私たちの体や宇宙を形作る究極の最小単位はなんだろうか? そして,これらの究極の構成物質はどのようなダイナミクスで作用しあっているのだろうか?
素粒子物理学は自然のもっとも根元的な姿を追い求めています.そして今その研究は,加速器という謂わば「顕微鏡」により原子・分子の1兆分の1程度の大きさまで探求する事ができます.さらに小さな世界を見るため,より高いエネルギーの衝突による探索実験が求められています.
このために,高エネルギー物理学研究室では,2009年から稼働し始めたの世界最大で最高エネルギーの加速器を用いた実験に参加しています.その加速器は,陽子と陽子を正面衝突させる,衝突型加速器で,LHC(Large Hadron Collider)と呼ばれています.加速器は円形をしており,直径約9kmという大きさです.本研究室はこの加速器を用いた国際協同実験の一つであるATLAS実験に参加し,ATLAS測定器の前後方部にあるミュー粒子のトリガーシステムを世界中の大学と協力して作り上げました.この実験で最も期待される成果は,ヒッグス粒子の発見です.ヒッグス粒子は「質量とは何か」という基本的な問題に答える粒子です.ヒッグス粒子は測定器の中心部で陽子陽子衝突のミニビッグバンの中で生成され,その多くはミュー粒子に崩壊し,測定器にかかります.これを発見しようと,我々は研究しています.(下図:ATLAS実験で観測されたZボゾン生成事象の候補。図の左下にミュー粒子が飛んで行き,我々の研究室が建設に貢献した検出器(紫色)でも検出されている.)
本研究室では、現在の宇宙の姿を解明するための実験にも参加しています.宇宙誕生の瞬間,その膨大なエネルギーの中で粒子と反粒子は対生成と対消滅を繰り返していました.宇宙が膨張し冷えていくと対生成と対消滅は起きなくなりました.このとき粒子と反粒子は同数存在していたはずですが,現在の観測では粒子によって形成される物質のみで反物質はほとんど見つかりません.反粒子はどこにいってしまったのでしょうか?われわれはこの疑問に答える鍵の一つとして粒子と反粒子とでは従う物理法則が少しだけ違うというCP対称性の破れを考えています.
このCP対称性の破れを説明する理論の一つが小林益川理論です.この理論は3世代,6種類のクォークがそれぞれCKM行列と呼ばれる3行3列の行列に従い世代間混合を起こすことでCP対称性の破れが起きると予言しています.
CP対称性の破れを精密に測定しこの理論の検証を行うため,茨城県つくば市にある高エネルギー加速器研究機構(KEK)において,電子陽電子衝突型加速器KEKBにより大量のB中間子を生成させる素粒子実験を行っています,この加速器は世界最高のルミノシティ(粒子生成能力)をもち,年間数億個の B中間子を生成することからBファクトリと呼ばれています.このKEKBの唯一の検出器である Belle(ベル:bクォークの別名「Beauty =美」の意のフランス語)は高頻度の粒子入射に対応し,CP対称性の破れを精密に測定します.この実験の成果は,小林博士,益川博士の2008年のノーベル物理学賞受賞に大きく貢献しました。さらには,B中間子の稀崩壊を観測する事で,素粒子標準理論を越える理論の検証にも取り組んでいます.
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