信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


いわゆる有病者の歯科治療

9. 感染性心内膜炎

2000.2.2 高見澤

1、心臓壁の構造;内膜・筋膜・外膜の3層からなる。

 心内膜(endocardium)は最内層にある結合組織の薄い膜で、その内膜は血管と同様に内皮という一種の扁平上皮で覆われている。心臓の弁膜がすべてこの内膜である。

2、感染性心内膜炎とは?

 先天性心疾患やリウマチ性心疾患の心筋弁や心内膜に感染が生じることによって引き起こされる疾患である。心内膜炎は心内膜の血小板による塞栓が形成された病巣部の細菌感染により発症する。その病巣は主に血液の逆流、弁狭窄、中隔欠損、その他の疾患による血液の乱れが原因となる。また誘因として、抜歯(46%最多)、一般歯科治療、扁桃炎(上気道炎)、流産、扁摘、膀胱鏡検査、人工中絶、心血管手術などがある。 

3、症状は?;Trias・発熱、心雑音、脾腫。

発熱=午前中はあまり自覚せず、午後発熱することが多い(スパイク状態体温上昇)。ブドウ球菌の場合は82%が急性の形をとり、悪寒、ふるえ、高熱を示す。
心雑音=病初ははっきりしない事が多い。鎮静常用により起因した急性細菌性心内膜炎には心雑音は認めない。
脾腫=亜急性では44%に、急性では25%に認められ、臨床で大切な理学的診断法の一つである。しかし、心内膜炎の初期には不顕性で潜伏期間が長い事が多い。
その他=肝腫脹(50%)ばち状指(5~10%)、血沈亢進、貧血、WBC上昇。血管塞栓症状。

4、原因(基礎心疾患など)は?

 VSD、動脈管開存症、Fallotユs tetrad(TOF), 大動脈弁閉鎖不全、僧帽弁閉鎖不全、最近は僧帽弁逸脱症候群、肥大型心筋症の関与も示唆されている。

5、罹患しやすい患者は?

<感染性心内膜炎のrisk分類(AHA,1997)>

High risk
 人工弁置換、感染性心内膜炎の既往、チアノーゼを伴う先天性心疾患(単心室症、大血管転換症、TOFなど)。

Moderate risk
 先天性心疾患(VSD、大動脈縮窄症、動脈管開存症など)、後天性心臓弁膜症(リウマチ性心疾患など)、心肥型心筋症、閉鎖不全を伴う僧帽弁逸脱症。

6、起炎菌は?

 緑色レンサ球菌(Vridans streptococci)が第一位を占める。Vridans streptococciは分類上Oral storeptcocciに多くが含まれ、S.sanguis,S.mutansも包含される。

7、予後は?

 未処置は死に至る。治療されても全生存率は 70%である。ペニシリン感受性レンサ球菌が被検出菌として培養した場合は生存率は90%に上昇する。

歯科治療との関連は?

 上記の様に抜歯などの歯科的手技において歯性感染症はおこる、しかし歯科的手技を伴わない場合でも歯性感染症は起こり得る。

2~16歳の小児(n=735)
 Intraligamental Infection=96.6%
 Rubberdam placement=29.4%
 Matrix band with plaxement=32.1%
 Tooth brushing=38.5% 以上
 培養された菌は50%が緑連菌に属するものであった。

 小児において感染性心内膜炎の原因としては歯性感染が多いが成人まで含めると歯性感染以外の原因も多い。

平均51.6歳(n=541)
 63%=レンサ球菌
 19%=ブドウ球菌
 14%=腸内細菌
 これらの感染経路は60%は不明、19%は歯性感染、16%は消化器、泌尿器、呼吸器系、または皮膚からでありのこりの5%は心臓手術など心臓に関する手術に関係したものである。

*菌血症は抜歯後100%、スケーリング後70%、第3大臼歯処置後55%、RCT後20%起こる。

<AHA(1997)からの感染性心内膜炎の予防指針>

<参考文献>

MGH口腔外科マニュアル、  医学書院

内科学           明倫堂書店

感染根管治療より感染性心内膜炎を生じた僧帽弁閉鎖不全症の一例. 有病者歯科医療、7-2、77-80、1999

Bayliss,R.Clarke,el:The microbiology and pathogenesis of Infective endocarditis.Br hert J.50(6):513-519.1983

Coulter,W.et al :Bacteremia In children following dental extraction .J Dent Res.69(10):1691-1695,1990

Roberts,G.et al:Dental bacteremia In children. Pediatr Cardiol.18(1):24-27.1997.                                  


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