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「雇用における『最小幸福』支援政策の提案
新規高卒者の就職支援チャレンジモデルの提案」(2010.6.23) 

著者
角宮正義客員教授、
鈴木智弘教授
最小幸福のための雇用の創出・就業支援の意義

雇用情勢は依然として厳しい。失業率は昨年2009年7月の最悪5.6%をピークに、今年2010年2月には4.9%まで回復したものの、3月は再び5%台に乗ってきた。今年になって有効求人倍率が持ち直すなど、企業の採用意欲が高まっているような兆候が見られるが、これらはパートなどの非正規従業員の採用が主であり、正規従業員の雇用が本格的に回復するには、なお時間が要するものと見られる。

国内の労働市場が頭打ちになっている中で、製造業をはじめ内需型企業を含めた生産・販売拠点の新興国への海外シフトが急速に進み、雇用の空洞化が更に顕著になりつつある。シフト先(現地)における現地スタッフの雇用拡大の流れだけでなく、現地人を日本本社で採用し、現地スタッフ、監督者、管理者として再配置する動きもあり、日本人の海外拠点及び現地における雇用者数も進出企業数や企業業績に比べて、多くの増加は見込めない状況にある。

こうした中で、新卒採用は、各企業で、若干の減少傾向にあるものの、依然として一定の水準を維持している。2010年4月現在、大卒内定率は91.8%と前年同期比3.9ポイント減、高卒内定率も91.6%、前年同期比1.6%減であり、一定水準を維持しているといえよう。このことは、将来の社会を担う若者の就業・就職機会が確保できるだけでなく、学窓を巣立って早期に空白期間がなく、職業人生がスタートできることにつながる。

就職・就業をすること(無業者や失業者にならないこと)は、社会及び個人の「安心・安定・信頼」につながるだけでなく「家計・生活満足度の充足」の基本条件である。雇用は政治、社会、経済、景気、家計、個人の意欲・モラール、企業のあり方・活力などに直結する重要テーマとして再認識されつつある。 菅首相は施政方針において「雇用創出と成長戦略」を重視し、雇用増加を重点目標にかかげている。また、6月8日の就任記者会見で政治の役割を国民の不幸にする要素を少なくしてゆく「最小不幸社会」をつくることにあると発言している。

新しい雇用政策の考え方について、筆者らは昨年2009年11月12日付けの信州大学経営大学院コラム「これからの雇用政策・対策の着眼点と方向を考える」の中で、「雇用政策の基本モデルと雇用創出モデル」を提唱しているが、この度、雇用における『最小幸福実現』のためには「就職支援と雇用創出の具体的取組」が喫緊の課題であるとの認識に立ち、その支援政策具体化の第1ステップとして、新規高卒者の就職支援チャレンジモデルをとりまとめた。

このモデルは雇用の入り口である新規高卒者の就職支援を狙いとした地方自治体レベル(単位)で取り組むことを前提とした新しい就職支援ネットワークの再構築をベースにし、かつ企業の雇用政策への参画・協力や政府の支援金を活かすための選択型の支援コースを設定している。厚生労働省は、今春卒業した若者を1ヶ月間試験採用した企業に一人あたり月額8万円支給する「新卒者体験雇用奨励金」を平成22年度に限り、3ヶ月に延長するとしているが、このような支援金を活かすためのモデルと連動させるという狙いもある。  以下、モデルの目的・狙いと基本骨子と体系の要点を紹介する。

新規高卒者の就職支援チャレンジモデルの概要


1. 目的と狙い

① 職業人生のスタート時に未就職者を最小にするという「雇用の社会的責務」を実行してゆくために、就職希望者と未就職者の就職機会を最大限に創出するために「新規高卒者就職支援チャレンジ制度」をつくる。新規高卒者(卒業時に内定していない者)、高卒後2年以内の未就業者を対象に制度の運用を行う。
② これまでの新規高卒者の就職支援における「ハローワーク」「学校」「教育委員会」「行政(地方自治体)」「経済団体」「NPO」などの役割を再編成し、新しいネットワークによる「新連携体制」により、その成果をあげてゆく。
③ 新しい支援ネットワークには、広く求人企業と協力企業の参加を求め、求人に結びつけるための情報、機会を活かす仕組みとして「再募集」と未就職者の支援のための「多様な就職コース」を設定し、未就職者支援を行ってゆく。そのために企業及び経済団体などの民間部門の積極的な参加と協力、理解をベースとした支援体制を構築する。
④ これまでの単なる未就職者に対する指導・アドバイスや企業紹介、補助金の支給ではなく、未就職者及び求人企業が具体的な実務を体験しながら就職への途を開くことができるような選択的なコース(実務密着型)による支援体制とする。そのためには、新たな未就職者支援のための期間限定の補助金や支援金を整理、再設定(企業の負担、企業への支援、未就職者への支給金などを含めて)し、支給のための資金を成果ある形となるよう構築する。

2.「就職支援ネットワーク」の基本骨子

① 学窓を巣立つ高校生の中で、就職を希望する者への支援を最大限に行う。職業人生のスタート時における支援をするため、情報の一元化とネットワーク化及び支援グループの役割と分担、責任を明確化(システム化)する。更に、国、地方自治体などの補助金を活用するだけでなく、受入基盤となる企業にも積極的な協力を求め、社会全体(地域全体)で未就職者の就職支援をしてゆく。行政任せではない、企業の参加・協力をベースに運営する。そのためには、地域の産業界や経済団体にも、その中核の役割を担ってもらう。
② 新規高卒者のうち、卒業時に未就職者(見込み)を対象に、学校、国、地方自治体、経済団体、NPO等を一本化した支援体制をつくり、未就職者の就業、就職を原則1年間支援する。
③ ハローワーク、高校だけでは対応できない面を支援するため、特に地域の経営者団体、NPOおよび地方自治体(県・市町村)が連携して取り組むための仕組み(「システム化」、「役割分担の明確化」)とネットワークを構築・活用した未就職者支援を行う。
④ これまでの職業訓練支援や訓練のための補助金支給というやり方から、現場における「職業の実体験型」の支援を中心とした仕組みとする。そのため、「インターン制度」「体験入社」「就職予定者見習制度」「正社員試用制度」「準社員(契約社員)型採用」「特別資格取得認定者コース」など多様なコース設定・類型を選択的に取り入れることとする。そして、それぞれのコース別の支援補助金などを再設計する。
⑤ 20歳未満の高卒未就職者についても、同様の支援対象とする。
⑥ 求人募集をしても採用できない企業に対する紹介・支援を行うことにより、両者の就職機会の向上につなげるための紹介ネットワークと支援体制を整備する。

3.新規高卒者就職支援チャレンジモデルのフローとポイント

今回提案する新規高卒者就職支援チャレンジモデルは、これまでの就職関連窓口の役割・機能などの見直しを行い、新しい就職支援ネットワークに基づき、「新規募集」「再募集」「チャレンジ募集」を核にして新規高卒者の未就職を最小にし、かつ就職にチャレンジしてもらうための新しい支援制度として提案するものである。 そのため、新規高卒者就職支援チャレンジモデルは、次の4つのテーマを軸に構成している。
①第1ステップ 新しいネットワークによる新規求人企業と求人状況の情報把握とデータベース化。
②第2ステップ  新卒者への職業紹介と求人紹介の新しいコンセプトに基づく、支援サポートセンターを軸とした効率的、一元的な仕組みと組織の確立。
③第3ステップ  再募集のための機会の創出と具体化。
④第4ステップ  未就職者のためのチャレンジ機会の設定と採用希望企業のニーズを取り入れた選択型・チャレンジ型の採用・雇用コースの設定と導入。

 これらのポイントと流れを「新卒者支援チャレンジモデルの概要(図1)」としてとりまとめている。
 また、第4ステップについては、今回新たな視点に立って提案するもので、再募集後の未就職者を対象に選択・チャレンジ・育成の視点に立って雇用コース別の採用支援を行うものである。
これらの流れを「未就職者のコース別チャレンジ支援モデル(図2)」としてとりまとめている。
 具体的なコース選択型の募集・運用の内容と補助金・支援金の活用、処遇条件などのあり方については、別途提案することにしたい。

*コース類型については、2の「就職支援ネットワーク」の基本骨子に紹介している項目を参照願いたい。


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