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物作り(有機化合物の合成)は楽しい!

現在の研究テーマ:π-電子系共役化合物の合成および機能性に関する研究

研究テーマを簡単に説明すれば,「有機化合物を新たに作って,その構造と性質を調べ、どのように役立つかを探る」ことです。「新たに作る」という意味には二つあり,未知の化合物を作るという意味の他に,従来とは異なる新たな方法で既知のものも含めて作ると言う意味もあります。私の研究でもの作りする際にはいずれの方法も研究対象としています。では,どんな「有機化合物」を作るのかというと,標題にある「π−電子系共役(きょうやく)化合物」を中心に研究を行っており,はじめに「π-電子系共役化合物」について説明しましょう。ご存知のように,有機化合物とは炭素・水素原子を主に酸素,窒素,硫黄,リン,ハロゲン原子等を含む化合物群のことで,その骨格を構成する原子は炭素原子です。有機分子中における炭素原子同士の結合様式にはいくつかの種類があり,それに応じて分子の形や反応性も違ってきます。炭素は4つの結合を持つことができ,炭素同士の結合には,単結合,二重結合,及び三重結合が可能です。一方,結合にかかわる電子の性質は結合の種類によって異なり,単結合ではσ-結合だけから成り,これにかかわる電子をσ-電子と呼ぶのに対して,二重および三重結合ではπ-結合も含まれ,これにかかわる電子をπ-電子と呼びます。ですから,π-電子系化合物とは二重や三重結合を含む化合物を意味するのですが,共役した状態というのはこれらが単結合などと交互に配列した化合物群のことです。代表的な例が6員環から成るベンゼンやナフタレンです。

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ベンゼン            ナフタレン

環の大きさや縮合する環の数が異なると,同じ類いのものは無数に考えられますが,合成的な困難さから7〜9員環を含む化合物は未着手な領域です。具体的なことは省略して,私の研究では以下に示す5~8員環が縮合した炭化水素A~Cなどの合成検討を行なっています。また,通常では不安定な正電荷をもつイオン種D~Eについても構造的な安定化要因を探りつつ,その合成と化学的な性質について研究しています。

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高校生へのメッセージ

「π−電子系共役化合物」との出会い
現在研究対象としている「π−電子系共役化合物」と私自身との出会いついて記しました。はじめに,私がなぜ大学の理学部に進学して「科学 (Science)」を勉強しよう思ったかとういうことです。思い出してみると懐かしいことなのですが,それは高等学校の生物の授業が大きなきっかけでした。1年生の生物の授業は教科書を全く開くこと無く,先生の用意してきた教科書に匹敵するような膨大なプリントを用いて授業が進められました。そこには一般的な「科学」を勉強する手法なるものが植物分類学(?)とともに書かれていました。詳しい内容は憶えていませんが,まあざっとこんなことでした。周りを見渡して植物があれば、それらに異なりや類似があり,場所ごとに生息の分布がある。なぜこの植物がここに多く別のもがここにはが少ないのかということが,自然に疑問となる。高校の裏は藻岩山という標高500 m程の山で木々に満ちた所でしたので、先生は生徒をしばしば(天気のよい時に突然にでしたが)裏山に連れ出して,この木がどんな種類でどういう所に多く、似た種類のものがどうなっているかというようなことを熱く語られました。授業の根幹には、こういう観察から湧いてくる疑問について学術的にまたは学問としてどう向き合うのかということがあり,懸案の事象を説明するための「仮説」の設定とそれを説明するための「実証的な解明(例えば,実験による証明)」が学問の発展と進歩に繋がることを植物学の色々な事例をもって強調されました。この授業を通して,「植物分類学」に特に興味をもつということにはならなかったのですが,なんとなく「学問」やら「科学」とういうものの息吹に触れて,漠然と興味をもつようになったのは事実です。この授業はこんな具合で1年間が過ぎ,先生曰く,「生物を受験科目にしたい人は(一度も開かず横に置いてある教科書をつまんで)これを読んで自分で勉強して下さい。」そういうことで,大学受験に際して先生の御蔭で理学部への進学を決意したものの,自分の不勉強のために生物へは進めず(決して,先生は恨んでおりません),当時高分子や天然の化合物に興味があったことから化学科へ進学しました。
さて,大学でさらに化学科の多彩な分野の中からどんな経緯で有機化学を学ぶことになったということについてですが,化学科の3年生から進級して卒業研究を行うに際していずれかの講座を選択する機会(講座配属)がありました。結果的にその後鞍替えせず有機化学に長年携わって来たので,その講座配属は人生を左右する重要な岐路だった訳です(その折にはあまりそういう自覚は全くなかったのですが)。当時,化学教室には分析化学2講座、無機化学2講座、物理化学2講座、有機化学4講座、生化学1講座があり、生化学や無機の錯体化学にも興味もあったのですが,天然物化学を勉強したいという希望から、有機化学講座のなかで天然物化学を最も面白く展開していた恩師北原嘉男先生の講座を選びました。卒業研究のテーマは「エレモフィラン型セスキテルペンの全合成」としてスタートしました。しかし,実験技術が未熟だったため失敗の連続で,なんとか卒論発表は終えましたが,胃の痛む日々で,先生が見かねて修士からテーマをπ−電子系共役化合物の合成研究へ変更し,それが現在も続いている次第です。天然物化学の一領域から「非ベンゼン系(ベンゼン以外のπ-電子系)共役化合物の化学」が発展した経緯もあり,天然物とπ-電子系共役化合物では異なるものようですが共通するところも多くあり,興味深く勉学・研究を行うことができました。結局,行き着くとこへ自然に至ったよう思います。「人間万事塞翁が馬」とでもいうべきことでしょうか。

研究室の風景

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小田 晃規