数理科学への誘い

信州大学の先生たちから数学の魅力または、
数理科学への道にすすむきっかけをお聞きしました。

佐々木 格

印象に残っている定理や理論などを教えてください

4年生の卒業研究のときに勉強したmin-max原理です。
これは量子系のエネルギー準位$E_n$を
\begin{equation*}
E_n = \max_{\phi_1,\cdots,\phi_{n-1}\in \mathcal{H}}
\min_{\genfrac{}{}{0pt}{}{\Psi\in \mathcal{H}; \|
\Psi\|=1}{\Psi \in [\phi_1,\cdots,\phi_{n-1}]^\bot}} \langle \Psi, H
\Psi \rangle
\end{equation*}
と一行の式で書き表すことができるという公式です。この式で$\langle \Psi, H \Psi \rangle$は量子系の状態$\Psi$におけるエネルギーの期待値を表します。上の公式は,素数を求めるエラトステネスのふるいに似たアイディアで,量子系のエネルギー準位が求まることを意味しています。そこで自然数全体に対応するのが,ヒルベルト空間$\mathcal{H}$の単位球面です。エラトステネスのふるいでは,見つけた素数の自然数倍を素数の候補となる集合から取り除きますが,min-max原理では,エネルギーの期待値$\langle \Psi, H \Psi\rangle$を最小にする状態$\Psi$と平行なベクトルを,次に最小化する状態の候補から取り除きます。

数理の道に進むきっかけは?

私は物理学科出身なので,はじめから数学を専門として勉強していたわけではありません。物理学科の講義は,どのようにして物理現象の中から数学的構造を抽出して解析するのかという事が主眼とされていて,数学の理論は必要に応じて作ればよいというスタイルでした。数学を専門としたのは大学院に進んでからですが,そのきっかけとなったのは,3年生のときに勉強したLippmann-Schwinger方程式や超関数の扱いに数学的な危うさを感じたことと,またvon Neumannによって数学的に定式化された量子力学を研究したいと思ったことです。

どのような性質をもった定理や理論に、数学的な「美」を感じますか?

不等式です。数理物理ではひとつの物理現象を証明するために,それを成り立たせない原因が存在しないことを証明しなければなりません。幾つもの不等式のステップによって,膨大な情報を持つ力学系の中から物理現象が切り出されて一つの数学的定理となるときに,その証明が美しいと感じます。

数学科 自然情報学分野 佐々木 格 Link

理学部クエスト 数理物理・数学を通して見る自然
職名 准教授
略歴 2002 年学習院大学理学部物理学科卒業
2004 年北海道大学大学院理学研究科修士課程修了
2007 年北海道大学大学院理学研究院博士課程修了
ホームページ http://math.shinshu-u.ac.jp/~isasaki/index.html