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信州大学グリーンMOT(技術経営)教育プログラム

 

 

はじめに

20087月に開催された北海道洞爺湖サミットで地球規模の気候変動(温暖化)が主要議題に採り上げられていたことは記憶に新しく,地球環境問題への取り組みは,今や喫緊の課題として広く認識されつつあるところです。

 

環境配慮型の経済活動,いわゆる「グリーン」化の動きの本格化は,1980年代後半から地球環境問題への関心が高まり,持続可能な開発が求められたことに対応しています。このグリーン化の内容は多様であり,二酸化炭素の排出削減にとどまらず,重金属や化学物質による環境汚染の防止,廃棄物の再利用,将来の資源枯渇と食糧不足への対応など,様々な問題があります。

 

この環境問題をめぐっては,先進国と新興国・発展途上国の間だけでなく,先進国内でも大企業と中小企業との間では,企業規模や技術蓄積などの差異を反映して,その取り組みには大きな格差がみられます。

 

大企業の環境問題への取り組みと比較して,一般に中小企業のグリーン化には制約が大きいといわれますが,その主な理由のつに環境人材の確保の難しさが指摘されています。2008年度から開始された環境省の「アジア環境人材育成イニシアティブ(ELIAS :Environmental Leadership Initiatives for Asian Sustainability)」の一環として,信州大学が,地域の中小企業の環境経営を担う人材育成を目的とした「グリーンMOT(技術経営)教育プログラム」を提案した理由は,まさにここにあります(注)。

 

私たちは,「MOT」(Management of Technology 技術経営)を,広い意味での「ものづくりの経営学」と捉えています。環境経営において地域企業の競争力を高めるために必要とされる要素とは何かを考え,そこから導かれたつの要素に関して強みを発揮できる人材,すなわち環境意識が高く,環境経営に必要な知見を備えた経営幹部とエンジニアを育てる教育プログラムを構成しています。

 

地球環境問題は,文字通り国境を超えた取り組みですが,地域の中小企業を対象としたグリーンMOT分野の積極的な開拓は,その基礎的条件の面で,アジア地域を中心とした経済発展が著しい新興国の企業経営のグリーン化についても,移転可能な施策として参考になるところがあるかと思われます。本プログラムの施行を通じて得られた知見が,アジア地域の環境人材の育成と環境経営の実現のため,微力ながら貢献できることを希望しています。

 

(注)プロジェクトの正式名称は,「グリーンMOT(技術経営)教育プログラムの推進」です。環境省の「平成20年度 環境人材育成のための大学教育プログラム開発事業」の1つとして採択されています。

 

 

グリーンMOT教育プログラムの目的

信州大学の「グリーンMOT(技術経営)教育プログラム」は,地域の中小企業の環境経営を担う人材育成を主な目的とした教育プログラムです。

人材教育の面からみた,信州大学が提案する「グリーンMOT教育」のねらいは次の3点です。

 

@      地域のものづくり中小企業の経営者や経営幹部,エンジニアなどを対象とした実践的な「社会人教育プログラム」の構築

A      本来の専攻を有する工学系大学院生を対象としたグリーンMOT教育の充実による技術系環境人材の育成

B      ソーシャル・マーケットの拡大,学生の起業志向をふまえた学生社会起業家育成プロジェクトの推

 

 

グリーンMOT教育における人材育成とその波及効果

 

 

このようなグリーンMOT教育の実施により期待される主な教育効果としては,次の3点が指摘できます。

第1は,実践的な技術知識と経営戦略の策定能力を有した環境人材が養成されることです。

第2は,地域の社会人を対象としたMOTプログラムであるため,本課程の修了者を中心に,地域のものづくり中小企業経営者,エンジニア,および大学や行政の間でのグリーン化に関する情報交流のネットワークの構築が可能になる点です。

第3は,地域での取り組みを確立することによって,「信州モデル」として全国の地方の中小企業,さらに中小企業のグローバルな展開過程において,アジアの中小企業のグリーン化へとつながることが期待できるという点です。

 

 

経営大学院におけるグリーンMOT教育プログラムの位置づけ

経営大学院では2009年度より,グリーンMOT教育プログラムに関する科目群(基礎科目,経営系科目,技術系科目)が開講されます。受講にあたっては,経営大学院の既存基本科目(経営基本科目,市場関連科目,組織関連科目,研究開発関連科目)とあわせて履修が可能となるようカリキュラム体系が整備されています。

 

工学系の大学院生を対象としたジョイント・ディグリー制度は,環境人材の育成において環境省が提唱するT字型人材の育成に対応するものです。総合工学系大学院(博士課程)の入学予定者と1年次の学生は,この制度を利用することによって,専門分野における博士号とは別に,マネジメント修士の取得が可能です(その際の追加的な学費は必要としません)。

 

 

経営大学院におけるグリーンMOT教育プログラムの位置づけ

 

 

グリーンMOT教育プログラムの概要

本プログラムは「グリーン」+「MOT」+「教育」の3つの要素を基本コンセプトとしています。「MOT」(Management of Technology )とは「技術経営」を意味しますが,私たちは広い意味での「ものづくりの経営学」として捉えています。

 

 

グリーンMOT教育プログラムの概要

 

 

 

グリーンMOT教育プログラム関連科目

   

 

 

カリキュラム編成の基本コンセプト

環境配慮型の経済活動,市場からの「グリーン化」の要請に対して,地域の中小企業が主体的に適応していくためには,環境経営における競争力を高める必要があります。環境経営において競争力を高めるためには,次の4つの要素が競合企業との差別化要因としてあげられます。

 

(1)環境問題と持続可能な開発に対する理解と共感

(2)高い水準の環境効率を可能にするマネジメント能力

(3)地域経済や中小企業経営に関する情報

(4)環境技術に関する知見

 

この4つの観点から,環境経営を担う人材を育成することは,持続可能な企業経営を実現する上で効果的なアプローチになると考えられます。グリーンMOT教育プログラムのカリキュラムは,このような理解に立って構成されたものです。

 

グリーンMOT教育プログラムの推進体制

信州大学のグリーンMOT教育プログラムの推進体制には,3つの特色があります。

 

第1は,環境マインドを持つ人材養成に関する信州大学の全学的な取り組みの成果,そして経営大学院のMOT教育,技術系社会起業家育成への取り組みの成果などを活用していることです。

 

第2は,信州産学官連携推進機構や経済団体,環境団体,NPOなどと連携・協力して,地域ぐるみの推進体制の確立を目指していることです。200810月には,環境経営における信州地域の産学官ネットワークとなる「信州サステイナビリティ・フォーラム(SSF)」を創設しました。

 

第3は,地域からの情報発信の推進です。上記のSSFに加えて,これまでに全国の中小企業関係者が参加する「中小企業軽井沢サマースクール」(信州大学と中小企業基盤整備機構の共催)を実施しています。

さらに国際的な連携では,国連大学高等研究所による「アジア環境大学院ネットワーク(Promotion of Sustainability in Postgraduate Education and Research Network ProSPER.Net)」への参加があります。アジア太平洋地域におけるグリーン化活動の一環として,本プロジェクトの成果を広く同地域各国の大学院と共有することを目指しています。

 

グリーンMOT教育プログラムにおいて,カリキュラムの編成と同様に重要なのは,本プログラムを修了した学生が,地域において自らの企業を中心に文字通り「持続可能な」環境問題への取り組みを行っていくことです。

この持続可能な取り組みを可能とするためには,本プログラムの修了者や大学関係者だけでなく,地域の幅広い関係者が連携,協働することを可能とするを設けていくことが大切です。

 

先にふれた「信州サステイナビリティ・フォーラム(SSF)」は,このような理解に立って,グリーンMOT教育プログラムの展開にあわせて,地域の環境関係の人材や企業のための常設ネットワークとなるべく創設したものです。基本的に年2回の開催を予定しており,2008年度には第一回会合(20081027日開催)として環境省とのラウンドテーブルを,第二回会合(200935日開催)では「信州中小企業の環境経営」をテーマに公開シンポジウムを行っています。

 

本プログラムの修了者,現役学生,教員の他,企業,行政やNPO関係者がSSFに積極的に参加して,自由闊達な交流が行われることが大きく期待されます。

 

 

グリーンMOT教育プログラムの推進体制

 

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