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武田 三男

武田 三男

物理学コース

講座:光物性分野
職名:教授
略歴:
1973年 信州大学理学部卒業
1975年 新潟大学大学院理学研究科修士課程修了
1978年 名古屋大学大学院工学研究科博士課程修了、名古屋大学工学部助手
1985年 信州大学教養部助教授
1995年 信州大学理学部助教授
1997年 信州大学理学部教授 現在に至る
キーワード:フラクタル
ホームページ:http://science.shinshu-u.ac.jp/~thz/
SOARリンク:SOARを見る

物質によって光をあやつる

現在の研究テーマ:物質による電磁波の制御

『光を閉じ込めるにはどうしたらよいのか?』
1. はじめに
遊園地の「鏡の部屋」や床屋さんで自分の前後または左右に鏡があって、鏡の中に鏡が無限に写っていた不思議な体験をした経験はありますか。これは空間が無限に広がったわけではなく、光が平行な2枚の鏡に繰返し反射されているために起こっていることは直ぐに理解できます。自分自身で2枚の鏡の中に立って確かめたわけです。このように、光をある決まった空間の中に閉じ込めておく最も簡単な方法は2枚の平らな鏡を平行においてその中に光を導くかその中に電球をおいて光を発光させてやれば良いわけです。このような平行な平面鏡でできたものを共振器(キャビテイ:cavity)と呼びます。
通常の鏡はガラス板の表面に銀やアルミなどの金属をメッキや蒸着で張り付けて作られています。光はこの金属の表面で反射されるわけです。金属には自由電子と呼ばれる金属中をほとんど自由に動き回れる電子が沢山存在しています。この自由電子との相互作用で光は反射されるのです。銀やアルニウムの鏡で自分の顔を移すと実際とほぼ同じ色合いで写っています。
したがってこのような材質の鏡で共振器を作れば光の波長によらず全ての光を閉じ込めておくことができます。といっても、電子は光によって運動するとき金属内の電気抵抗によりその運動するためのエネルギーが反射のたびにジュール熱となって失われてしまいますのでいつまでも閉じ込めておくわけにはいきません。四方八方を鏡に囲われた「鏡の部屋」の中でライトを消すと一瞬のうちに真っ暗になってしまいますね。
そこで、どうしたらより長く、しかも自分のすきな波長の光を閉じ込めておくことができるかを考えて生まれたのがフォトニック結晶の概念です。

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Magnetic Field

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図1 フォトニック結晶と光の局在



研究領域紹介と私の夢

2. フォトニッククリスタルとフラクタル
私達の身近な物体はそのほとんどが色をもっています。例えば、街路樹の木の葉は緑色ですし、道路のアスファルトは黒色です。葉っぱはその細胞内に光合成をする葉緑素が含まれているために緑色に見えますし、血液は赤血球のヘモクロビンのために赤く見えます。これに対して空にただよっている雲はもともと透明な水滴の集まりなのに白色に見えます。物体を見たときの色には物体を構成する物質そのものの発する色の場合と物質の構成する構造によって特別な波長の光だけが効率良く反射されて色がついてみえる場合に大きくわけることができます。ここでは、後者の物質の構造により見た時の色がかわるいわゆる『構造色』ともいうべき色について考えましょう。
蝶の羽のきれいな光沢は、良く観察すると見る位置や方向によって微妙に変化します。ハトやクジャクの羽根もそうですね。ご存知のように蝶の羽の表面には鱗粉という細かい粉のようなものが付着しています。この鱗分ひとつひとつを顕微鏡で拡大してみると細かいギザギザがわりと整然と並んでいるのが分かります。鳥の羽根もやはり拡大してみると周期的空間構造になっていることが分かります。この周期はちょうど発色している光の波長と同じ程度になっています。このように空間構造によって発色していることを構造性発色と呼んでいます。宝石のオパールの発色の原理も周期空間構造に由来します。
しかし、よりもっと上手なものがいます。サンゴ礁に住むスズキ目のスズメダイ科のルリスズメダイという熱帯魚はコバルトブルーの体表をしています。浅い内湾に多く居ます。小さなプランクトンを主食にしながらサンゴの陰などに群れています。7cm程の小さな体ですが鮮やかなブルーは、遠くからでも目に止まります。臆病なので近付くとすぐに隠れてしまいますがキラキラした体はすぐに見つける事ができます。かれらの体表には虹色素胞という細胞が配列しています。細胞質の中に反射小板という板状組織が多層膜構造を作っています。反射小板は細胞質に比べて誘電率が高いので、細胞質と一次元フォトニック結晶を構成していることになります。通常はコバルト色を反射させるような格子定数になっていますが、この格子定数を自在に変化させ緑色を反射させることができます。構造色を自在に変化させることができるすぐれものというわけです。私達の研究もようやくこの段階に到達したところです。
一方、フラクタルという概念は1970年代にマンデルブロー(B. B. Mandelbrot)により提唱されました。結晶における"周期性(periodicity)"に対して、フラクタルでは"自己相似性(self-similarity)"という階層構造がその本質的特徴です。ブロッコリーを買ってきて、その一部をとってみましょう。それは、元のブロッコリーと同じ構造です。これが自己相似性です。樹形やリアス式海岸、入道雲など自然界にはフラクタル構造が良く見られます。

3.将来の夢
最近は、三次元のH字型フラクタル(図2)をひとつの原子にみたてて、テラヘルツ領域の光をあやつる研究をやり始めました。フォトニック結晶とうまく組み合わせることによって負の屈折率(n<0、図3)が実現できるメタマテリアルです。『透明マント』を作ってみたいと考えています。

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図2 三次元H字型フラクタル

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図3 メタマテリアルによる屈折