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窒素をめぐる旅

私たちを取り巻く大気の約80%は窒素ガスです.しかし、この窒素ガス(N2分子)は、化学的に強く結合していて非常に安定であり、植物をはじめほとんどの生物には利用できません.

窒素ガスを利用できる生物は、一部の微生物(主に窒素固定細菌)だけです.それらの微生物が作るアンモニアが植物に吸収され、動物、微生物を通して生態系全体に行き渡ります.微生物による窒素固定量は限られていて、多くの生態系では窒素は貴重な資源であり、不足気味です.

1900年代に入り、人類は大気中の窒素ガスからアンモニアを合成する技術を開発しました.その結果、窒素肥料の生産が可能になり、世界の食糧生産は飛躍的に増大し、急速な人口増加を支えてきました.現在では、人工的な窒素固定量が、従来の微生物による固定量を上回っています.

農地に供給された窒素肥料は、食糧として人類や家畜に利用され、最終的には排泄物に含まれて、地下水や河川、湖沼、海洋に流出します.また、農地で使われた窒素肥料の一部は、植物には吸収されず、降水とともに地下水に入ります.これらの流出した窒素成分は、湖沼や海洋の富栄養化(アオコや赤潮)問題を引き起こしています.

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農作物の生産には肥料が欠かせません.

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最近では下水道(水洗トイレ)が普及し、身の回りはきれいになりましたが、処理場からは、窒素やリンが排出されて、河川に入ります.

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時には最先端の分析機器を使うこともあります(写真奥は質量分析計).

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分析の結果、ある地域の地下水中の窒素の大半が肥料由来であることがわかりました.

肥料や家畜排泄物からはアンモニアが発生し、また工場や自動車からは、化石燃料の高温燃焼にともないNOxが排出され、いずれも大気中で水滴に溶け込み、硝酸塩やアンモニウム塩となって降水とともに地上に降り注ぎます.本来、窒素が不足気味であった森林等の自然生態系でも窒素の供給量が増えています.



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降水中の窒素成分を捕集するための樹脂カラム

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快適な渓流調査

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山奥の清涼な渓流水でも、含まれる窒素(主として硝酸態窒素)濃度には大きな地域差があることがわかります.

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窒素成分を含んだ人工雨の散布

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地下への流出を調べるために土壌中に樹脂バッグを埋設

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標高2,100mに位置する白駒池.流入する腐植物質を起点とした特異な生態系がみられます.このような高山湖沼にも人間活動の影響が及んでいるかも知れません.

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息抜きのひととき(縞枯山、2007年5月)



キーワード:窒素、硝酸、水、陸水、水質汚染

戸田 任重