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一ノ瀨 弥

一ノ瀨 弥

数学科

講座:解析学分野
職名:教授
略歴:
’76 京都大学理学部数学系卒業
’81 大阪大学理学研究科数学専攻博士課程単位取得退学
キーワード:Feynman 経路積分
ホームページ:http://math.shinshu-u.ac.jp/~ichinose/index-j.html
SOARリンク:SOARを見る

Feynman 経路積分の数学的定式化とその応用を目指して

Feynman 経路積分の数学的定式化

ボールの転がり方や,ロケットの打ち上げなど目に見えるレベルの世界での運動を記述するのが,ニュ-トン力学です。ご存知の様に,物体の質量掛ける加速度は,物体に掛かる力に等しいと言う法則です。
一方,電子,原子,分子など高性能の顕微鏡レベルの世界で見える物体の運動を記述するものは,これとは全く別の法則に従うということが1900 年代の初頭に発見されました。これは,量子力学と呼ばれています。当時フランスとの戦争が絶えなかったドイツでは良質の鉄の生産が重要な課題でした。量子力学は,ドイツの物理学者プランクの,溶鉱炉内の鉄の色からその温度を測る研究から始まりました(1900 年)。これらの研究で1918 年にプランクはノーベル賞を受賞しています。この量子力学の発見は多くの論争を呼び,現在では20 世紀最大の発見と言われています(アインシュタインの相対性理論の方が有名かも知れませんが)。ここまで光(光子)について述べて来ませんでしたが,光(光子)を取り扱おうとすると量子力学では無理で,より複雑な量子電磁気学が必要になってきます。尚,直ぐ後で述べるアメリカのファインマン教授は多くの著書で,量子力学を本当に理解することはおそらく不可能であると述べています。それぐらい不思議な話なのです(難しいとは言っていません)。
アメリカのファインマン教授は,1948 年に量子力学,量子電磁気学を取り扱う画期的方法を発見しました。この方法は,Feynman 経路積分と呼ばれています。ファインマン教授は,Feynman 経路積分を用いた量子電磁気学の研究で,アメリカのシュウインガ-教授と日本の朝永振一郎教授と共にノーベル賞を受賞しました。このファインマン教授が発見した経路積分の方法は,その後多くの分野で用いられるようになり,現在に至っています。
しかし,Feynman 経路積分とは何かは直感的には理解できますが,正確には定められていないのです。例えば,イギリスのケンブリッジ大学の,ホーキングと言う有名な宇宙物理学の教授の論文では,最初に「ここで扱うFeynman 経路積分は正確には定められてはいないが,将来定められるものとして扱う」と書かれ,その後Feynman 経路積分を用いた理論が展開され,多くの画期的発見がなされています。今までFeynman 経路積分について述べてきましたが,私の研究テーマは,「Feynman 経路積分とは何か」の答えをみつけることが目的です。又私はこの答えから,多くの応用が見出されるのではないかと期待しています。


研究領域:偏微分方程式

さて,以下で私の研究歴を紹介し,現在の研究内容は少し詳しく紹介したいと思います。
最初の研究は,双曲型方程式の解の構成,特異性の伝播の研究でした。双曲型方程式というのは,光,音波や電磁波(テレビや携帯電話の通信手段) の伝播を表すもので,この伝播の様子を表す公式を求める研究でした。
次に行ったのは,シュレヂンガー型方程式が只一つの解を持つための,方程式の条件を求める問題でした。この研究で理学博士の学位を得ました。シュレヂンガー方程式とは,電子,原子,分子の運動を定めるものであり,高性能の顕微鏡レベルの世界での運動を記述するものです。私の研究において,ソビエトの数学者マスロフの理論が用いられました。そのことから,携帯電話などの小型アンテナを設計する電気工学者の方々に,マスロフの理論の紹介を 行う機会がありました。私の講演が,小型アンテナの設計に役にたったかどうか,今もって分かりませんが。
先に量子力学について述べましたが,高性能の顕微鏡レベルの世界では,光を光子と呼ばれる粒子として取り扱う必要があります。実は,量子力学は光子の発見から始まったのです。先に述べたように,プランクの研究は,溶鉱炉内にある鉄の「色」からその温度を測定する研究をしていたのでした。これは量子電磁気学と呼ばれます。例えば,電荷を持った粒子間ではニュートン力が働くという法則を習っていると思います。実は,光子も考慮にいれる量子電磁気学では,この法則が「証明」出来るのです。面白いと思われませんか?ニュートン力は法則ではなく,証明されるものなのですよ。私が現在行っている研究は,このような量子力学及び量子電磁気学のFeynman 経路積分の数学的研究です。
こう書くと一部の物理学者からお叱りを受けるかもしれませんが,量子力学及び量子電磁気学の理論の物理学的研究においては,数学的厳密性がかなり犠牲にされています。これは,実験物理学が急速に発展し多くの発見がなされ,その理論付けを速く行うために生じたものだと思われます。因みに,古典力学では現在では数学的厳密性が殆ど保たれています。
わたしの主な研究は,この光子,電子,分子などの運動を記述する公式を厳密に求めることを目標にしています。これを用いて,現在物理学で用いられている「計算方法の正しさ」を示すのが目的です。言葉だけ言うと,量子力学及び量子電磁気学に対するFeynman 経路積分の数学的研究です。以上が私の研究歴です。
私の研究はいささか物理がかっていますが,1900年代の中ごろまで日本数学会と日本物理学会が分かれていなかったことを思い起こして戴ければ,そんなに特異なことではないと理解して戴けると思います。私と同様に数学的側面から物理の研究を行っている人は,スイス連邦工科大学(アインシュタインの出身大学),プリンストン大学(亡命したアインシュタインが亡くなるまで教授を務めた米国の大学),ハーバード大学,パリ大学等の物理学科に所属している方がたくさん居られます。例えば,先に述べたケンブリッジ大学のホーキング教授は,応用数学・理論物理学科に所属しています。。残念ながら,日本ではそういう例を私は聞かないのですが。