
21世紀を迎えた私たちは,激しい地球環境の変動にさっそく見舞われています.たとえばヨーロッパを襲った熱波,日本や東南アジアを襲った地震や津波,長野県の浅間山の噴火,日本各地を襲ったと洪水・土砂崩れ...しかし,こういった災害の多くはこれまでの地球の活動史の中で繰り返し起こってきたことでもあります.しかし,いざ人間社会とその地球の活動が対峙したとき,それは大きな災害として我々を襲います.
産業革命以来,地下資源を利用した人類の急速な発展は,今日の高度な文明社会を作り上げてきました.しかし,ここにきて新たにクローズアップされた問題が,地下資源の枯渇と,“人為的な”地球環境の急速な変化です.特に後者は,私たちの生活を直接脅かしつつあります. 私たちは,この大きな変化に対して何のすべも持たないのでしょうか.
激動する地球環境と私たちが共に生きていく方法には,いくつかのやり方かあります.
1番目は,「怒れる神」のごとき地球に黙って従う方法です.しかし,私たちの社会の発展のためには,自然災害を起るがままに任せるわけにはゆきません. 2番目はあえて「地球に挑戦」する方法です.私たちは長年の自然との戦いの結果,洪水や山崩れといった最も身近な災害を食い止め,予防することに成功してきました.その反面,コンクリートで覆われた山や川が多数出現し,本来そこにあった自然の営みを失わせてしまう結果になりました. 3番目としては,これら2つの妥協案と呼べるものです.まず,地球の営みを知り,限られた資源や環境の中で人類と地球との共生の道を探る方法です.そしてこの方法こそが,現在の社会が地球環境と“つきあってゆく”現実的な選択肢といえます.
それでは地球の営みを知るためにはどうすればよいのでしょうか?
災害を予防したり,災害からの復興のためには,災害を起こす要因をじっくりと見極め,整理する必要があります.たとえば,地すべりやがけ崩れなどの土砂災害を例にとれば,土砂崩れの原因の究明や,それと雨量や地盤の強さとの関係の究明,というところでしょう.しかし,自然現象はその発生時期や規模を正確に予測することが難しいため,それを完全に防止することはできません.ならば,起こったときに備えて,十分な対策を練ることがより現実的でしょう.そのためには,もっとも被害を被りそうな地点の把握や被害規模の推定を行う必要があります.
こういった被害予測は,一般には過去の事例の細かな検討や,現在起こりつつある現象の観測によってなされます.そういった意味では「温故知新(古きを温めて新しきを知る)」という言葉は,この分野のためにあるような言葉です.過去の地球を知ることは現在の地球を,さらには未来の地球を知ることでもあるのです.
“過去の地球の営みを知る”ことは私たちの世界の現在,未来を知ることでもあります.地球の活動は,水害や土砂崩れといった小規模なものから,地震・火山活動といった大規模なものまで多岐にわたり,熱波や旱魃(かんばつ)といった気象と関係するものも含まれます.しかも,それぞれの現象はお互いに無関係に見えても,実はさまざまなところで密接な関係を持っています.日本で見られる気候変動が,南アメリカ沖の海水温と関係していること(エルニーニョやラニーニャ)はその好例です.こういった地球の活動の複雑さは,お互いに全く無関係に見える現象が,最終的には密接に関連していることを示しています.
皆さんは「地質学」という言葉にどのような印象をお持ちでしょうか?「なんの役に立つのかわからない」「古くさい」「化石を研究する」「地震を予測する」「火山を研究する」という言葉が返ってきそうです.しかし,これらは半分当たっていますが,半分は違っています.
地質学はまさに“地球の営み”を解明する「科学」としての側面と,その知識や技術を人類に役立てる「工学」としての側面を併せ持って発展してきた学問分野です.上の項目で述べましたように,「災害対策」や「建築」「土木」の技術として,「環境」保全の基礎として,地質学の知識や考え方は社会に大きく貢献しています.しかし,このような技術や知識は,火山活動や化石の研究,大陸分裂と移動といった,過去の地球活動の解明とともに獲得されたものです.したがって,地質学は本来はきわめて広い背景と,応用範囲を持つ分野であるといえます.
このような地質学の歴史と今後の発展の可能性を表現するために,当教室は「地質科学科」という名称を使用しています.その教育目標として,地球に関する未知の現象を解明することに立脚点を置き,資源開発や防災への基礎的素養を養うことを掲げています.
「地球を知ること」は「地球と共生してゆくこと」と,非常に密接関係しています. 地質科学の裾野は広く,古代の海洋変動・気候変動・生物の営みから,現在の地殻変動・火山活動にいたるまでさまざまな領域へと広がっています.そしてそのどれもが,お互いに関係しあい,どれもが地球の歴史に大きな役割を果たしてきました.このような地球の営みを読み取ることは非常に楽しいことです.さらに,そういった知識を社会に還元し,役立てることは非常に重要な仕事であると言えます.
地質科学科では, ①幅広い地球科学的知識を学び,教員や研究者を育成する地質科学基礎コースと,②地質科学の知識・技術をもとにして,社会的な問題を解決する力を育成する応用地質科学コースの2つのコースで,学生の志望に応じたカリキュラムを用意してます.興味の対象は,火山,地震,化石,恐竜,ダイアモンド,気候変動...と何でも構いません.「地球を知りたい」,「地球環境を守りたい」,といった情熱に燃えた皆さんをお待ちしています.