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日本の淡水魚の過去と現在、そして未来

淡水魚類の種分化と絶滅プロセスの解明

トゲウオの種分化
高校生物の教科書に出てくるイトヨは雄の婚姻行動で有名ですが、その仲間であるトミヨ類もイトヨと同じように雄がジグザグダンスを踊り、水草に巣を作って雌の産む卵を保護することで知られています。この魚は夏でも20℃以下の冷たい水を好む冷水性淡水魚であるため、日本では北陸以北にしか分布していません。このトミヨの仲間は外観からの形で種類を区別することは難しいとされていました。

最近の私たちのDNA などの遺伝子情報をつかった研究で、シベリア大陸からカムチャッカ半島、サハリン、日本列島周辺には少なくとも4 種類のトミヨの仲間が分布していることが明らかになってきました。

しかも、遺伝子の情報を使うことにより、これら4種が現在までの200 万年ほどの間に1つの共通の種から現在見られる4つの種へと進化(種分化)していることを突き止めました。彼らはどの様なきっかけで種分化を起こしたのでしょうか?

今私たちは過去の寒冷化と温暖化が交互に起ったことと、彼らの種分化と関係について仮説を立て、その検証に取り組んでいます。

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巣に入る雌を見守るトミヨ類の雄 撮影:武田隆吉

交雑によるシナイモツゴの絶滅機構

シナイモツゴは環境省によって絶滅危惧種に指定されているコイ科の小魚です。シナイモツゴの生息地であった池がモツゴに置き換わった例が最近東日本各地で報告されています。

両方の種が生息しているため池を調べると、シナイモツゴとモツゴの2種類に混じって、どちらの種とも判別できない個体が採集されました。

遺伝子を手がかりにしてこの個体の種の判別を試みました。すると、この個体は両方の種の雑種であることが分かったのです。しかも、この雑種は不妊でした。雑種の不妊はシナイモツゴだけでなくモツゴにも子孫を残せない不利益をもたらします。にもかかわらずなぜシナイモツゴだけが減るのでしょうか?

母系遺伝をするミトコンドリアDNA を使って雑種の母親種を調べると、驚いたことに雑種の母親は例外なくシナイモツゴでした。つまり、モツゴはモツゴの子孫を残せるのに、シナイモツゴの雌だけが子孫の残せない不妊の雑種を産んでいたのです。モツゴとの交雑がシナイモツゴの絶滅の引き金になっているという仮説を検証中です。

ゆめと出会いを大切に

いま、あなたはこの冊子を手に取り、たまたまこのページに目をとめただけかもしれません。あるいは、信州大学理学部の情報を詳しく知りたくて手にしているのかもしれません。いずれのひとも大学受験を控えて、将来への希望と不安の入り交じった複雑な心境にあるのではないでしょうか。

そうしたあなたたち高校生へ送る私のメッセージは『ゆめと出会いを大切に』です。

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『ヲタク』でいいじゃないか『ゆめ』があれば
熱帯魚の飼育にはまっているあなた、授業を抜け出して釣りに狂っているあなた、ディスカスの稚魚のえさにはねえ、とか、ヤマメの引きの強さはねえ、なんて動物や植物の話を始めたらとまらない君。『ヲタク』なんていわれることもあるでしょう。でも、あなたは自分の好きなことをやめようとは思わないでしょう。それは、あなたが今やっていることが、あなたの『ゆめ』につながっていると直感しているからだと思います。

将来は日本の絶滅に瀕している動植物を救いたいとか、将来の食料資源の確保のために、収量のよい作物を遺伝子組換え技術を使って作り出したいなどの『ゆめ』を熱く語っているあなた。多分あなたは、生物系の大学を目指しているのではないでしょうか。

生き物の何から何までをとことん理屈で説明し探求する。こうした『こだわり』のあるあなたの『ゆめ』を追求できる場を提供できるのは理学部をおいて他にはありません。

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トミヨ類が棲むシベリアの川

出会いを求め『ゆめ』を実現させろ
『ゆめ』の実現にむけてあなた方は第一歩をふみ出そうとしているところだと思います。一方で学科や大学の選択など、悩みも多いことでしょう。

私は信州に来る前に、四国と北海道で生物学を学びました。中国地方の瀬戸内で育った私が四国で学ぶきっかけになったのは、淡水魚の生態と調査方法について書かれたある本との出会いでした。その本の著者に直接指導を受けたいと強く感じたのです。北海道との出会いのきっかけは、本ではなくその雄大な自然そのものでした。人っ子一人いないサロベツ原野にトゲウオの謎を追い、はるかサハリンを眺めながらシベリアのトゲウオに思いを馳せていました。

信州に来てびっくりしました。キャンパスのそばにある里山のため池でモツゴの観察をしていたかと思うと、ものの30 分かからずに標高2000mの山岳渓流でイワナに出会えるのです。

また、信州は日本海側に流れる信濃川、太平洋側に流れる木曽川、天竜川の上流部にあたり、いながらにして日本海側と太平洋側の魚類相の両方に出会えます。信州大学は日本でも希有の自然に囲まれているだけではありません。

信州大学理学部の生物科学科には、きわめつけの山好き、自然好きの学生が集まってます。しかも、ただ好きというだけでなく、自然を論理的に解明したい、客観的に説明したいという『こだわり』のある人たちなのです。そういう人たちとの出会いは、あなたの『ゆめ』の実現を確実なものにしてくれるでしょう。この拙文が信州の自然とあなたが出会うきっかけになること、そして、信州というすばらしい自然の中で、あなたの『ゆめ』が実現されるきっかけになることを願っています。

高田 啓介