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竹下 徹

竹下 徹

物理学コース

講座:高エネルギー物理学分野
職名:教授
略歴:
1977 年広島大学理学部物理学科 1982 年広島大学大学院理学研究科
キーワード:加速器実験
ホームページ:http://atlas.shinshu-u.ac.jp/
SOARリンク:SOARを見る

加速器実験はタイムマシンだ

現在の研究テーマ:宇宙開闢のなぞを加速器で解き明かす

夢:宇宙開闢のなぞを加速器で解き明かす
そのために次の3つの方策でぶちあたります。
これが研究です。

(1)陽子陽子衝突型加速器を用いた新粒子の探索
(2)電子陽電子衝突型加速器を用いた素粒子理論の精密検証
(3)新測定器技術の開発

その理由
宇宙開闢は宇宙物理学のテーマと思うかもしれませんが、宇宙が始まって短い時間(<100秒)は、世界を支配する力や構成要素は、現在我々が研究している素粒子物理学の対象そのものであった事が分かってきました。素粒子物理学は、最も基本構成要素とその間に働く力を研究する学問分野ですが、これらが宇宙の始まりの時期に大きな役割を果たしていた事が明らかになってきました。宇宙の始まりは今や素粒子物理学の研究対象なのである。宇宙開闢はbig bang (ビッグバン)という大爆発から始まったと考えられており、このときの温度は10の34乗度という途方もない温度だったのです。こんな高温、言い換えると高エネルギー状態は加速器による衝突によってのみ人工的に作り出すことができる世界です。つまり言ってみれば宇宙初期の状態を加速器によって人工的に作り出しその様子を調べている事になります。この高エネルギー物理学は50年ほど前に加速器の誕生以来、宇宙の初期へ初期へとさかのぼるべくエネルギーを増強してきました。つまり、どんどん宇宙の過去へさかのぼっている訳です。これを「加速器は、タイムマシンだ」と思っています。加速器はこの50年間にエネルギーを10の9乗倍に増やしましたが、このタイムマシンは宇宙始まり100秒後から10のマイナス11秒後ぐらいまでさかのぼりました。

そこで実際何が行われているかが次の3つです。

(1)「陽子陽子衝突型加速器を用いた新粒子の探索」では、よりエネルギーの高い宇宙初期へ向かうためには発見が最大の原動力となります。素粒子分野の発見は「新粒子」つまり、だれもみた事のない粒子の発見は、この50年間ずうと陽子型加速器で実現されてきました。今年度完成予定の世界最大最高エネルギーの陽子加速器LHCのATLAS実験に携わり、2012年に新粒子を発見しました。図1に候補事象を載せます。

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図1 ATLAS実験でみつけたヒッグス粒子の崩壊候補事象

新粒子は40年もの永きに渡って追い求めてきたHiggs粒子でした。この粒子は、宇宙の真空を満たし(そう、真空は何もない空虚な空間ではなく、Higgs粒子がいっぱい詰まっていると素粒子物理学は考えています)、素粒子に質量を与える役目を果たしています。まだ1個目が見つかったばかりですが、もし複数のHiggs粒子が見つかったら、もう新しい理論の入り口を通ってしまいます。つまり新時代突入です。そんなエキサイティングな時期に私たちはいます。

(2)興奮できる「新粒子」発見も楽しいのですが、学問なので地道に理論との整合性を検証し細かな測定を繰り返すことが、さらに宇宙をさかのぼるためには必要です。これを可能にするのが線形電子陽電子衝突型加速器です。この加速器は全長30kmの直線です。そこには精緻なを衝突の結果を測定する装置が置かれます。いまはこの装置の研究を行っています。これは(3)に続きます。

(3)新測定器技術の開発は、ガリレオが望遠鏡という道具により、新しい概念(地球は太陽の回りを回っている)を見つけたように、あるいは小柴さんが光電子増倍管で超新星爆発のニュートリノを見つけたように、高精度な測定装置という道具は、新しい概念や発見を生むきっかけを作ります。加速器もその道具の一つですが、衝突現象の仔細な研究を行うための測定装置も必要な道具です。素粒子実験では加速器と測定装置は毎回自分で全部作ります。だれも売ってません。その装置の中に新しいアイデアを込め、測定を進化させる事が、既に述べた最大目標である宇宙開闢の謎に迫ることに直結します。だから道具を磨いています。

最近の研究成果としてMPPCを話します。光センサーとしては光電子増倍管が有名ですが、半導体で超小型の素子を開発しました。こんな事も物理の研究の範疇です。なぜなら道具は自分で作るしかないからです。今回のようにたまに他の分野で役立ちそうな一般的な道具ができる事もあります。この素子は、大きな電子増倍率を持つ微小なセルを複数個、私たちのものは40×40=1600個並べて大きさを稼ぎます。
今最も私が面白がっている次世代加速器での測定装置の絵を下に載せます。この中には私たちが開発した新型光半導体を一千万個入れたいと思っています。新しい道具を作って使って、宇宙をもう一歩さかのぼります。

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図2 次世代線形電子衝突型加速器ILCと測定器

一人の人間のできることは大きくありません。素粒子物理学ではこれをグループで人の英知と人力とお金を集めて達成しようとしています。なぜなら宇宙の始めを知りたいという気持ちはみんな同じで、ここに共感して集まってきているからです。一人のできる事は大きくはないので、役割分担で小さな事をなしつつ全体として大きな結果の達成できる。このとき、個人は小さな自分の位置づけや方向を理解しつつ、全体の大まかな動きを感知しておく事がだいじです。

高校生へのメッセージ
自分の力、可能性、好きな事をしっかり見つめてください。その上で今大事な事を今しっかりやってください。やめて次に何かするときも、また自分を見つめ、方向を判断し、進んでください。何やら人に言われて流れてゆくのは、人生の無駄使いです。人に感化されてもいいですが、最後に判断し進むのは、あなたです。