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リーマン・ショック後の信州企業による経営環境と課題の認識について(経営者訪問 中間報告)

著者
今村英明

長野県に本拠地を置く当経営大学院のミッションの一つは、言うまでもなく信州企業の経営者・経営幹部の育成である。私自身は、残念ながら不勉強に加え本年4月の赴任以来日が浅いこともあり、信州の企業経営者が自社の経営や人材育成に関して、どんな問題意識をお持ちなのか、その基本的な理解が甚だ不十分だと痛感している。それを少しでも補うべく、5月下旬以来主な信州企業のトップの方々を訪問し、意見交換の機会を頂戴している。この作業は今年の暮れにかけて継続する予定であるが、これまでお目にかかった10社近い方々のお話をベースに中間報告をしてみたい(なお業種は、電子部品、食品、医薬品、建設などである)。

信州企業の経営者の認識
1. 経営環境への認識

(ア) 全般的には、リーマン・ショック直後の大きな落ち込みからは回復基調にある。事業所の稼働率も上がってきている。しかし、業種間のばらつきは大きい。業種によっては、数量は戻っても、価格の引き下げ圧力が厳しく、売り上げベースでは、厳しい環境が続いている。また他の業種では、数量自体も回復が遅く、最悪今後数年はこの状態は大きく改善しないと見ている。

(イ) リーマン前後の変化を、バブルがはじけた調整局面あるいは中期的な景気循環としてだけでなく、より大きな構造変化としてとらえる経営者が圧倒的に多い。具体的には、

  • 販売市場が、日本国内から海外、特に中国を中心としたアジア圏に大きくシフトする。
  • 日本市場はこれ以上伸びない。公共投資も減少もしくは再配分により、不安定な市場が続く。また、全ての分野で、コモディティ化(汎用品化)が進み、価格競争はより一層激化する。産業構造は、ものづくりからサービスにさらに傾斜する。
  • 電子部品、自動車部品などでは、川下の完成品分野で大きな技術シフトが起き、これまでの部品体系自体が不要になったり、代替されたりするリスクが高まる。極端な例だが、電気自動車普及により、ガソリンエンジンとその関連部品はいずれ全て不要になったり、iPadやiPhoneの普及でPCとその関連部品がなくなったり、など。
  • 日本の資産が、海外企業による買収の対象になる。信州地区でいえば、電子部品や加工技術を有するハイテク企業、山林や保水地など水や木材などの自然資源、温泉やスキー場などの観光資源、・・・。アジアや南半球の企業から今後さらに買収攻勢が強まる。
2. 環境変化への対応と課題の認識

(ア) 市場の重点が海外、特にアジアにシフトする企業は、バリューチェーンの海外移転をさらに加速したいと認識している。いわゆる「外―外」すなわち外で作り外で売る、という体制を構築する。例えば、研究開発、コアの製造技術、国内販売などは国内に残すが、大部分の製品製造、開発工程の一部は海外に思い切って移管する、また、海外における販売体制を強化する、など。
その場合、日本国内に究極的に何を残すのか、が大きな課題となる。特に、信州地区での雇用確保など地域貢献を企業理念に謳っている企業にとっては、地域での活動の空洞化推進を、大きなディレンマと感じている。

(イ) 国内に事業の軸足を置いている企業は、企業ごとに対応の認識が異なる。例えば、以下のような方策の組み合わせで対応を想定しているようである。

  • 海外市場の開拓(東アジア、米国、・・・)を進め、国内依存率を下げる。
  • 官公需などの特定顧客や特定事業への依存率が高い企業は、新たな多角化を模索する。
  • 生産を海外に移管し、安価な輸入品でコモディティ化に対応する。
  • ここ当分は、耐え忍び、付加価値の高い新しい製品や事業の開発に注力する。
  • 成長率目標を低く設定し、過剰な成長投資を避けつつ、長期的・安定的な成長路線を図る。

(ウ) 技術シフトによる需要脱落リスクを抱える企業は、対応の認識が比較的共通している。具体的には以下の方策の組み合わせで考えているようである。

  • 技術の中長期的な進化シナリオを描き、需要が根本的に切り替わる最悪ケースを常に想定する。
  • 現在の中核事業が縮小するリスクに備えて、将来の柱候補になる事業の開発に傾注する。
  • 自社の得意技術にさらに磨きをかけ、顧客から外されないようにする。また、必要な技術は、(企業)買収やアライアンスで獲得する。

(エ) 海外からの買収リスクに関しては、非上場企業が多かったためか、具体的な対応策は今回は聞けなかった。

3. 人材育成・人材開発への認識

(ア) 厳しい経営環境であるが、人材面での投資は継続もしくは強化する、という経営者が多かった。共通する理由として、今後の競争力の源泉を、生産現場の競争力から、創造力や経営力などヒトの能力による差異化に求めるしかない、という認識による。また、経営者の代替わりが見込まれる企業では、次世代経営人材の育成が急務と認識されている。

(イ) 各社ともに、人材の育成・開発にはこれまでも力は入れてきたものの、現状並びに今後、次のような人材が不足すると認識している。

  • 新規事業の育成・立ち上げ人材
  • 新製品の開発人材、開発マーケティング人材
  • 海外事業・海外工場・海外支店の経営人材(含む:外国人幹部社員の育成)
  • 次世代経営者(事業部長、役員)候補人材

(ウ) これを期に、人材育成・開発を見直したいと認識している経営者も多い。

  • 現状は、Uターンも含め、地元の学校を中心に採用し、新人と中間管理職に厚く上級管理者に薄い階層別研修を行い、OJTを軸に育成を図る、というのが主流である。研修には、自社・グループ内での研修を軸に、大学や人材教育会社からプログラムや講師を導入したり、社外セミナーなどへ選択的に派遣したりしている。
  • 今後は、階層別の一律教育ではなく、選抜した幹部候補生への教育、社外教育機関による徹底した叩き込み、注力スキルを絞った研修、自社の課題に沿った研修などを強化したいと認識している経営者が多い。

4. 中間報告の所感

(ア) 環境認識・問題意識ともに、信州企業だけに特有のものではなく、多くの日本企業に多かれ少なかれ共通するものである。また、産業構造の変化に備え、人材を競争力の基盤に据えるために、海外現地も含めて人材育成・開発に積極的に投資をしていく意向が強いのも、健全な認識であると感じた。また教育機関である信大として、人材の面では、今後もさまざまな形でご支援できる機会がありそうだ、との印象も改めて感じた。

(イ) 韓国・中国・インドなど今後の主戦場の現地成長企業は、ダイナミックな動きをしている。人材育成一つとっても、幹部社員を大量に経営大学院に送り込んだり、企業内大学を設置して企業全体の「学習組織化」を図ったり、あるいは海外現地言語の大量エキスパート育成を進めたりしている。こうした新興国企業のアグレッシブさ(積極果敢さ)に比べると、信州あるいは日本の企業経営者は、堅実ともいえるし、国際競争を戦うにはまだやや保守的で慎重だとも感じられる。

(ウ) 今後訪問活動を進めていく中で、こうした点などに関しても、引き続き意見交換をさせて頂きたいと念願している。


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