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「コモディティ企業のコア・コンピタンス」(2008.1.10) 

著者
牧田幸裕教授

今やほとんどの産業が成熟期を向かえています。企業間の技術的水準は同質的となり、製品やサービスにおける本質的な部分での差別化は困難になっているというのが、多くの企業の悩みなのではないでしょうか。
実際、一消費者としても感じることですが、どのブランドを取り上げてみても顧客側からすれば、ほとんど違いを見出せないというのが、正直な市場の感覚だと思います。
にもかかわらず、多くのコモディティ企業が製品それ自体で差別化を図ろうとしています。自社のコア・コンピタンスは開発力だと言っている企業も、まだまだ相当多くあります。この考え方は正しいのでしょうか。私は絶対的に間違っていると思います。

そもそも、コモディティ化する理由は、製品の差別化ができなくなることに起因します。だから、製品・サービス同士の価格競争に陥り、万人がその製品やサービスを享受できる。その結果、コモディティ化するわけです。
そのような状況で、製品やサービスそれ自体の差別化を相変わらず狙うのが得策なのでしょうか。私は、そうは思いません。コモディティ化した製品群の中で差別化を行うというのは、90点を95点に上げるという発想です。こんな難しいことをしなくても、30点を60点に上げるという発想のほうが、投下資本に対する回収率はよいと考えています。
では、30点を60点にする余地はどこにあるのか。それはプロモーション(営業)、チャネルであると、私は考えています。

消費者と企業との付き合いは、大きく分けると二つの付き合いがあります。ひとつは、企業が消費者に優れた製品やサービスを提供するという付き合いです。もうひとつは、その製品やサービスを入手するまでの購買プロセスでの付き合いです。
前者の優れた製品やサービス提供で差別化することが、投資対効果に合わないのであれば、後者で差別化することが企業の目指すべき方向性だと考えられます。

実際、有名ラーメン店に行列したにもかかわらず、目の前で麺切れ、スープ切れになり楽しみにしていたラーメンを食べられなかった、デジカメを買おうと思い量販店に行ったのだが、要領を得ない回答で買う気を失った、だとか購買プロセスで満足できない経験をした消費者は多いのではないでしょうか。したがって、購買プロセスで現状の改善の余地は大きいと思われます。
そうすると、恩蔵直人氏が「コモディティ化市場のマーケティング論理」でも述べられているように、「販売員の教育による商品知識のアップや接客の向上、あるいは店頭でのレイアウトや陳列の工夫」などにより、購買プロセスにおける差別化を行うことは可能だと考えられるわけです。
しかし、それをコモディティ企業が行うためには、消費者とのダイレクト・コンタクトポイントである小売業との関係を変化させる必要があります。
小売業の合従連衡により、小売業は強大なバイイングパワーを持っています。コモディティ企業が小売業の販売員に影響力を及ぼせるような状況は現状ではなかなか考えられず、コモディティ企業の営業のやり方を抜本的に変革することが必要となります。

その解のひとつは、バイイングパワーの増大による「御用聞き営業」からコモディティ企業が発信する「提案型営業」への転換です。それには、営業部門は「売り子」ではなく、コモディティ企業の「頭脳の結集」になる必要があります。したがって、コモディティ企業のコア・コンピタンスは開発ではなく営業になるわけです。
多くの産業が成熟期を迎えた、コモディティ化が進む今の日本において、コア・コンピタンスの考え方は変わる時期に来ているのではないでしょうか。


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