信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


いわゆる有病者の歯科治療 
1. 
高血圧症

1999.11.17 高見澤 

高血圧症とは?

定義  収縮期血圧≧160mmHg(140~159mmHg)
    拡張期血圧≧ 95mmHg(90~94mmHg)
               (境界域高血圧) 

<血圧測定>
 3回測定し、低い値をとる。医師の前では血圧が著しく上昇する患者がみられ,3回目には収縮期血圧が20~30mmHg下がるものから不変なものまでみられる。(white hypertention)

原因は?

               Danielsons(1981)  Sinclairs(1987)  

・本態性高血圧症       95.3%     92.1%
・慢性腎実質疾患       2.4%     5.6%
・腎血管性高血圧       1.0%     0.7%
・原発性アルドステロン    0.1%     0.3%
・Cushing症候群       0.1%     0.1%
・ 褐色細胞腫         0.1%     0.1%
・ 経口避妊薬         0.1%     1.0%
・ ステロイド
・ ビタミンD中毒

歯科・口腔外科における注意点と対策

・高血圧症患者数は成人の10~20%、約2000万人
 また近年、有病者は増加の一途であり罹患疾患の内で最も多いのが循環器疾患であり高血圧症である(65歳以上の高齢者、65歳未満の5倍との報告もある。当科の口腔悪性腫瘍患者では70歳未満・以上ともに同じ傾向が認められる)

=アナムネ時に高血圧症の既往が認められたとき=

1.BP、PRを測定し、病態を調査する。
2.収縮期180以上、拡張期110以上は治療延期、もしくはRPPが12000~13000以上、収縮期160~170以上では笑気吸入鎮静法(N2O・15~40%にて)を行う。
3.笑気吸入鎮静法後15~20分後RPPに変化ない場合はCa拮抗剤(アダラート)5mgを舌下投与する。
4.治療を開始する。BP、PRは5分ごとに測定し経時的変化を確認しつつ行う。

 65歳以上であれば例え既往が無くともBP、PRを測定する事が望まれる。;また治療中及び前後に頭痛、めまい、などの症状が出現したときはその場ですぐに血圧を測定する。
;笑気吸入鎮静法は循環器系の疾患のPtには極めて有効であるとの報告があり、呼吸・循環に対し影響が少なく導入・覚醒が速い利点がある。(局麻時のBP,PR上昇は抑制出来ない)

・ HT患者の服用可能性のある薬剤は?

           (代表的薬剤商品名)
Ca拮抗剤    (アムロジン、アダラート、コニール)
ACE阻害剤   (インヒベース、レニベース)
β遮断剤     (テノーミン、セレクトール)
降圧利尿剤    (ラシックス、フルイトラン)
α1遮断剤     (カルデナニン、デタントール)

・我々(歯科医師)の投薬時の注意点?

 NSAIDs(インテバンなど)によってはACE阻害剤、β遮断剤、サイアザイド系降圧利尿剤の降圧作用が減弱されることがある(内科担当医へ相談)。
 ラシックスを内服している時は、セフェム系抗生剤にて腎毒性が増強される。

・アドレナリン使用の量は?

 通常、NYHAムのPtであれば40μgまでのアドレナリンの使用は問題がないといわれている(普段使用局麻1cat=2%Xylocaine+1/8万アドレナリン・22.5μg)。しかし、強い不安、注射針の刺入時の疼痛などは内因性のカテコラミンが分泌されBP・PRの急激な変化を生じるので注意が必要である。
 一般的に局所麻酔後の血管収縮薬の血中への移行は、注射後3〜5分でピークを迎える。非選択性β遮断剤を服用しているPtではアドレナリンのβ作用が遮断され、心機能は抑制傾向を示しPRは低下し、α作用が増加し末梢血管抵抗が増加し収縮期血圧が増加する。

参考文献:

鈴木ら他・有病者に関する安全な歯科治療への臨床的検討 日口診誌9-2 1996

内科学  望月一郎 明倫堂書店 

病気を持った患者の歯科治療 12P 長崎県保険医協会編集 全国保険医団体連合会


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