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宗像 一起

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物理学コース

講座:宇宙線物理学分野
職名:教授
略歴:
1986 年名古屋大学大学院理学研究科博士課程修了
1987 年理化学研究所流動研究員
1989 年信州大学理学部助手
1993 年同助教授
1997 年現職
キーワード:宇宙天気
ホームページ:http://cosray.shinshu-u.ac.jp/crest/
SOARリンク:SOARを見る

「宇宙線の風」を追って

現在の研究テーマ:「宇宙線風」の観測による宇宙空間の研究

「宇宙線」とは,宇宙空間を飛び回っている陽子(水素原子核)を主成分とする放射線です。特にエネルギーの高いものは「銀河宇宙線」と呼ばれ,我々の銀河系内で作られたと考えられています。

銀河宇宙線は宇宙のあらゆる方向からほぼ等方的に飛来していますが,その強度(単位時間・面積あたりに飛来する個数)にはごく僅かな非等方性(異方性)が存在します。これが「宇宙線の風」です。私は,この「宇宙線の風」がどうして吹くのか,またそれを測って宇宙空間の様子を調べられないか,をテーマに研究しています。

1.「宇宙線の風」と宇宙天気
地球周辺の宇宙空間は,太陽磁場を伴った太陽風プラズマで満たされています。宇宙線(原子核)は正の電気を帯びているので,この太陽磁場の影響を受けます。例えば,太陽面でフレアやCMEと呼ばれる爆発現象が起こると,爆発で放出された太陽大気プラズマが約数日後に地球に衝突し,地球で観測される宇宙線の強度(個数)は劇的に変化します。このとき,「宇宙線の風」も嵐のように吹き荒れることが判ってきました。我々は,この「宇宙線の風」を測れば,宇宙空間の天気「宇宙天気」を知ることができると考えています。これは,「台風の目」の位置や進路を風向きや風の強さから知ることが出来るのと似ています。

「宇宙線の風」を正確に測り,何時起こるとも知れない嵐に備えるには,宇宙のあらゆる方向から来る宇宙線を常時監視する必要があります。我々は世界の4箇所に検出器を設置して,グローバルなネットワーク観測を行っています。

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図1.信州大学宇宙線観測ネットワークの観測方向。全部で60方向を同時に観測できる。



つづきと私の夢

2.銀河に吹く「宇宙線の風」
図2は宇宙線の強度を,飛来方向の赤経(横軸)・赤緯(縦軸)の関数としてカラー・マップで示したものです。赤色が宇宙線が多く飛来する方向,青色が少なく飛来する方向を表しています。この図で観測された宇宙線は,1.で述べた宇宙線より100倍もエネルギーが高く,太陽活動の影響をほとんど受けません。したがって,この図の「宇宙線の風」は太陽近傍の銀河磁場の構造が原因で作られていると考えられています。しかし,太陽近傍の銀河磁場の様子は,まだほとんど知られていません。我々は,図2のような宇宙線観測結果が,その様子を知る手がかりを与えてくれると考えています。

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図2.高エネルギー宇宙線で観測された「宇宙線の風」。銀河で吹く風と考えられている。

図2の観測データは,東京大学宇宙線研究所を中心とする研究グループ(私も参加しています)が,チベット高原に設置した空気シャワーアレイという観測装置で観測されたものです。この装置は,同じエネルギー領域の宇宙線を世界最高の精度で観測することが出来ます。今後の研究の発展が期待されています。

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図3.チベット高原(標高4300m)に設置された空気シャワーアレイ



3.私の夢
1.で『「宇宙線の風」を測ることにより宇宙天気を知ることができる』,と書きました。我々の夢のひとつは,『「宇宙線の風」を使って宇宙天気を予報できないか?』ということです。「予報」は的中率が高くなくてはなりませんが,「宇宙線の風」と宇宙天気の関係が良く理解できるようになれば,精確な予報を早期に出すことも可能だと考えています。

「宇宙線の風」を使った予報原理を図4に示します。太陽面爆発で放出されたプラズマの塊は,太陽の強い磁場を伴って地球に向かって来ます(磁気雲)。このとき,電気を帯びた宇宙線は磁気雲で外向きに押し戻され,背後に宇宙線の少ない領域(過少域)が形成されます。もしこの領域と地球が背景の太陽磁力線でつながったとすると,過少域を出て磁力線に沿って地球に飛来する宇宙線の数は,他の方向から飛来する宇宙線より少ないはずです。このとき,磁気雲は秒速1,000kmほどの速度で地球に向かって来るのに対して,エネルギーの高い宇宙線は数百倍速い光の速度(秒速300,000 km)で飛来します。つまり,宇宙線は磁気雲を追い越し,磁気雲が地球に着く前に地球にメッセンジャーとして情報を運んでくれるのです。我々は,実際にこうした現象を「宇宙線の風」の中に観測しています。

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図4.宇宙線観測による宇宙天気予報の原理