信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会
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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School
of Medicine
2000.6.14 上原
痛風とは、高尿酸血症を基盤とし、臨床的には特異的な急性関節炎・組織への尿酸の沈着・腎結石など を主要徴候とする疾患の総称である。
・尿酸はヌクレオシドの塩基成分であるプリンの最終代謝産物で、高尿酸血症はプリン生成の増加・排泄の減少、または両者に由来する。
・男性に発症し、女性ではきわめて希。発症年齢は40歳代を中心とした中年。肉類・アルコールを好む美 食習慣者、社会的地位の高い人におおい。痛風症の10〜20%に遺伝が認められる。
1.尿酸の生成と排泄(図)
体内での合成と食物中の核酸や体内核酸の分解によって、プリンが生成される。プリンが代謝され尿酸となる。尿酸は、2/3は腎から・残りは腸管から排泄される。
2.高尿酸血症(血清尿酸 UA: uric acid)
血清尿酸の正常値は、男性 3.7~8.2mg/dl 女性 2.7~6.1mg/dl。
尿酸は体液中で98%が尿酸ナトリウムとして存在し、その生理的溶解度は 7.0mg/dlであるため、体温低下などにより尿酸ナトリウムの結晶が析出し、痛風発作の危険性が増大するので、7.0mg/dl を高尿酸血症という。
3.高尿酸血症の成因・分類
高尿酸血症の成因は、尿酸生成の増加・尿中排泄の減少・またはこれらの両者。
一時性高尿酸症・・・病因不明の高尿酸血症のこと
二次性高尿酸症・・・白血病・慢性腎炎など何らかの基礎疾患に基づいて生じる。
4.症状(自然経過)
痛風は、自然経過により4期に分類され、各病期によって異なる症状が認められる。
@無症候性高尿酸血症期
血中の尿酸の増加は認めるが臨床症状を全く伴わない。痛風を発症しない場合もある
A急性通風性関節期
ある日突然、多くは夜間に激しい痛みにより急性関節炎の発作が起こる。ときに発熱を伴う。発作は、第一趾中足関節(足の親指の付け根)に生じることが多く、ついで足関節に生じることが多い。局所は、発赤・腫脹を生じ2日〜1週間で軽快する。激しい運動・ストレス・アルコールなどが誘因となる。
B間欠期
発作後の全く症状のない期間。多くは6ヶ月〜2年の間に二回目の発作が起こる。その後、発作の間隔は次第に短くなり慢性結節性痛風期に入る。
C慢性結節性痛風期
高尿酸症を放置すると、初発発作から平均12年(3〜42年)後に痛風結節(トーフス)の発生がみられる。痛風結節は、骨・軟骨・腱・皮下組織などに尿酸塩が沈着し、その周囲を線維組織が被覆して結節状になったもので、この時期には尿酸結晶の沈着は全身におよび、X−Pにて関節は破壊され変形し骨の抜き打ち像・脱灰像吸収像が認められる。機能傷害が現れる。
5.合併症
痛風腎・・・腎への尿酸の沈着により生じ腎不全に至る。尿路結石の発生率は痛風患者の10~30%。
動脈硬化・・脳梗塞、心筋梗塞を生じる頻度も健常者より頻度が高い。
高脂血症・肥満・高血圧(痛風患者の60%)・糖尿病
6.治療
治療としては、急性期には痛みを緩和することが目的となるが、発作の消退後は痛風発作の予防だけでなく腎障害や全身合併症を防止することが重要となる。そのためには、高尿酸血症の適切なコントロールおよび糖・脂質代謝・肥満の是正も必要。
薬物療法
コルヒチン・・・痛風発作の予兆・前兆があるとき。発作進展時には効果がない。
NSAID ・・・・対処療法で急性期の疼痛の緩和を行う。インドメタシン(インダシンR)、
フェンブフェン(ナパノールR)、ナプロキセン(ナイキサンR)、オキサプロジン(アルボR)
尿酸排泄剤・尿酸生成抑制剤(表)
7.歯科治療時の注意点
歯科治療時に特別な緊急事態は起こらないが、薬物の相互作用に注意する。
薬物の相互作用
・コルヒチンと笑気
コルヒチン自体に弱い麻酔作用があり笑気などの催眠作用が増強される。
・プロベネシドとサリチル酸
プロベネシドの尿酸排泄効果は少量のサリチル酸で低下させられる。逆に、プロベネシドによりサリチル酸の腎排泄は延長するのでアスピリン・バファリンの使用は避ける
・プロベネシドと抗生剤(ペニシリン系・セファロスポリン系)
プロベネシドはペニシリン系・セファロスポリン系抗生剤の排泄を抑制するため抗生剤の血中濃度が上昇するので、抗生剤の減量を図る。
・スルフィンピラゾンとサリチル酸製剤
スルフィンピラゾンの尿酸排泄効果にサリチル酸が拮抗してしまう。
・スルフィンピラゾンとペニシリン系抗生剤
ペニシリン系抗生剤の血中濃度が上昇し効果が増強することがある。
・アロプリノールとアンピシリン(ペニシリン系)
アロプリノールとアンピシリン(ビクシリンR、ペントレックスR)の併用は、発疹の発生が3倍に増加。
8.顎関節部の痛風性結節
顎関節部に発症する痛風性関節炎はきわめて希。本邦では口腔外科学会雑誌39,No9、1002-1004の論文に発表されているのみ。(1993)
「開口障害をきたした顎関節部痛風結節の1例」 宮島 他
<参考図書・文献>
歯科における薬の使い方1998-2002 デンタルダイヤモンド社
歯科医展望別冊 成人病のすべて 医歯薬出版
痛風研究会ホームページ http://www1e.mesh.ne.jp/tufu/don.html
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