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森清 寿郎

森清 寿郎

地球学コース

講座:地球物質科学分野
職名:教授
略歴:
1951年 東京に生まれる
キーワード:ノジュール
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私が今研究していること

泥がかたまった地層のなかには、ときどき、5cmくらいの丸くて硬い塊がふくまれています(下図、ペンの右下方)。

img_410_0.jpg

これはノジュール(団塊)というもので、泥や砂粒が、炭酸カルシウム(方解石、\(CaCO_3\))などで硬く固められたものです。ノジュールによっては、固めている物質が炭酸カルシウムではなく、炭酸鉄(菱鉄鉱、\(FeCO_3\))や、硫化鉄(黄鉄鉱、\(FeS_2\))、燐酸カルシウム(燐灰石、\(Ca_5(PO_4)_3F\))である場合もあります。菱鉄鉱である場合は、主成分が鉄なので、手に持つとずっしりと重く、何か異常であることがすぐわかります。こんなへんてこなものがいったいどのようにしてできたのでしょうか。泥と砂が交互に重なる地層では、堆積時にできた層状の構造が、地層の断面では線となって見えます。その線状の構造が、ノジュールの内部へも連続するので、ノジュールは、泥や砂が堆積した後に、地層中で成長したものであることは確実です。私が今研究しているのは、このノジュールのできる過程です。

地層をつくっている堆積岩とは、泥や砂がかたまって岩石になったものをいいます。そのような堆積岩のできかたは小学生でも理解できるものです。しかし、泥や砂がかたまって硬い岩石になる過程は、あまりわかっていません(もっとも、私だけがわかっていないのかもしれませんが。)

かってある先生と話をした時、その先生はノジュールについて「地層のなかにでる非常に特殊なもの」といいました。しかしそのような把握が的を射ているとは思えません。それは次の理由からです。泥や砂粒からなる地層には、海底などで堆積した当初は、砂粒の間に水溶液がつまっていました(これを間隙水といいます)。地層の埋没が進むとともに、この間隙水から炭酸カルシウムやほかの物質が新たに沈殿し、粒間を埋めることによって、固まっていない泥や砂が硬い堆積岩に変わります。この作用を続成作用といいます。ノジュールは、実は、続成作用において生じていることを、よくあらわす試料なのです。

ノジュールの炭酸カルシウムの炭素は、動植物が分解したもの
ノジュールに含まれる炭酸カルシウムの炭酸イオン(\(CO_3^{2-}\))は、嫌気性の硫酸還元バクテリアの働き(硫酸呼吸)によって、地層のなかに含まれていた有機物(動植物の遺骸)が、下の式のように酸化されてできたものです。

\[2CH_2O(有機物)+ SO_4^{2-} → H_2S + 2HCO_3^-\]

このときできる炭酸水素イオン(\(HCO_3^-\))は間隙水のなかでさらに解離して炭酸イオン(\(CO_3^{2-}\))になり、それが\(Ca^{2+}や Fe^{2+}\)と結びついて、方解石(\(CaCO_3\))や菱鉄鉱 (\(FeCO_3\))として沈殿します。炭酸イオンの原材料である有機物は、もともとは低い炭素同位体比(下のBox 参照)をもっているので、有機物由来の方解石は、有機物と同様に低い炭素同位体比を示します。このことから、方解石や菱鉄鉱の炭素が、無機物起源ではなく、有機物に由来するということがわかるのです。

炭素という元素には、質量数が12と13の同位体があります。地球での炭素13の存在度は、原子数百分率として1.07%です。[炭素13の原子数/炭素12の原子数]のことを炭素同位体比といいます。動植物をつくっている物質では、炭素13の量がつねに少なく、そのため炭素同位体比が同位体比基準値より低くなります。これを炭素同位体比が低い、といういいかたをします。

炭素同位体比を測定するには、方解石や菱鉄鉱から炭酸ガスを抽出し、それを質量分析計に導入して求めます。下は、信州大学地質科学科に設置されているガス同位体分析用の質量分析計です。

img_410_1.jpg

硫酸還元バクテリアの呼吸によって、炭酸水素イオンのほかに硫化水素(\(H_2S\))ができます。硫化水素は間隙水中の鉄イオンとただちに反応して硫化鉄(FeS)となり、やがて下の写真のような独特な構造の黄鉄鉱(\(FeS_2\))に変わります。(フランボイダル黄鉄鉱といいます。) このような構造がどうしてできるのかということと、最初できたFeSがどのような過程をへて\(FeS_2\)へ変化するのかは、いまだよくわかっていません。

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私が今具体的にやっていること
私が今研究している対象は、宮城県の登米層(時代は古生代ペルム紀)の中にでてくる燐酸塩ノジュールと、長野県の第三紀層に産する菱鉄鉱ノジュールです。おもに炭素・硫黄同位体比と鉱物や全岩の化学組成を分析する、化学面からのアプローチが中心です。研究の当面の目標は、燐酸塩ノジュールについては、続成作用のある時期に燐酸塩が沈殿する必然性を解明すること、菱鉄鉱ノジュールについては、鉄のソース(起源)と、続成作用のあいだに、どのようなイオンや物質がノジュール周囲の泥岩から移動してきて沈殿し、ノジュールをつくったのか、ということの解明です。

みなさんのなかには、瑣末な役にたたないことを研究している、と思う人もいるかもしれません。 私がノジュールの研究に魅せられたのは、ノジュールに(おいても)自然の法則性・論理性がよくあらわれていることと、コンパクトであるがゆえに、それを認識できる可能性が大きいこと、からです。信州大学理学部地質科学科にきて、私といっしょに、自然を研究しませんか。