加齢適応医科学系独立専攻 加齢生物学分野 |
研究内容
研究テーマ
1 モデル動物(マウス)を用いた老化・加齢の分子生物学的研究
a)主としてモデルマウス(老化促進モデルマウスや各種ノックアウトマウス等)を用いた老化や寿命を規定する遺伝的要因の解析。
b) マウス、ヒトなどの高等動物における加齢変化の分子生物学的、蛋白化学的解析。
c) 加齢と環境への適応反応との関連の解析:生物の加齢・老化と密接な環境を有する環境との相互作用を個体、細胞レベルで解析する。特に酸化的ストレス、感染等の環境的ストレスに対する反応性の加齢変化という観点から検討する。
2 老化病態の遺伝学的研究
a) アミロイドーシスの分子遺伝学的解析:アミロイドーシスは本来生理的機能を持つ蛋白質が繊維構造を持つアミロイド繊維に劇的に構造変換する疾患である。主としてモデルマウスを用いてアミロイド繊維形成のメカニズムを分子生物学的、蛋白化学的手法を用いて解析する。
b) 骨粗鬆症、高脂血症等の老化病態の遺伝的解析:主としてモデル動物を用いて老化病態の遺伝的、細胞生物学的解析を行う。
樋口が1998年3月に着任して本間教授時代の臨床的・生理学的研究を中心とした研究室から分子遺伝学的・蛋白化学的研究を中心とした研究室へと転換を目指している。信州大学を中心とする多くの先生方の御協力で何とか離陸できたと思っているがまだまだ迷走飛行である。
研究テーマはなぜ(Why)、どのように(How)、動物は老化するのかを少しでも科学の言葉で表せないかということである。老化現象は普遍的で誰にでも明らかな現象と思われている。例えば赤ちゃんと、20才の青年、100才の老人を見分けられない人はいないだろう。でもこの3人の違いを科学の言葉で的確に表わすのは難しく、なぜ動物は老化しなくてはならないのか?、何が老化の原因なのか?、老化を妨げるのは可能なののか?はまだ判らないっことが多いのである。
私たちの研究室では先ず老化が促進し、短寿命で、いろいろな老化関連病態を発症する老化促進モデルマウス
(Senescence Accelerated Mouse: SAM)を解析し、その原因遺伝子を明らかにすることにより老化のhow?に迫ろうとしてる。もう一つはアミロイドーシス発症機構の解析を通して、加齢に伴う変性疾患や老化の本質に迫ろうとしているのである。
各研究者の研究内容の紹介
樋口 京一
これまでの主な研究内容は1)老化促進モデルマウス(SAM)の開発とその解析、2)アミロイドーシスなどの
老化病態の遺伝的解析。
1)老化促進モデルマウス(SAM)の開発とその解析
高齢化社会を迎えつつある現代社会において健康で活動的な人生の期間を可能な限り延長する事は基礎医学・臨床医学の最終目標である。そのためには具体的な実験データに基づいた加齢生物学が必要と考えて、1980年京都大学胸部研での寿命が短く、様々な老化兆候が若齢より出現する老化促進モデルマウス(Senescence
Accelerated Mouse: SAM) の開発に参加した。SAMはAKR/J というマウス系統と他の未知の系統との交配に由来する系統群で、短寿命と老化度を指標とした選抜と兄妹交配によって確立され、現在では促進老化を示すSAMP群9系統と正常老化を示すSAMP群3系統からなる。SAMP各系統には短寿命、促進老化という共通した形質とともに、老化アミロイドーシス(SAMP1,SAMP2等)、老人性骨粗鬆症(SAMP6)、学習記憶障害や行動生理学障害(SAMP8,SAMP9)、免疫機能不全(SAMP1)、顎間接症(SAMP3)等の老化病態が早期発症する事やその病態について明らかにしてきた。これら促進老化や老化病態を規定する遺伝的要因については
老化アミロイドーシスの原因遺伝子Apoa2以外はまだ明らかになっていない。SAM各系統の遺伝的解析を、生化学マーカー、免疫学マーカー、マウスプロウイルスマーカー、さらに1000近くのマイクロサテライトマーカーを用いて行ってきた。促進老化を示すSAMPに共通するLocusを染色体4、14、16、17上に明らかにしたが、現在これらの領域の機能を調べるためコンジェニックマウスを作成中である。
マウスの大腿骨骨量の加齢変化は生後4ー5ヶ月齢でピーク値に達しその後漸減する。SAMP6ではこのピーク値が他の系統に比較して有意に低く、高月齢マウスでまれにではあるが自然骨折が観察される。SAMP6乾燥骨重量当たりのミネラル、コラーゲン量は他系統と差がなく形態的な検討からもSAMP6は骨粗鬆症のモデルマウスとされている。SAMのなかで最も骨量が高いSAMP2とSAMP6系との交配実験から第11、13の染色体領域が高いLOD値(11:10,6,13:5,6)を示しており、今後の解析に期待している。
2)アミロイドーシスなどの老化病態の遺伝的解析
マウスでは血清高密度リポ蛋白質(HDL)のアポ蛋白質である。apoA-「が加齢に伴い微細なアミロイド線維蛋白(AApoA-「)に重合し全身に沈着する。AApoA「若齢より重篤なアミロイドーシスを発症するSAMP1から初めて単離したアミロイド蛋白である。老化アミロイドーシスの発症を規定する最も重要な遺伝的要因はapoA-「蛋白の一次構造であり。重篤なアミロイド沈着は第一染色体上のC型のapoA-「遺伝子(Apoa2c)と連鎖し、遺伝子量効果の大きい常染色体優性遺伝をする。Apoa2cをSAMR1マウスに導入したコンジェニックマウスを用いた研究より、Apoa2cによって促進、重篤化された老化アミロイドーシスはSAMR1の老化度評価点の加齢に伴う増大を亢進し、寿命を約20%短縮するが老化の速度は加速しない事が示された。逆にSAMP!にB型のapoA-「遺伝子(Apoa2b)を導入したコンジェニックマウスではアミロイドーシスはほぼ完全に抑制されたが、老化の進行の抑制や寿命の延長は観察されなかった。アミロイド線維形成は前駆蛋白の本来の生理的機能を担っている立体構造からβシート構造を持つアミロイド線維への構造変換を伴う重合反応である。アミロイド線維形成はnucleation(核形成)とgrowth(線維伸張)の2段階で起こる。一旦核形成されるとアミロイド蛋白モノマーの結合による伸張反応は急速に進行する。従って外部から核(アミロイド線維)反応系に投入すると、線維形成反応は急速に進行することをin
vitro,in vivoの系で示した。
マウスの大腿骨骨量の加齢変化は生後4−5ヶ月齢でピーク値に達しその後漸減する。SAMP6ではこのピーク値が他の系統に比較して有意に低く、高月齢マウスでまれにではあるが自然骨折が観察される。SANP6乾燥骨重量当たりのミネラル、コラーゲン量は他系統と差がなく形態学的な検討からもSAMP6は骨粗鬆症のモデルマウスとされている。SAMの中で最も骨量が高いSAMP2とSAMP6系との交配実験からピーク値骨量は2−3の遺伝子に抑制された量的形質であることを示唆した。現在、SAMP2とSAMP6間のF2マウスを用いてQTL解析を進めているが、第11,13の染色体領域が高いLOD値(11:10.6,13:5.6)を示しており、今後の解析に期待している。