信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会
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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School
of Medicine
2000.4.19 上原
1,止血の機序
1)血小板による止血・・・・・一次止血(血小板血栓の形成)
2)血液の凝固による止血・・・凝固系
3)繊維素溶解(線溶)・・・・線溶系 →止血の完了
血小板血栓よる止血の後さらに血栓が強固となるために”凝固系”が働く。比較的大きな血管損傷の場合、血小板血栓のみでは止血は困難。その後、血栓溶解のため”線溶系”が働く。
2,凝固能の異常による疾患
1)先天性凝固障害
各凝固因子が先天的に欠如しているか、あるいは機能が異常をおこしている場合に生じる
[ 治療 ] 凝固因子の補充 or FFP の輸液
2)後天性凝固障害
A) 肝障害に伴う凝固異常
非代償性の肝障害では・を除く凝固因子の低下をきたす。
B) ビタミンK欠乏症
、・、ァ、ィは肝臓で合成されるがビタミンKを必要とする。ビタミンKの欠乏のため活性の低い凝固因子前駆体が血中に放出される。
C) 第ヲ因子に対する阻止物質
D) 大量輸血に伴う止血異常
保存血中には、」・ヲ因子また血小板が少なく機能低下が生じている。
E) アミロイドーシス
ィ、ァの欠損症を伴うことがある。
F) ループスアンチコアグラント
SLEを含む自己免疫疾患・悪性腫瘍・薬剤などにより凝固阻止因子が生じる場合がある。凝固過程におけるリン脂質の抑制のためと考えられる。
G) 薬物による出血傾向
ワーファリン=ビタミンK拮抗薬
ヘパリン=アンチトロンビン。の抗トロンビン作用の増強
3,血友病
血友病A(第ヲ因子の欠乏)、血友病B(第ァ因子の欠如)
男性のみで、男子出生人口の8000人に1人。先天性出血素因の中で80%を占める。
症状は、乳児期後半の額のぶよぶよしたこぶ(皮下出血)、幼児期の関節・筋肉の出血(こわばり、違和感、学童期の血尿・鼻出血抜歯時の過剰な出血、思春期以降の胃腸管出血
4,線溶亢進による出血傾向
線溶系が制御されずに亢進すると、止血のため損傷血管に形成された血栓が損傷血管の修復以前に崩壊され、出血傾向を招くことがある。
・プラスミノーゲンアクチベーターの増加
・プラスミノーゲンアクチベーターインヒビターの減少
・α2 プラスミンインヒビターの欠損ないし減少
5,歯科治療時の注意点
@正常人と同程度に欠乏凝固因子が補充されていれば、歯科治療(抜歯を含めて)は可能である
口腔内は安静をはかりにくい場所なので観血的処置時には、シーネ・縫合・サージカルパックスポンゼルやオキシセルを活用する。
A凝固能の異常の場合、一次止血後の後出血に注意し局所止血を必ず行う。
B局所麻酔では血管収縮薬配合の局麻を使い、大きな血管(大口蓋動静脈、オトガイ動静脈など)を損傷しないよう注意する。伝達麻酔は禁忌。
C抜歯窩の不良肉芽は徹底して掻爬し、線溶出血の原因をできるだけ排除する。
D歯内療法では、リーマー操作を確実に根管内にとどめる。
E歯石除去は、ハンドスケーラーを用いずに超音波スケーラーで出血を最小限に押さえる。また、一回に1/4〜1/6顎にとどめる。歯周パックを必ず行う。
Fバキューム操作につては、同じ箇所にとどめない。口底や、頬粘膜に血腫をつくることがある。
G可撤性義歯については、新義歯として装着したら頻回に義歯調整を行う。
H電気メスは使わない。凝固の促進にはなるが、組織壊死をおこす可能性があるので後出血を生じることがある
<参考文献>
出血傾向 メジカルビュー社
有病高齢者の歯科治療 デンタルダイヤモンド社
有病者の歯科治療 歯界展望/別冊
シンプル生理学 南江堂
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