信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


いわゆる有病者の歯科治療

27. てんかんについて

2000.9.27 藤森 

 現在でも、てんかん(epilepsia)の約半数は、原因不明で病理学も、確立していません。そのため、臨床的な定義としては、緒家により微妙に異なりますが、次の4点がてんかんの定義と考えられます。
  @ 発作がくり返されること。
  A 慢性に経過する。
  B 即知の進行性疾患が原因となるものは除く。
  C 発作は脳性律動異常に対応する。

またWHOの定義
 てんかんは、種々の病因によって起こる慢性の脳障害で、大脳ニューロンの過剰な発射の結果起こる反復性発作を主徴とし、これに種々の臨床症状および検査所見を伴うもの。  となっています。

*分類

1)原因論
 @特発性てんかん(原因不明で素因が関与していると思われるもの)
 A症候性てんかん(器質的もしくは代謝的原因の明らかなもの)

2)発作(症状)

3)代表的な発作症状

部分(焦点、局所)発作
 単純(意識がある)と複雑(意識がない)とに分かれ、脳波は限局した異常所見を示す。しかし、現  実的には対応する部位のみに異常がでるとは限らず、特に発作時の脳波は、初期のみに限局しているが、最初から全般化した脳波異常が見出せることもある。

全般発作(けいれん性、非けいれん性)
 常に両側対称性に出現するか、意識障害があり脳波異常は脳の全領域に出現する。

-E 強直間代発作
 突如として意識を消失し、患者は凝視する。直ちに強直痙攣(両側四肢および体幹が硬直する)を数秒ないし数十秒続き、次第に律動性の間代痙攣に移行する。特殊症例を除き全経過は、30秒、長くて2分である。強直性痙攣の間は呼吸停止によりチアノーゼを示し、また瞳孔反射は消失して患者は倒れる。

-A 欠神発作
 典型的なものは、突然起こり、突然回復する数秒ないし十数秒の意識喪失のみを主徴とする発作、4ー10歳に発症し女性に多い。やや複雑なものでは意識の喪失とともに自動症(意識の消失とともに目的のない運動や行動を生じる)自律神経症状(発汗、立毛、顔面紅潮あるいは、蒼白など)脱力、眼瞼や口周などのミオクローニ(瞬間的な強直)、姿勢筋が緊張して仰向けに倒れる、などの症状を伴うこともある。

-B ミオクロニー発作
 一般に意識は障害されないが、瞬間的に四肢、体幹の一部もしくは両側に強い痙攣が起こる。

-D 強直発作
 体幹または四肢の強直を瞬時にきたす。近心側の四肢に多いので、典型例はバンザイ姿勢をとる。

-F 脱力発作
全身(特に伸筋側)もしくは一部(頚部、四肢の一部)の脱力のため転倒することがしばしばある。

。 てんかん発作重積(重延)状態
 発作が持続するか、発作と発作との間に意識が回復しないで20分以上続く場合を重積状態と言う。この状態は、緊急の治療を必要とする。

*確定診断

臨床症状、脳波検査による異常所見によります。なお脳画像検査による噐質性検査のチェックが必要です。

*治療 

てんかんを抜本的に治療するには、現在のところ薬物による。主な薬剤と、適応(通常単剤投与)を以下にあげます。 

*歯科的対応

 患者が薬物でうまくコントロールされている場合は、すべての歯科治療が、ほぼ通常に行える。(エピネフリン含有局麻も、特に問題とならない)問題となるのは、休薬中の患者、てんかんの既往があり感染症や疲労を合併している患者であります。発作を予防する留意点としては、以下のことが考えられます。

1)患者の既往歴を確実に問診する。既往があればいつ頃からてんかんが出現し、その後の経過、最近の発作、抗てんかん薬常用の有無等を問診し、必要ならばかかり付け医と対診をする。
2)患者にストレス、疲労、感染症が認められる時は一般治療を見合わせるが、歯科疾患が原因の場合は、優先する。
3)ニューキノロン系抗菌薬は、てんかんを誘発する恐れがあるので投与はさける。
4)治療を行う時は、できるだけリラックスさせる。また、タオルなどを目に当てライトのちらつきなど発作の誘因となるもの避ける。
5)デパケンRはカルバペネム系抗生剤との併用は禁忌です。

*発作が出現したとき

 考慮するべき発作は、強直間代発作(大発作)です。この間、患者は意識が消失し、全身にけいれん発作が生じ呼吸は一時的に停止する。そのため以下の手順で処置を行う必要があります。

1)気道の確保
 @ 口腔内の、ラバーダム、リーマーなどの治療器具を除去する。
 A 咬舌の予防もかねてバイトブッロクをかませる。
 B オトガイを挙上させ、必要があれば、アンビューを用いて酸素吸入、呼吸補助を行う。

2)静脈確保
 乳酸リンガー液あるいは、生食にて点滴を行う。

3)ジアゼパムの静注
 側管より、ジアゼパム(0,1-0,3mg/kg)を、静注する。このときに、呼吸状態に注意する。

4)経過観察
 通常発作は数分で治まり、やがて発作後睡眠に入り数十分後には意識が明瞭となる。しかし、20分以上発作が持続する場合は、てんかん発作重積を疑い、その治療を行う必要がある。

*てんかん発作重積時の対応

さらにバイタルサインのチェックおよび救急処置に加えて
Rp1) セルシン  10mg 10〜20分かけて静注
  (ジアゼパム) 止まらなければ20分おきに2〜3回まで

Rp2) アレビアチン(250mg/アンプル)
  (フェニトイン)   1〜2アンプルを10〜20分かけて静注
  効果が十分でなければ2時間後に250mg再投与

 

<参考文献>

  有病高齢者歯科治療のガイドライン    クインテッセンス出版

  歯科のための内科学           医歯薬出版

  薬の処方ハンドブック          羊土社


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