信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


いわゆる有病者の歯科治療 
4. 
不整脈

1999.12.15 茅野 

A.不整脈とは

 不整脈は、・刺激発生源の異常(洞性、心房性、心室性の各期外収縮、頻拍症)
      ・刺激伝導系の障害によって起きる心拍数とリズムの異常(ブロック)である。
      また、薬剤の毒性や電解質のバランス異常の合併症としても出現する。
     (不整脈には心臓のポンプ機能に著しい影響を及ぼすものと、そうでないものがある。)

B.刺激伝導系

C.不整脈の基礎疾患

 ・基礎疾患をもつもの(器質的異常)
   (心臓弁膜症、動脈硬化症、高血圧症、慢性肺疾患、電解質異常、原発性心筋症、ジギタリス中毒など)
 ・機能的異常によるもの
   (タバコ、コーヒー、茶、酒、睡眠不足、精神的過労)

<ポイント>

不整脈には、基礎心疾患がある場合と、不整脈だけで心臓に異常がない場合とがあり、従って、同じ不整脈でも基礎心疾患や心機能により、その予後・重症度は異なる。
  ---基礎心疾患の病態を正確に把握することも重要
  ex) 心不全は、不整脈発生頻度を増加させる要因
    ホルダーEKG=心不全の90%以上---心室性不整脈
  ex)心室性不整脈
    基礎心疾患なし---------------------------予後良好
    心筋梗塞、心筋症、低心機能例------突然死の高危険群

D.不整脈の種類

1.洞性頻脈(sinus tachycardia)

規則正しいリズムで心拍数が100〜150/分と多いが、P波、QRS波は正常
交感神経活性の増大、副交感神経活性の抑制によって起きる。(ストレス、発熱、エピネフリン)
治療の必要なし。

2.洞性徐脈

規則正しいリズムで心拍数が60/分以下、P波、QRS波は正常
高齢者、睡眠時にみられる。治療の必要なし。β遮断薬などの副作用-薬剤減量、中止

3.洞性不整脈

不規則なりズムで、呼吸に影響を受けるため呼吸性不整脈とも呼ばれる。
吸気時に早まり、呼気時に遅くなる。治療の必要なし。

4.心房性期外収縮

異所性収縮による不規則なリズムで、正常の洞性心拍によるP波と異なる波形のP波であるが、QRS波は正常。不安、疲労、喫煙、アルコールによってみられ、無害性のものが多い。

5.心室性期外収縮(PVC)

P波のない洞性収縮の正常なQRS波とはまったく形の異なる異所性のQRS波が出現。
異常の出現が1〜2回/分であれば問題なし。6回以上、二段脈、多源性なら治療の対象。
コーヒー、たばこ、不眠でも起きる。
低酸素血症、急性心筋梗塞時に出現した場合、心室粗細動に移行し、非常に危険。

6.心房細動

不規則なリズムで、心房性の興奮(f波)が300/分以上となり、細かく不規則な波形。
心拍数が70〜80であれば特に危険なし。
自覚症状を訴えないが(慢性的な心房細動)、急性に発生した場合はジギタリス剤の投与が必要となる場合あり。
原疾患として冠動脈疾患、弁膜症、甲状腺機能亢進症など

7.心房粗動

ノコギリの歯のようなリズム(F波)で、心房収縮が250〜350/分の頻度で起こる。
原因は、心房細動と同じ。

8.発作性上室性(心房性)頻拍症

突然に心房性期外収縮が連発して起こり、しばらく続いた後自然に元に戻る。
心拍数150〜200/分。
心疾患がない人にも見られるが器質的疾患を有する疾患に現れたとき、ポンプ不全やショックを起こすことがある。

<発作時>
バルサルバ法 頚動脈洞圧迫 眼球圧迫

9.発作性心室性頻拍症

心室性期外収縮の連発。
心筋梗塞に併発し、血圧低下を起こして心室細動に移行、突然死の可能性あり。
頚動脈洞マッサージは無効で、電気ショックが必要。

10.心室粗細動

心室がまったく不規則に細かく収縮するもの。
心臓のポンプ機能は失われ、有効な血流の停止を招き、意識消失、致死的。
急性心筋梗塞、心筋虚血、薬物中毒などにより心臓が重篤な障害を受けたときに起きる。
電気的徐細動、心肺蘇生が必要。

11.房室ブロック(AーV block)

心房から心室への興奮伝達障害。程度によりI 度からII 度に分類される。
I 度
 規則正しいリズムで、PQ時間が0.2秒以上に延長するだけ。治療の必要なし。

II 度
・Mobitz II 型 or Wenchebach 型
 心房は規則正しく、心室は不規則なリズムで、心房収縮が心室収縮より多いもの。
(PR時間が少しずつ延長し、ついにP波のあとのQRS波が脱落するが、再び正常間隔でQRS波につながる。)

・MobitzII 型
 P波が規則正しい間隔で存在するがQRS波が突然脱落するもの。
完全房室ブロックに進む可能性あり。アダム・ストークス発作を起こしやすいの注意。
原因は、心筋梗塞、ジギタリス中毒によるものが多い。

III 度(完全房室ブロック)
 心房と心室は規則正しいリズムをとるが、無関係に独立して収縮するもの。
心拍数は、30〜40/分程度となるため、結果、心拍出量の減少、血圧低下が起こり、心拍停止の危険性あり。
人工ペースメーカーの移植が必要。
原因は、急性心筋梗塞時に合併、心筋炎、先天性心疾患、薬物中毒。

12.脚ブロック(BBB)

右脚、左脚の心室への興奮伝導障害
・右脚ブロック---V1V2に幅広いr-R型の、山の二つあるQRS波を認める。臨床的意義は少ない。

・左脚ブロック---V5V6に幅広いQRS波が出現。
         心筋虚血、心筋症などの重症な心疾患の存在を意味し、予後が悪い。

E.不整脈の治療目標

心臓突然死の予防、QOLの改善

<適応>
1.将来突然死する可能性が高いと判断される不整脈
2.その出現により、心不全や血圧低下など血行動態が悪化する不整脈
3.自覚症状が強い不整脈
4.血栓、塞栓などの重篤な合併症を生じる危険のあるもの

 

H.歯科治療時のポイント

1.即座に対応できる設備
2.十分な情報
3.術中十分な全身管理
4.治療により全身悪化が生じ得る

(治療前)

1.問診---現時点での病態、管理状態を把握する。(基礎疾患の有無により、臨床的重症度異なる)
     (単に不整脈が問題になるのではなく、基礎疾患に伴う全身的障害が重大)
  ・専門医による管理をうけている人
    危険でないが治療によって誘発可能な不整脈や、危険な不整脈

循環器Dr.にコンサルト 連携

  ・専門医による管理をうけていない人(既往歴で不整脈あり、疑いありの人、不整脈があってもそれ                       を自覚しない人)

  

  ・アダムストークス発作や不整脈に伴う心不全症状があれば重症度を高く考える必要あり
  ・不整脈に伴うめまい、失神は、アダムストークス発作と呼ばれ、突然死する不整脈が含まれることから重要である。

専門医にコンサルト
基礎疾患が十分コントロールされてから

2.全身的診察

処置前にバイタルサインをとる。

3.診断

a.治療を必要とする不整脈との鑑別
b.危険な不整脈
c.専門医による診察

 不整脈があっても、その基礎疾患に対する治療がなされ、よくコントロールされていれば、歯科治療にとっても支障がない。

(治療中)

健常者と比しより大きな循環動態の変動来たしやすい → 心電図モニターにてチェックする

<不整脈発作時の処置>
1.歯科治療を中止、口腔内異物の除去
2.バイタルサイン
3.安静を保つ、低頭位、O2投与
4.緊急治療を要する不整脈であるか判断する、循環器Dr.にコンサルト
5.致死的不整脈の可能性が予測される場合                      

  

I.歯科治療時の予防 注意点

 1..病歴聴取、基礎疾患の有無

------自覚症状の有無、不整脈治療について、基礎疾患の治療、是正

 2.処置前に循環器Dr.コンサルト

------処置の適否、発作時の対応を聞いておく ex)発作性上室性頻拍ーーvalsalva法

 3.精神的ストレス(不安、緊張)、肉体的ストレス(疼痛、観血的処置時の侵襲など)の軽減
   (ストレスは、不整脈発作や増悪に関与するため期外収縮や心房細動など誘発)

------患者との信頼関係を確立する、笑気、静脈内鎮静法、疼痛の緩和(表面麻酔etc)

 4.治療中の患者の体位

通常の治療体位で支障ない

 5.モニター観察、血圧測定(危険な不整脈の早期発見)

------変動があれば中断

 6.静脈路確保

 7.O2投与は、治療には有効だが、不整脈の発作や増悪を予防するのにはO2投与は無効。

 8.局所麻酔

------確実な除痛、表面麻酔、ゆっくり注入

 9.血管収縮薬の選択

------エピネフリンは心筋の感受性を高める為、心臓作用が少なく心機能に影響が少ないフェリプレシン含有の局麻剤を用いる。しかし、フェリプレシンには冠動脈収縮作用があるため、大量投与や、高齢者、狭心性、心筋梗塞などの冠動脈疾患を有する患者への使用は注意する。しかし、歯科治療が適応になりうる全身状態の患者ではエピネフリンによる循環器系への悪影響 は無視できる程度のものである。

 10.エリスロマイシン、クラリスロマイシンが、リスモダンやジギタリス剤の作用を増強することがあるので注意する。

 11.ペースメーカー植え込み患者

完全房室ブロック、洞性ブロックなどの刺激伝導障害のために心拍数の病的減少により循環不全を呈する症例

・体動感知型ペースメーカーでは、歯科治療時の振動を感知し、発信器に影響を及ぼし動悸を訴えることがあるが、歯科治療に使用する電気器具が発生する電流や電磁波は、ペースメーカーへは無視できる程度の影響である。

a.使用をさけるもの

ア.手術時の電気メス、内視鏡的ポリペクトミー---ペーシングシステムへの電磁気干渉(EMI)を生じる可能性がある為、避けたほうがよい。止血モードより切開モードでEMIを受けやすく、連続して長時間通電するよりも、短時間の通電を頻回に反復するほうがよい。(1回に数秒以内ずつ間歇的に使用する。)対極板は術野に近くペースメーカーからなるべく離して貼付し、コードがペースメーカー本体やカテーテル電極を横切らないように注意する。最近の電メスは、改良されており、上記の注意点を守れば影響は少ないとされる。

イ.MRI

ウ.放射線
 X線やγ線などの放射線は影響が大きい。30Gyのγ線で破壊されたペースメーカーの報告がある。

エ.携帯電話

 植え込み部から約20〜30cm以上離す。植え込み部と反対の耳で使用し胸ポケットには格納しない。

オ.無線

b.血栓予防のため抗血小板剤や抗凝固剤が投与されている可能性があるので出血に注意する。

c.感染性心内膜炎を起こしやすいので抗菌剤を十分に投与する。

 12.術後の全身管理

<参考文献>

    病気を持った患者の歯科治療    長崎県保険医協会編集

    不整脈              南江堂

    歯科医のための内科学       南江堂

    歯科治療こんな時こんな注意    デンタルダイヤモンド


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