討議内容   

現在の社会問題として、「高齢化社会」、「生活習慣病の蔓延」、「環境適応能の劣化」が上げられ、これらは、快適環境の向上のために益々のエネルギー消費を必要とし、それらは地球温暖化に伴う様々な自然災害をもたらしている。この悪循環を断ち切るために、スポーツ医科学に期待されるもので、1.「実験室レベル」として、@生活習慣病予防・介護予防のための運動処方効果、A栄養食品摂取・運動機器使用効果、B環境適応能向上効果、のメカニズムの解明があげられる。さらに、2.「現場レベル」として、C運動処方の効果判定のための現場介入、D大きい母集団を対象とした運動処方システムとデータマインニイング、E運動処方反応性遺伝子探索とその相互作用の解析、の方法開発が挙げられる。これらの討議の過程で、「実験室レベル」から得られた新知見をどのように現場に応用し、逆に、「現場レベル」でピックアップされた課題をどのように実験室実験に反映し、その課題を解決し、現場に還元するか、を念頭に討議する。さらに、運動処方の国際標準化に向けての方策を討議する。

 

以下に実際の討議内容の詳細を示す。

 

@生活習慣病予防・介護予防のための運動処方効果: 高齢者、生活習慣病患者の運動処方効果について、循環機能(動脈硬化、高血圧)、耐糖能(糖尿病)、運動能(持久力、筋力)の面から検討する。

A栄養食品摂取・運動機器使用効果: 高齢者を対象とした運動トレーニングに効果的な栄養サプリメント摂取、運動機器使用について討議を行う。

B環境適応能向上効果: ヒトはその環境適応能の高さによって、誕生以来、地球上の−50℃の寒冷地から、+50℃の熱帯までその分布域を広げてきた。一方、最近の空調設備向上による消費エネルギーの増加は、地球環境をも破壊しつつある。エネルギー節約のために、いかにヒトの本来有している環境適応能を利用すべきか、を討議する。

C運動処方の効果判定のための現場介入: 実験室で得られた成果を現場に応用し、その有効性を判定するためには、研究に先立ち、統計学的に論理性の高い研究計画をたてる必要がある。そのために、運動疫学で実績のある研究者の発表を中心に討議を行う。

D大きい母集団を対象とした運動処方システムとデータマインニイング: わが国においては、高齢者が運動トレーニングを行う体育施設、専門スタッフが極端に不足しており、そのことが運動処方普及の制限因子となっている。最近、ITネットワークを利用した遠隔型個別運動処方が開発されつつあるが、その有効性と今後の発展性について討議を行う。さらに、数千―数万人についてのデータベースから、生活習慣病指標、介護予防指標に基づく運動処方効果を、適切な統計学的手法を用いて、瞬時に判定できるプログラム開発に向けて討議を行う。

E運動処方反応性遺伝子探索とその相互連関の解析: 運動処方効果には個人差が存在するが、それは、個人の体質、すなわち遺伝特性に起因する。一方、いくつかの生活習慣病指標、介護予防指標に関与する遺伝子について多型があり、実際、それらが運動処方効果の個人差に関与していることも明らかになりつつある。今後、国際レベルで、これらの遺伝子を探索するための方策を討議する。さらに、これらの複数の遺伝子多型と運動処方効果に関する臨床データとの関係を解析するために、遺伝統計学と数理統計学を中心としたプログラム開発についても討議を行う。