信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

Copyright
Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


いわゆる有病者の歯科治療

36 抗菌剤の使い方

2000.12.27 小嶋

抗菌薬・・・・抗菌薬は病原体に殺菌的あるいは静菌的に作用する薬剤で、微生物によって生産される抗生物質、および現在ではほとんど化学合成されている抗生物質と、純化学合成される合成抗菌薬とを含むものである。

^抗菌剤の選択

1、起炎菌の決定

 病巣からの膿、浸出液、血液などから検体を採取し、塗末鏡検、培養同定(嫌気培養を併用)を行うとともに、各種抗菌薬の感受性テストを行い、抗菌薬の選択を行うのが感染症治療の基本である。しかしテスト結果が出るまで数日を要するため、実際の初回投与は各病態の起炎菌頻度から適切な抗菌薬を選ぶ。(例;口腔内感染症の場合、主たる起炎菌である連鎖球菌、ブドウ球菌に特に有効であるペニシリン系が第一選択となる。)

2、宿主側の問題

 患者さんの既往症、身体的検査、臨床検査値、過敏症(皮内テストを行う)、臓器の機能障害(腎臓、肝臓)、免疫抑制、病態(軽度ー経口、重度ー注射)、他の使用薬剤等を考慮する。

3、薬剤の薬理学的作用

 抗菌力、組織移行性、排泄、臓器特異性などの体内動態、毒性・副作用、時には薬価も考慮する。

4、再評価

 耐性菌の出現、重複感染、細菌叢の変化(菌交代症)。

5、投与期間

 自覚症状の推移、熱型、CRP、血沈、白血球数、起炎菌の消失・減少、痰量・性状、胸部X線、血液ガスなどで判定する。

_薬剤との相互作用

 一般的に;抗生物質の一般的な作用として腸内細菌叢を変化させビタミンKを産生する細菌が死滅して、ビタミンK欠乏症を起こすことがあり、このためビタミンKと拮抗して抗凝固作用を示すジクマロール(ワーファリン)の作用を増強する。

@ペニシリン系

・アンピシリン(ビクシリン)、アモキシリン(サワシリン)は、酸性で効果を発現するので、制酸剤と併用すると効果が減弱する。
・痛風治療薬のアロプリノール(ザイロリック)との併用で皮疹が増加する。痛風治療薬のプロベネシド(プロベネミド)との併用で抗菌作用が延長する。
・経口避妊薬の効果を減弱させる。

Aセフェム系

・セフェム系エステル化剤(トミロン、メイアクト、フロモックス等)はH2ブロッカーと併用すると胃酸のpH上昇により、セフェム系抗菌剤の吸収が阻害される。
・セフェム系非エステル化剤はH2ブロッカーにより吸収阻害を受けないが、鉄剤と併用すると吸収が阻害される。

Bセファロスポリン系、アミノグリコシド系

・腎障害患者に投与されている利尿剤(フロセミド、エタクリン酸)や血漿増量剤(低分 子デキストラン、アルギン酸ナトリウム)と併用すると腎毒性が増強され、急性腎不全を起こすことがある。
・セファロスポリン系は蛋白結合生が高く、スルホニル尿素血糖降下剤(トルブタミド) と併用すると、低血糖となる。従って、酸性解熱鎮痛剤の多くは同様の作用があるので、スルホニル尿素系血糖降下剤の投与を受けている糖尿病患者に両者を併用すると低 血糖発作を誘発する可能性がある。

Cテトラサイクリン系

・制酸剤の成分であるカルシウム、アルミニウム、またマグネシウムとキレートを形成し、難溶性塩となり、効果が減弱する、従って、これらを含む制酸剤と処方してはならない。また同様に、鉄ともキレートを形成するので鉄剤と併用してはならない。
・クマリン系抗凝固剤(ジクマロール、ワーファリン)と併用すると血漿プロトロンビン活性を抑制し、血液凝固障害を起こす。
・フロセミド(ラシックス)との併用でBUNを上昇させテトラサイクリンの腎毒性を高める。(セファロスポリン系ないしアミノグリコシド系と同様である)。

Dマクロライド系

・エリスロマイシンはエルゴタミンを含有する製剤、カルバマゼピン(テグレトール)、ジゴキシン(強心配糖体)、テオフィリン(ネオフィリン)、ジクマロール(ワーファリン)の作用を増強させる。また、リンコマイシン(リンコシン)と拮抗し、作用を減 弱する。
・まれに、テオフィリン(ネオフィリン:喘息治療薬)と併用すると、テオフィリンの血中濃度が上昇し悪心、嘔吐する事がある。
・痛風治療薬のプロベネシド(プロベネミド)との併用で、代謝が抑制され血中濃度が高くなり効果が延長する。

Eニューキノロン系

・エノキサシン(フルマーク)、ノルフロキサシン(バクシダール)はフェニル酢酸系(特にフェンブフエン・ナパノール)またはプロピオン酸系非ステロイド性抗炎症剤(とくにケトプロフエン・カピステン、メナミン、オルジス)との併用により痙攣を起こす恐れがある。
・アルミニウムまたはマグネシウム含有の制酸剤との併用により、吸収が低下し効果が減弱する。

`副作用

1、アナフィキラシーショック、薬疹;ペニシリン系、セフェム系
2、造血障害;クロラムフェニコール(再生不良性貧血)テトラサイクリン系、ペニシリン系、セフェム系(無顆粒球症)3、肝障害;マクロライド系、テトラサイクリン系、クロラムフェニコール
4、腎障害;アミノグリコシド系、セフェム系、ペニシリン系、ポリペプチド系
5、聴覚障害(難聴、耳鳴り);アミノグリコシド系
6、偽膜性大腸炎;マクロライド系(クリンダマイシン、リンコマイシン、エリスロマイ                 シン)
7、ビタミンK欠乏症;合成ペニシリン、セフェム系、リンコマイシン系
8、菌交代現象;広範囲スペクトルを有するもの。
9、光線過敏症;テトラサイクリン系

 

a特殊条件下での投与

1、妊婦;ペニシリン、セフェム系が第一選択、他にマクロライド系。
2、βーラクタムアレルギー;マクロライド系、ニューキノロン、テトラサイクリン系、ホスホマイシン
3、腎障害時;マクロライド系、クリンダマイシン系あるいは減量、投与間隔延長
4、肝障害時;減量、投与間隔延長
5、小児;テトラサイクリン系禁忌、ニューキノロン系は15歳以下の小児には禁忌(バクシダールのみ適応)。整腸剤が必要なことが多い。

 

b予防投与について

 抜歯などの観血的処置を行う前に処置前に抗菌剤を投与し、抗菌剤の血中濃度をあげておくこと。

〈予防投与が必要であると考えられる疾患〉

 心臓弁膜症、先天性心奇形、後天性心疾患、副腎皮質ステロイド剤を使用中、

 自己免疫疾患、腎不全で人工透析中、貧血、免疫不全患者、高齢者、妊婦、

 糖尿病患者など。

 

<参考文献>

抗菌薬を理解するために             国際医学出版

KEY WORD3                  医学評論社

高齢者歯科医療マニュアル            永末書店

MGH口腔外科マニュアル             医学書院

今日の治療薬’99               南江堂

歯科におけるくすりの使い方           デンタルダイアモンド社

歯科医院で使う薬の安心マニュアル        医歯薬出版

最新口腔外科学                 医歯薬出版                             


歯科口腔外科の勉強会・症例検討のページに戻る

Copyright

Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine