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FAQ(Web版、2004/1/4注釈追加)

日本免疫学会ニューズレター21号への寄稿、シリーズ「新たな研究室を開くにあたり」に語注を追加、2003.10)

信州大学大学院医学研究科・移植免疫感染症学 瀧 伸介

こちらに移って以来、色々なところでご心配いただきありがとうございます。もはや「新しい研究室」でもないでしょうから、この機会を利用してよくあるご質問にお答えしておこうと思います。

Q.瀧さんって、信州に行ってどのくらいになるんだっけ?

A.平成14年 2月より当研究室を担当しておりますので、もう1年と半年余りになります。田舎に引っ込んでますと、たまに参加させてもらう班会議や学会なんかが回春剤です。

Q.瀧さんの所属ってどういうとこ?

A.いわゆる大学院の独立専攻で、旧寄生虫学の菅根教授と二人で大講座を形成しています。なかなか具体的なイメージがわかないかも知れませんが、実質は特に既存の学部と変わるところはなく、講義も会議もばっちりです。

Q.もうセットアップは終わりましたか?

A.はい、色々なサポートをいただいたおかげで実験室の方は最低限のことは出来るようになりました。スタッフも、助教授、助手、各1名が着任しましたし、院生も入って来ています。マウスの方も、動物実験施設の方にいろいろ無理を聞いていただいて、最近は殖えすぎて養育費(飼育費でした)の方が心配になるくらいになりました。といっても100ケージをちょっと越えたところですが、これくらいがラボの規模、予算を考えると適性かなと思い、最低このスケールだけは維持したいとやりくりに心を砕いています。

Q.信州は良いところでしょうね?

A.はい、観光には最適です。信州大学の医学部は松本市にあるのですが、お城や温泉はあるし、上高地や美ヶ原は近いし...おっと、この文は観光案内ではありません。町の規模は、出身地の徳島に似た感じですが、四方が山で、冬の厳しさは(雪はあんまり降りませんが)南国生まれには格別です。でもケルンに較べると、寒さもそれ程ではないし、冬の空の澄みわたっているところは全然違いますね。でももしかしたら、ああいうどんよりとした空の方がものを考えるのには良いのかも知れないですが。

Q.前はどこにいたの?

A.今さら自己紹介でもないでしょうが、元々は理学部の出です。修士課程に進学するとき思うところあって医学部(濱岡研)で免疫学を始めました。当時は今とは違ってバイテクがらみだと就職は簡単で、修士課程修了後、味の素(株)に就職し、主として羽室淳爾元主任研究員のもとでやっかいになっていました(これが意外と知られていない)。10年会社に勤めた後、脱サラして東大(谷口研)、千葉大(斉藤研)を経て現在に至っています。自分としては激動の人生であるなあ、と思っているのですが、昨今では人の動きはずいぶんと激しくなっていますから、このくらいは並み以下かも知れません。

Q.最近どんなことを考えてますか?(これは架空の質問)

A.昨今ではアカデミックシーンもずいぶん企業的になって、成果だ、特許だ、新聞発表だ、と会社にいた頃よく耳にした単語が飛び交っています。日本の基礎研究の方針の策定に預かる偉いかたがたの会議でも、「第二基礎研究」だとか「Plan Do See」だとか懐かしい言葉が出ているようです。ちなみに前者は私が会社にいた10年以上前には「目的基礎研究」と言ってました。具体的な応用を念頭に置いた基礎研究という意味ですね。そして、企業的に効率を考えた場合には当然の帰結でしょうが、限りある原資、マンパワーを注入するからには、もっとも期待値の高いところをターゲットにする事になるわけで、重点化が進んでいます。こうなってきますと重要なのはトレンドを読む、と言うことになります。社会のニーズ(もっと言えばウォンツ)を嗅ぎ取り、ちょっと先を読んで、早め早めに手を打っていくものが成果を挙げ、生き残ることになるわけです。

 ここまで読んで何か違和感を憶えませんか?こういう流れから超越していられるのは、研究自体(その応用への期待値ではなく)の価値が極めて高い一部の人達の特権なのでしょうか?そうでない人は「生まれたばかりの赤ん坊が何の役に立ちますか」なんて言う言辞(ラッセルだったか?注1)を言い訳に、議論を先延ばしにして何とか基礎研究を続けて行く事になるのでしょうか?

Q.国立大学が法人化しますが?(こんな事を私に尋ねる人はいない)

A.私たちも公務員ではなくなるわけですから、労務管理も変わるんでしょうかね。そのうち「安全第一」(ハインリッヒの法則注2って知ってますか?)だとか「4S & 5S」「指さし呼称」なんて言葉注3にも接することになるかも。こんな事なら、もっと会社で色々勉強しておけばこれから何かの役に立ったかも、と思ったりもしますが、脱サラ研究者としては今さら後には引けないので、このままでいけるところまで行こうと思っています。

Web版への注:
1. じつはファラデーでした。電磁誘導に関する法則が何の役に立つのかを聞かれてこう答えたようです。その時生まれた赤ん坊とその子孫は今や世界をIT化して支配しています。
2. ハインリッヒの法則って言うのは、アメリカの技師ハインリッヒと言う人が発表した法則で、労働災害の事例の統計を分析した結果、重大災害を1とすると、軽傷の事故が29、そして無傷災害は300になるというものです。一般には「1件の重大災害(死亡・重傷)が発生する背景に、29件の軽傷事故と300件のヒヤリ・ハットがある。」という警告として、よく安全活動の中で出てきます。
3. 4Sは、整理、整頓、清潔、清掃で、5Sはこれにしつけが加わります。指さし呼称は注釈不要でしょう。

  

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