信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


いわゆる有病者の歯科治療

19. 白血病の治療と歯科治療について

2000.5.10 張 

【1】 急性骨髄性白血病の治療  〜AML〜

寛解導入療法と寛解後療法(地固め療法、維持療法、強化療法)に分けられる。

目標:完全寛解(CR)に導入する。骨髄中の芽球が5%以下で、末梢血と骨髄像が正常化し臨床的にも症状の消失した状態。
欧米ではDNR、IDRとAra-Cの併用療法で50〜80%の、日本ではAra-Cを使用せず、BHACを使用して70〜80%のCRが得られたとの報告例がある。
CR後は微少白血病細胞を減少し再発と治癒を目指すが欧米では、寛解直後に地固め療法としてAra-Cの大量投与によりCRの25〜40%の症例で長期生存が可能となる。
日本ではAra- Cの大量投与の保険適用がないため非交叉耐性薬剤を含んだ地固め療法が主体であったが、今年からAra-Cの大量投与が保険内で認可されたため、投与されると思われる。

A. 完全寛解導入療法
治療期間が7〜14日間、原則としては10日間。
使用薬剤:BHAC, DNR、6MP 、Ara-Cなどできるかぎり1クールでCRに到達させる。

B. 地固め療法
原則的に好中球1500、白血球が3000、血小板が10万を越えた時点で始める。
10日前後で1クールとして3〜4回行う。骨髄抑制が高度におこる。

C、維持強化療法
6〜8日を1クールとして4〜6回行う。

【2】急性リンパ性白血病の治療  〜ALL〜

小児に多く小児では90%以上のCRが、80%以上の長期生存率が得られる。成人になるとCRは75〜85%で、長期生存率は25〜40%と低くなる。
治療順序はAMLと同じ。
使用薬剤:VCR, PSL , CYなど
完全寛解後の骨髄移植は、成人において比較的若く、内臓機能がよい患者で5年生存率が51.5%である。
その他の症例では、化学療法のみと、骨髄移植を行った患者で生存率に有意差はなかった。

【3】慢性骨髄性白血病の治療  〜CML〜

治療法:骨髄移植、インターフェロン(IFNα)、ハイドレキシウレア(従来の化学療法)
50才以下では骨髄移植が第一選択40%以上が治癒、
IFNαは骨髄移植が望めない患者などに対する弟2選択ム反応がよければ90%の5年生存率があるが反応しないと20%の生存率しか望めない。IFNαは20ヶ月の延命を可能にした。

IFNαを用いた化学療法の手順
ハイドロキシウレアを1500〜2000 mg/day経口投与し白血球が10000以下にったら、IFNαを投与。白血球が6000以下になったらIFNαを白血球が3000〜5000を保つように投与していく。
寛解状態が4週以上基準を満たすまで行う。
急性転化、移行期には化学療法を行う。寛解期が得られたら、骨髄移植を早期に行う
AMLに準じた強化療法は副作用が強いためあまり行わない。

【4】慢性リンパ性白血病

日本では2%程度の頻度。日本では少ないため認可されない薬もしくは臨床試験中の薬が多い。
使用薬剤:CY、2-Cda、ETPなど
低γグロブリン血症もしくは、T細胞機能低下のため感染症を合併しやすい。

【5】最近の治療法

@強力化学療法に基づく感染症への対策(特にAMLにおいて多い。)
→好中球減少時の発熱における欧米のガイドラインを参考にする。
A残微少白血病細胞のモニタリングによる白血病の治療-PCR法-疾患に特有な染色体異常を検出。
B遺伝子治療ム固形癌に比べ、化学療法、骨髄移植の効果がいいため遺伝子治療はあまり盛んではなかったが、新たな細胞標的の研究など今後発展されるとされる。

 

歯科治療について

【1】 歯科に関連する化学療法の副作用〜口内炎〜

原因:抗ガン剤による粘膜障害、細菌、ウィルスの感染
発生起序:薬剤投与によりフリーラジカルが生じ、粘膜組織を破壊し炎症反応が生じる。
骨髄抑制により、WBC1000以下が持続すると口腔内感染症を起こす。
症状:日本癌治療学会副作用基準

予防及び処置
@抗癌剤投与後5分前より30分後まで氷片を口に含ます。
A5-FUに対する口内炎にはーザイロリック500mg、カルボキシメチルセルロース5g、精製水500mlを加え1日10回ほど含嗽させる。
Bイソジン、ファンギゾンの含嗽
C疼痛に対して
- 4%キシロカイン10ml+アスレン3包+エレース3バイアル+精製水500ml
- サリチル酸0.5g+ 炭酸水素Na0.5g+精製水100ml

【2】歯科治療

@化学療法に入る前にパノラマX線写真根尖性歯周炎、辺縁性歯周炎、智歯周囲炎などの歯性感染病巣のスクリーニングを行う。
A処置は感染巣の除去を行う。
  化学療法、骨髄移植前の歯科治療は感染巣の除去に努める。
  大きい根尖病巣、辺縁性歯周炎の歯牙は、化学療法前5日ほどの余裕があれば抜歯する。
  化学療法が優先される場合は、できるだけ感染根管処置を行う。
B単純処置でも歯科治療前には、感染予防として抗生剤を服用させる。
C寛解導入の状態が得られたらもしくは強化療法に入る前に即、抜歯などの観血的処置を行う。出血傾向が激しい場合には十分に局所止血を行い、3〜5万/mmをめどに血小板輸血を行う。成人で2万あげるときには、最低10単位以上の血小板血漿が必要となる。
D軟らかい歯ブラシ、ウォーターピックを使用させる

<参考文献>

臨床成人病 東京医学江堂  

白血病治療マニュアル 南江堂

基礎疾患を持つ患者への対応  


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