の総額が2007年度に91兆4300億円と過去最高になったと発表した。2007年度の給付費の国民所得(374兆円)に占める割合は24.4%で前年度から0.54ポイント上昇したという。国民所得の伸びでは0.3%であり、所得の伸びを超えて給付費がふくらむ傾向が明らかになっている。分野別にみると年金が48兆2700億円で全体の52.8%を占める。次いで医療が28兆9462億円で31.7%を占めている。民主党が子供手当の創設や高齢者の医療費の負担軽減を実行するとすれば給付費が更にふくれることになる。介護労働者を増やし、その賃金引上げを行っていくとすれば、更なる税金投入が必要となり、その負担と財源をめぐる論議はこれからの重大テーマとなろう。 また、就業人口や総人口が減少していくことは、これまでのように、名目経済成長率を確保することが、困難になるということを認識しなければならない。

第2は、人口構造の変化は「就業人口、労働力構造、年齢階層別人数」「雇用の形態」に大きな変化をもたらす。企業の従業員の採用から退職までの処遇体系が大きく変化してくることや、働き方、労働時間、更には賃金等の労働条件等の人事労務管理が変化することを認識しなければならない。 企業内における人事処遇の変化としては、雇用者のうち、正社員と非正社員の比率が6.5:3.5となり、非正社員の処遇が1つの重要テーマとなっている。派遣法により派遣労働者が増え、企業の戦力としてのウエイトが高まりつつあるが、「派遣切り」を契機に派遣法の見直しという事態になっている。更に、今後は退職金、企業年金制度のあり方の再構築、再編や65歳定年や継続雇用制度の見直しなど、雇用管理の面での大きな課題が山積している。 賃金や人材雇用・育成についても「新しい」成果主義にもとづく評価と処遇体系を導入していくことが求められる。企業の活力を維持し、従業員を活性化していくには、どのような働き方や人事処遇体系にしていくのか、また企業内の人材をいかに育成・登用していくのか新しい仕組みも雇用のあり方とあわせて再構築をしていくことが必要となる。まさに人的資源(ヒューマンリソース)をいかにマネジメントしていくかの仕組みづくりと運用が新しい与件の中で企業に求められてくる。

第3の課題は、経済のグローバル化が、これまでの実体経済や企業活動、企業の組織運営に大きな変化をもたらすだけでなく、それが雇用のあり方を左右する大きな要素となりつつあることを認識することである。 バブル崩壊後、ボーダーレス化、メガコンペティション(大競争時代)に対応する企業経営が経営のテーマとなっていたが、2000年以降は、グローバル経済の流れにのって、製造業の組立を中心にコスト削減や安い労働費を求めて「海外移転、工場立地、販売拠点の構築、現地法人の設立」などが中国、ベトナム、東南アジアにおいて急速に進んだ。日本国内の工場の移転に伴う、下請企業群を含めた海外における「生産基地、販売拠点の設立」、「現地法人の設立」、「研究開発拠点の設立と移転」によって、日本国内では「技術・技能の空洞化」と『海外への雇用の移転』が急速に進んだといってよい。これは失われた15年といわれる中での大きな変化である。 一方で、海外生産による安価な製品の輸入により、国内メーカーは値下げ競争に翻弄され、コスト削減努力も限界となり、廃業・転業・吸収合併などにより、雇用の喪失につながった。また、企業が低価格品指向を強めることによって「賃金の低迷」を招き、ひいては「雇用の創出の場と機会」を奪ったといってよい。これまで多くの地方自治体では多く巨額の予算を投入して工業団地の造成に取組み、企業誘致をはかったが、企業の海外移転が進んだため、現在では雑草の生い茂った空地が全国に多く転在し、地方自治体の負債となっている。 地方の雇用喪失は、地元の中小需細企業や自営業・商店などの経営に大きな打撃を与えた。それは、地方の商店街のシャッター通りの現出などにあらわれている。企業の値下げ競争や安価で良質の製品が輸入されることは、消費者にとっては福音であっても、家計の基礎となる収入(賃金等)が減り、雇用も減少すれば、民間経済の活性化という視野からみれば、喜んでばかりはいられないといえる。 新興国が経済的に向上し、賃金も上昇することによって購買力がふえ、それによってボリュームゾーンというべき新しい市場が出現している。こうした市場で、競争に打ち克って行くことができれば、企業経営にとってのメリットは大きいが、このことが、雇用の増加に結びつくとは言えない面もある。今後は、企業の海外活動は国民の雇用確保や所得向上につながらない側面も大きくなったことをふまえておく必要がある。 グローバル経済という中で、雇用の創出と喪失にどう対処していくかという新しい視点からも雇用へのアプローチが重要であることを提起しておきたい。

第4は、これからの雇用は、大量の失業者と雇用の流動化に伴う転職者や、潜在失業者を職場や社会へ復帰させるための『支援』に重点がおかれるということである。 「支援の仕組みと手続きの再編」にあたっては、新しい職場、仕事への適応できるための訓練や資格の習得等、実効性のあるものを用意する必要がある。 しかしながら、支援を充実させていくにしても、その受皿である「雇用の機会と場」をどのようにセッティングするか、すなわち「雇用の創出」をどう図っていくかが最重要の課題となることを忘れてはならない。雇用の受皿なくしては、雇用支援も雇用機会も実態のないその場対応に終わってしまう。
民主党は「コンクリートから人へ」というキャッチフレーズに従い、公共事業を減らすかわりに子供手当を創設し、この手当の家計への直接給付によって可処分所得を増やし、経済成長と関係なく子育て世帯の生活水準を向上させ、ひいては個人消費へ反映させようということをネライとしていると思われる。 また、一方で「ムダの根絶」を揚げ、生活コストの引下げを方針としている。こうしたことから「生活が第一」というスローガンは、生産者優先から消費者優先とみることができるが、果たして現在の経済状況の中で「消費者優先」政策だけで雇用を生むことができるのであろうか。たしかに、市場主義の行き過ぎや、企業体質の強化やグローバル化の中で生き残りのために、コスト削減・雇用調整などによって国内雇用を減らしてきた側面は否定できないが、「企業の生産性向上や付加価値の増大化によってGDPを増やし、それが利潤、賃金に反映され、ひいてはそれが雇用の確保・維持・増加と個人消費の維持・拡大につながる」という考え方と仕組みは、もはや成り立たなくなったのであろうか。 かつての高度成長時代のような成長率は望めないとしても、日本経済をグローバル化の中で適正な軌道にのせていく運営していくには、やはり「低成長・微成長」は必要不可欠である。 小泉内閣時代の長期にわたる緩やかな「いざなぎ越え景気」も製造業を中心として米国や中国への輸出が、下支えをしてきたといってよい。ただ、それへの依存が大きかったためにリーマン・ショック以降、景気は大幅な減退・落ち込みをみせているが、その間の成長戦略や輸出・海外展開を含めた民間経済活動がデフレ経済の進展の中で一応の成果をあげてきたといってよい。
民主党のマニフェストや鳩山首相の所信演説をみても、内需や消費者優先、生活第一を掲げ、外需・輸出・生産・付加価値の増大化や企業活動の活性化・進展等の成長戦略については、あまり関心がなく、もっぱら内向きの方向に政策のウエイトがおかれていると見受けられる。

これは第5のポイントになるが、雇用の場をつくるには、『雇用の創出』が必要であり、失業者の救済・支援とは別途に取組む必要がある。雇用の創出のためには、産業振興や企業・自営業者などの活性化と支援が重要になってくる。 その代表的なものとして、産業振興では、環境・エコ・医療・介護・新エネルギー開発・省エネ・新素材・原子力分野での開発と実用化へむけた取組と研究開発体制づくりや、港湾、空港などの再整備と効率化、更には食糧、農業、林業分野、CO₂の削減対応などさまざまな分野が拡がっている。こうした分野への投資と研究開発、実用化は将来の中長期の雇用の創出と確保に貢献してこよう。これからの人口減少社会で、中長期的な経済成長を維持、確保していくには、その基盤となる(それを支え推進していく)知識労働者、プロフェッショナル、高度専門職の育成と確保が重要となる。モノづくりの技能の継承も大切であるが、グローバルな知識経済の世界では、この高度な専門的知識と技術、創造性、研究開発力等は成長戦略と競争を支える源である。 そのためには教育と雇用の場と機会を選択・付与できるようにすることが必要となり、雇用の流動化に対応できる仕組みづくりが重要である。博士課程学生の就職難や技術者・研究開発系の仕事の場と能力発揮の場と処遇の充実がなければ、貴重な人材を活かすことができず、将来的に国家的な損失を招くことになる。民主党はマニフェストで、「高校の原則無料化」をうたっており、それを具体化させる方針である。この財源を知識経済の中で活躍できるプロフェッショナル人材の育成と雇用の創出(場と機会の設定)支援に充当するというのはムリなのであろうか。人的資源を活かしていくには、それを教育・育成することと、その後その能力を実践できる場と機会を提供することは、国益にかなうし、企業の利益にもなると考える。マニフェストに忠実なあまり、大切な視点を忘れてはならない。
中期的視点からみると、雇用の創出のためには、産業振興とあわせて、すでに与件となっているグローバル経済の中で生き残っていくための輸出促進と、企業の成長戦略への支援が軸になると考える。中国、インドなど1990年代までの発展途上国は、すでに新興国として成長路線にのり、国内に購買力をもつ中間層が形成されつつある。勿論この中間層は先進国から比べると豊かさの程度は低いものの、それでも所得の3分の1を自由に支出できる、いわゆる"ボリュームゾーン"が形成されつつある。こうしたことは新しい市場が開けていることを意味するだけでなく、あわせて社会的インフラのニーズもでてくるので、国家的プロジェクトとしての機会もでてこよう。 こうした大きな変化の中で国家・企業・個人のはたす役割を十分認識し、貿易・投資・金融・人材の交流と育成、現地での教育・研修などを地道に継続することが肝要である。 なお、最近は内需の換起が声高に叫ばれているが、内需、外需という区分もボーダーレス化、グローバル化の進展と企業の多国籍化によって、従来の区分の見直しが必要である。 すなわち、原材料、商品、製品、部品などは、多くの国から調達できるし、また加工、組立後の製品はどこの国で生産されたかの区別が難しくなっている。また、これまで「内需系企業」といわれていた企業群が海外企業を買収したり、合併による現地法人を設立したりするケースも目立っており、食品、日用品、衣料品なども国内市場(マーケット)の延長として海外市場を位置づけた販売政策や拠点作りなど新しいビジネス展開をするケースが多くなっている。このように生産の仕組みやマーケットのとらえ方も変化している実情を無視すべきではあるまい。

第6の課題は、中小需細企業及び地方の雇用の創出はどうすればよいのかということである。地方分権がさけばれているが、地方に権限をうつすことによってシャッター通りの店の何割が再生できるのかという命題には応えられない。雇用の機会と場をどの程度提供できるのかについては打開策ないのが実情である。農業、林業の再生や学術研究拠点の移転などがいわれているが果たして雇用の打開策、起爆剤となるかといえば、大きな期待はできまい。 中小企業のいわゆるモラトリアム法案や公共事業の停止などに見られるように、中小需細企業も地方もともに疲弊している。こうした中で最低賃金を800円、そして全国平均を1000円とするとマニフェストに盛られている。最低賃金の全国平均は713円でこれを800円にすると12%、1000円にすると約40%の引き上げになる。 最低賃金引き上げが、貧困問題の解決や新たな雇用機会の創出につながるとはいえず、むしろ事業の圧迫につながるといえる。最低賃金の対象となるのは、パート、アルバイトの人が多く、業種では、卸売・小売・飲食・宿泊業等に多く、企業規模でいえば需細企業がほとんどである。これらの企業や自営業者は、苦しい現実との折り合いをつけながら、どうにか就労機会と生活を維持しているという実態でもある。更に地域には、行政の予算が十分いきわたらず、ボランティアに近い高齢者支援や子育て支援などのソーシャルビジネス(コミュニティビジネス)なども存在する。このような現状を見ると、民主党がマニフェストに掲げるような最低賃金の引き上げは、逆にこうした企業や人々の雇用の受皿(機会と場)を減らすことになるという側面もある。 つまり、最低賃金ギリギリで働く人や事業者は、現在の仕事が生活を支えているのであって、雇用の拡大は容易ではない。このことへの対応は、日本全国の地域の実情(格差)にあわせて、従来の就労機会を維持しつつ、段階的に改善をしていくという以外、解決策はみあたらないといってよかろう。地方分権や最低賃金の引上げなどのスローガンで解決できるものではない。現実の厳しい状況を視野に入れた地道な多様性のある対応が必要であると考える。 民主党の1年生議員には選挙区にとどまり次の当選のために住民の声をきけという指示がでてきているというが、ぜひとも机上のスローガンによる政策の実行ではなく、雇用と仕事の厳しい現実を把握して、それを国政に反映してもらいたい。


第3章:雇用政策の基本モデルの提案

これまで雇用政策を考えるにあたっての課題と方向をとりまとめてきたが、筆者らはこうした課題をふまえてこれからの雇用政策を企画立案・検証を実行していくための基本となる雇用政策の基本モデルを新たに作成した。その考え方と体系を紹介すると次のようになる(図1)
雇用政策の三位一体モデルは、「救済」「支援」「創出」の3つから成る。救済は失業者・失業予備群のセーフティネットとしての役割をもち、支援は救済の対象者及び転職者、転職・退職・失業予備群の雇用機会・場の提供と雇用の確保につなぐための雇用制度施策を中心とした分野である。雇用に関わる施策創出は
(イ)「既存の雇用の維持、増加」、
(ロ)「新規雇用の創出、現出」、
(ハ)「成長・振興・活性化による雇用の維持・増加」、
(ニ)「減少する雇用の回復」という4つの側面を持つ。

更に雇用創出は「セーフティネットの一環としての創出」、「短期・中期の対策、政策を通じての創出」「産業振興・成長戦略を通じての創出」などを対象とする。これらは、省庁を超えた国家的視点で方針を決めて取組むべきテーマ、内容であり、国家戦略室(局)の職掌範囲にあたる。 雇用創出の基本方針を決め、その方針にもとづき雇用創出をどのように実行していくかについては、筆者らは雇用創出の基本モデルがベースになると考える。すなわち

(イ)「個別対策・制度運用・誘導による雇用の創出」
(ロ)「労働市場の再編:流動化・多様化による雇用機会・場の創出と再編」
(ハ)「雇用の受皿の拡充:雇用吸収分野と受皿組織の拡大・補完」
を雇用創出の3分野とし、それを軸として雇用戦略をつくり、具体的に政策・施策として実行していくことを提案したい。
具体策の一例をあげると、図2のB群の対策・制度運用・誘導による雇用の創出は、介護、子育て支援、農業などの分野ですぐに着手できるし、C群については高度専門職(プロフェッショナル)、研究職、研究開発の分野などで、キャリアを活かせる職業紹介と採用の仕組みを再編成し、転職・再就職を可能にできる採用と処遇システムを再構築することも1つの方向である。少子化時代を迎え、人材が、国家、企業の競争力の源泉であることを、認識しなければならない。 雇用の受皿の雇力吸収力を高めるためには、企業・自営業者を含め、「民間経済の活性化」が必要であり、そのためには、国の産業振興、成長戦略とリンクした産業、企業の成長発展分野への支援策が必要である。 公共事業などのムダを排除し、内需拡大のために、財政上の負担は大きくても、直接給付による子供手当等によって個人消費の拡大を図るとするのも1つの方法ではあろうが、雇用政策として「いかに雇用の創出を図るか、そして短期・中期にわけて、どのように実行していくか」が現在問われている最重要課題である。政府のいう内需拡大では、到底雇用の創出は困難であり、限界があるのではないか。 行政の仕組みと運用(例えばハローワークや失業者の事務手続きなど)の見直しと、当面の雇用政策、中期の雇用政策を策定し、実行していくことが望まれる。同時に、優先的に取組むべきことは雇用の受皿となる産業・企業の雇用吸収力を高めることである。このための方針や戦略(産業振興・成長戦略にあたるもの)が全く政府・民主党からみえてこないことを危惧している。
雇用の受皿の大きなものは企業等の法人である、ついで自営業者である。セーフティネットによって失業者を救済するのは大切なことであるが、その一方で、産業振興・企業支援と活性化、つまり民業の活性化と支援に、より真剣に取り組むことが必要である。これは、政・官・民が一体となって取り組むべきテーマである。 雇用の創出は、雇用の「維持」、「新規増加」、「減少からの回復」といった内容を持つ。貧困者救済のための意見を聞くために派遣村の元村長を内閣府のアドバイザーに迎えるのもよいが、雇用情勢は予断を許さない厳しい状況も予想される。
産業界、企業等の民間部門と早急に提携・協力し、産業・企業の実態や地域特性をふまえた雇用創出のための取組みを始めるべきである。 雇用問題は、国民1人ひとりの社会・家庭生活、勤労観、自立心などに影響をもつ。「働く場所、仕事があり、それによって生活を維持できるとともに仕事(働くこと)に充実感を持てる」ということが雇用の基本である。雇用調整金や失業に伴う手当・訓練等の財源にも限界がある。必要なことは国民各層から英知を集め、雇用問題の解決策を考え、実行していくことではないだろうか。

第4章:政府の緊急雇用対策の課題

10月23日、緊急雇用対策本部は「緊急雇用対策」を打ち出した。これは鳩山首相が初めて打ち出した雇用対策であるが、内容は年度末までの短期的な雇用情勢の悪化懸念に備える「短期の雇用救済と雇用改善」を重視したものとなっており、個々の施策をみると、前政権の雇用対策と大差なく目新しいものはとくにない。 政府は「安心できる社会のもっとも重要な基盤は雇用の確保」との基本認識を示しているが、対策の内容は、年末年始にむけての失業者の生活支援を主とした当面の"つなぎ的な雇用対策"であり、新たな予算措置を伴ったものではない。 これまでの政権と同じように介護や農林水産部門などの「雇用創出」を揚げ、「この対策で雇用の下支え・創出効果は平成21年末までに約10万人」という数字を示したことに目新しさはあるものの、果たして今回のこうした対策のみで雇用の改善・創出が可能であるかは不透明である。第2次(補正予算)、 第3次(本予算)の雇用対策を本格的に打ち出さければ、今後厳しさを増す雇用情勢に対処できないといってよい。 緊急雇用対策の骨子を揚げると次のようになる。

第1は「失業者・新規学卒者に対する救済・支援」の一つとして、ハローワークで求職から住居・生活支援の手続きを一括してできる「ワンストップ・サービス」を大都市圏で試験的に実施することを盛り込んでいることが新規の対策といってよい。当面は、失業者の救済・利便性の確保のための「アドバイザー」による対応が主となると予想されるが、失業者の再就職支援や生活保護・住居の斡旋までハローワークで行い、実効性あるものにしていくには、ハローワーク自体の役割と職務のあり方を再編成するための措置も必要であるし、関連省庁(国交省等)との調整による新しい仕組みづくりも重要となる。

第2は、来春以降の大卒・高卒者の就職支援をする専門員をハローワークに緊急配備するとしているが、これは新規学卒者の就職活動のあり方をどのように見直していくのか、また就職した後、短期間で転職する新規学卒者の実態なども踏まえて、企業・学校等の就職・紹介のあり方とアドバイスの仕方などの再構築が必要な重要なテーマである。ハローワークの専門員が果たしてどの程度支援が出来るのか疑問が残る。

第3は、休業などで雇用を維持する企業を支援するための雇用調整助成金の適用緩和や求人の多い介護分野への就職と転職を促進する職業訓練の充実、更には、保育従事者に失職者を育てる試みなどが盛り込まれている。 倒産などで雇用調整金の対象者は増加の一途をたどっており、3月以降支給が増大し、8月の支給対象者は約255万人に及んでいる。昨年12月から雇用調整金の支給条件が大幅に緩和され、申請から1~2ヶ月で支給されるようになったが、企業内で、雇用を抱えていくにも限界がある。今回の対策ではこれを更に緩和する措置が盛り込まれるとしているが、これは、あくまで一時的な雇用の下支え(失職者とならないための)であり、持続的な雇用の維持・増加につながる施策とはならない。更に財源の面での新たな対応も求められる。失業者を減らし、失業率を低下させていくには、景気・経済の回復や雇用を増加させる成長維持戦略などを総合的に地道に続けていくしかないということを認識することが大切である。
今回の施策の中で、求人の多い介護分野などへの就職と入職・転換を促す職業訓練の充実がうたわれている。働きながら資格を取得できる支援制度を創設することなどが盛り込まれているが、それを実効性あるものにして、真の雇用創出ができるようにするためには、段階的かつ試行的に取組んでいく他はないと考える。介護、農林業だけでなく、もっと幅広い将来の成長分野をも含めてこうした取り組みをしていくべきである。 今後は失業者のための職業訓練だけでなく、転職・職種転換をも含めてトータルな職業訓練のあり方と方法を構築し、その新しい体系にそって予算措置を講ずることも検討すべきであろう。

第4は、首相主導で労使代表、有職者が意見交換する雇用戦略対話(仮称)や自治体や労使、NPOらが参加する地域雇用戦略会議(仮称)を設置するとし、広く雇用政策や対策のための意見の聴取をする旨の方針が出されている。広く意見や対応等を聞き、それを対策に活かし、実施していくという姿勢と取組みはよいが、それを迅速に行い、成果ある(実効性ある)ものにしていくためには、『国家戦略としての雇用政策の基本コンセプトとその政策骨子』を早急に構築する必要があると痛感している。これは本来、国家戦略室(局)の職掌範囲であり、基本コンセプトと骨子をもとに5年後、3年後、1年後、そして当面の雇用のための戦略と計画、施策を打ち出すことに早急に取組んでもらいたい。その中には、雇用の救済・支援だけでなく雇用の創出に重点をおいた政策が重要である。

先に筆者らは、雇用政策の基本モデルを提示したが、「創出・支援・救済の三位一体モデル」こそが必要となる。雇用のセーフティネット支援のための制度、施策の構築と実施、それらとリンクした雇用創出プログラムの策定と計画的実行こそが緊急の課題である。 新卒者の職場の確保、転職者・失業者の受皿としての職場、中高年層の継続雇用のための受皿としての職場の提供、非正社員から正社員への転換のための機会の促進、就職希望者と受入者との雇用ニーズの不適合(アンマッチ、ミスマッチ)の解消など、これからの第2次、第3次の雇用対策に盛りこむべき内容は多い。 新たに10万人雇用を創出できたとしても、景気悪化などに伴う雇用減を考慮すると、雇用創造がどれだけ達成できるか疑問であり、雇用創造プログラムでは、将来的に(5年後)に、全体として100万人の雇用を創出できるようなプランを考えていくべきであろう。雇用の改善には、景気の回復や民間経済の活性化と成長が不可欠であり、そのことによって新たな雇用の場と機会が生まれる。政府の施策の中には、公共事業の削減や最低賃金の引上げ、製造業派遣の見直しなどの労働規制の強化など、雇用にとってマイナスの影響を与えるものが含まれている。また、雇用政策を考えるには机上の理論では実行が覚束ない。地方経済の疲弊は大きく、農業、林業、介護、医療、託児所等の待機児童の実態、最低賃金制度などの地域特性や地域格差などを考慮した施策が必要である。
人口減少社会に突入したにもかかわらず、雇用が削減・減少するという現実の中で、新しい雇用を創出していくには、このような政策の整合性、合理性を検証し、雇用政策に反映してもらいたい。現在の実態からみれば、今後数年間は雇用者の伸びは期待できないし、内需拡大が景気浮揚につながるかは不確定である。個人消費も若干上向いたとしても回復というレベルとはほど遠い。新しく形態をかえた日本企業の多国籍化の進展が進むと予想されるし、雇用の海外への移転や国内での雇用の突然の喪失といった事態もでてくる可能性が高い。こうした中で増大する予算や政策のための財源をどう捻出していくかが、更なる大きな課題となってこよう。
雇用は社会の『安心・安定・信頼』の基本である。雇用は生活の基盤であり、雇用なくして生活第1は実現できるとはいえまい。生活第1というスローガンを実現するためには、当面の雇用対策とあわせて成長戦略を盛りこんだ中期の視点にたつ、「雇用政策の基本方針とそれにもとづく雇用政策大綱(雇用創出)」を早急に国民の英知を結集してとりまとめることが急がれる。雇用問題には危機意識をもち迅速な対応をもって臨むことを期待したい。
(2009年11月12日脱稿)


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