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樋上 照男

樋上 照男

化学コース

講座:分析化学分野
職名:教授
略歴:
1974年 大阪大学理学部化学科卒業
1979年 京都大学大学院理学研究科化学専攻修了,博士(理学)
1981年 長岡技術科学大学工学部助手
1989年 大阪大学理学部助手
1996年 大阪大学大学院理学研究科助手
1999年 信州大学理学部助教授
2004年 信州大学理学部教授
現在に至る。
キーワード:電気分析化学
ホームページ:http://science.shinshu-u.ac.jp/~chem/bunseki/index.html
SOARリンク:SOARを見る

分析化学は測定法を考え出す化学

現在の研究テーマ:レーザーを用いる電気化学測定法の研究

光は電磁波とも呼ばれ,電場と磁場が交互に振動する横波で,波長によって様々な名前で呼ばれます。波長の短い順にγ線(\(10^{-11}\)m以下),X線(\(10^{-11}~10^{-8}\)m),紫外線(\(10^{-8}~10^{-7}\)m),可視光線(\(4×10^{-7}~8×10^{-7}\)m),赤外線(\(10^{-6}~10^{-3}\)m),マイクロ波(\(10^{-3}~0.1\)m),電波(\(0.1\)m以上)です。波長領域はおおよそのものです。私達が,通常,光と呼んでいるものは可視光線です。光には様々な作用があります。例えば,紫外線は化学結合を切断するために日焼けの原因となります。赤外線は分子の運動を活発にするため,赤外線ランプに当たると暖かくなります。光の作用は普通の強さの光でも生じますが,レーザー光では作用が著しく現れます。レーザー光には優れた単色性や干渉性,高い輝度,良好な指向性などの優れた性質があります。レーザーポインターを使った人もいると思いますが,原色のきらきらした光線が真直ぐにスクリーンに届くのを見たことがあるでしょう。このような性質を利用して,面白い現象を引き起すことができます。私は小さな電極を熱することを思い付きました。電極は溶液中の分子(またはイオン)と電子をやり取りします。分子から電極へ電子が移ると,分子は酸化されます。反対に電極から分子へ電子が移ると,分子は還元されます。電極での酸化や還元が電極反応と呼ばれる反応です。電子のやり取りがあるので,酸化や還元を電流として測定できることが想像できるでしょう。化学反応はすべてそうなのですが,電極反応も温度の影響を受けます。従って,レーザー光を照射して電極の温度が高いときの電流と照射していないときの電流は異なります。この差を測定すると,高感度に酸化や還元を検出する,すなわち,酸化や還元のもとになる分子の濃度を量ることができます。私は,これをレーザー温度変調ボルタンメトリーと名付けました。現在,この方法を用いて,信濃川のリン酸イオンの高感度分析を行っています。レーザー光を用いた面白い現象をもう1つお話します。1ナノ秒(\(1×10^{-9}\)s)以下の時間幅で,強力なレーザー光(レーザーパルス)を物体に照射すると,物体の表面だけを削りとることができます。この現象をレーザーアブレーションと言います。電極反応で分子をはかるとき,問題となるのが電解生成物による電極表面の汚染です。電極を試料溶液から一旦取り出して磨けばいいのですが,毎回毎回磨いていては手間が掛かるだけです。そこで,測定中にレーザーパルスを電極表面に照射して,汚れた電極表面を削りとれば,常に新鮮な電極で測定ができるはずです。私は,この方法をレーザーアブレーションボルタンメトリーと名付けました。現在,海洋化学の先生方と協力して,この方法を用いて海洋火山周辺の硫化物イオンの連続その場分析を計画しています。

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フラーレンの光化学反応を利用した新しい光化学電池の開発。左が擬似太陽光源で、右が光化学電




高校生へのメッセージ

大学で学ぶことは,人生を豊かにすることです。どの学部に入学しても,このことには変わりがありません。私達を取り囲む環境,すなわち,自然や社会はどのような歴史的な背景をもって現在に至ったのか,また,将来どのように変わっていくのか,このような問題を,広い視野とそれぞれが専門とする立場から考え,社会に提案できるような知力や体力を培うところが大学であると思います。就職に有利だから大学に行くと考える人もいるかもしれません。勿論,そのような動機も結構なのですが,大学で学んでいるうちに,大学で学ぶことの個人としての意味や社会としての意味に気付いていってもらいたいと望んでいます。

私が専門としている分析化学の1つの目的は,自然における物質の動態を理解するために,分子などの濃度や物質量をはかることや,はかる方法を考案し,それを開発して応用することです。歴史を振り返れば明らかなように,私達の社会の発展は,ものを定量的に(数値的に)把握することによって成し遂げられてきました。長さを定規で測る,重さを天秤で量る,時間を時計で測るなど,今では当たり前と思っていることも,ものを定量的に把握することに他なりません。さらに,定量的に把握する方法も,先人や私達が色々と思案し,試行錯誤しながら創ってきました。昔は眼に直接見えるものの長さや重さなどの物理的な性質をはかることが主でしたが,15~16世紀の宗教改革やルネサンスを経て,17~19世紀になると,この世界を構成する根源が徐々に明らかにされ,これに伴い,直接眼に見えないものをはかる方法も発展しました。この流れは,現在も益々進んでいます。ナノ(n)やピコモル(p moldm\(^{-3}\))の極めて低い濃度をはかる分光分析法や電気化学分析法,分子や原子を直接見ることできる顕微鏡,生きたままで細胞中の物質の動きを観察できる顕微鏡などなど,分析法は半導体やレーザー技術,コンピュータ一技術の発展と関連して素晴らしい進歩を遂げています。一方,20世紀から現在になるに従い,様々な問題が浮上してきます。人間の生活に直接関わる貧困の問題,病気の問題,宗教の問題が顕在化するとともに,これらと密接に関連する環境問題は深刻な状況であることは既にご存知でしょう。これらの問題をどのように克服していくかは人類に課せられた大問題ですが,問題に対処していく第一歩は,はかることであると言っても言い過ぎではないと思います。地球温暖化問題では,私達は年間にどれほどの二酸化炭素を放出しているのか,放出された二酸化炭素はどのように存在しているのか,さらに,二酸化炭素はどのような状態で地球に保存されているのか,といった問いに正確に答えることが,地球温暖化を正しく認識し,適当な政策に繋がっていくことになると思います。国際的な様々な思惑がありますので,この問題が一直線に問題が解決するとは思いません。しかし,少なくとも,正しくものをはかることが重要であることは明らかです。

皆さんの中には,なぜ勉強しなければならないのか,と疑問に思う人もいるでしょう。私は,この問いに一口で答えることはできません。ただ,勉強しなければ,より大きな問題の理解ができないと思います。上述した地球温暖化の問題を,過剰な化石燃料の消費のため,二酸化炭素の温室効果により温暖化が起きる,とよく説明しますが,実際はこれほど単純な図式ではありません。産業や農業のエネルギーや物質の循環の実態に加えて,太陽や惑星の生い立ち,陸,海,大気の構造と動態,動植物の生産と消費,エネルギーの性質,分子の構造など様々な知識を織り合わせて理解しなければなりません。そのためには高校の授業はどれも基本的で大切です。人によって好き嫌いはあります。物理は難しくて,と思う人がいます。英語は単語を覚えるのが苦手,と考える人もいるでしょう。しかし,私の経験からですが,年を重ねて理解力が育ってくると,嫌いなことが逆に大好きになることがよくあります。人類の歴史や環境をより深く理解しこれらの問題に正しく対処していくために,勉強を苦しみながら楽しんで下さい。

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諏訪湖での水質調査(修士課程 計測化学特論の授業の一環として)