信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


いわゆる有病者の歯科治療

12. 慢性肝炎

2000.2.23 張

慢性肝炎:6ヶ月以上肝炎ウィルスによる炎症が持続してる状態。

肝生検にて肝細胞の壊死、門脈域に円形細胞の浸潤、繊維化が見られる。
組織学的に浸潤細胞、増生繊維による限界層の破壊の有無で2種類にわける。

非活動性−活動性に移行すこともあるが、肝硬変に移行することはなく予後良好。
活動性−15%が肝硬変に移行する。
    高度活動性(亜少葉壊死があるもの)−1〜3年内で半数が肝硬変に移行する。

原  因:肝炎ウィルスに起因する。主にHBV(20%) 、HCVが原因。

病理分類:犬山分類(1979)

病  態

@B型慢性肝炎:国内にてHBVのキャリアーは0.1%
免疫力の向上、ウィルスが増加する第期に発症することが多い。

AC型慢性肝炎:国内にてHCVのキャリアーは1.5%
無症候性キャリアー→慢性非活動性肝炎→慢性活動性肝炎・肝硬変
免疫学的機序と肝細胞の直接的破壊による。

Bデルタ慢性肝炎:HBVとの重複感染
強い炎症反応が起きるため重症化する。日本では少ない。

臨床症状

自覚症状−全身倦怠感、食欲不振、悪心など。無症状のこともある。
他覚症状−肝の軽度〜中程度腫大、硬度増加、黄疸があることは少ない。
     手掌紅斑、くも状血管腫があるとき肝病変が進行している。

検  査

@肝機能検査:

ALB、血液凝固系-正常か、軽度の低下をたどる。低下が著明だと肝硬変に移行。
ZTT,TTT−上昇
GOT,GPT-肝細胞壊死を示す。慢性肝障害が高度に進行すると低下傾向を示す。
GOT/GPT比ム肝障害が進行すると高度になる。
PTとラッピトターンオーバー蛋白(プレアルブミン)は特に肝機能の変化を鋭敏にとらえる。

Aその他ー:超音波、CT 、MRI、肝シンチなど
      慢性肝障害の進展度を把握するには肝生検が一番有効。

B血中ウィルスマーカー

鑑別診断:急性肝炎、肝硬変、体質性黄疸、脂肪肝、アルコール性肝障害、
      自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変

治  療:基本−抗ウィルス療法
      安静、食事療法、肝臓薬投与

抗ウィルス療法

 @B型肝炎

一時は OK-432、アデニンアラビノシドが使用され、現在はIFNα、IFNβ
ウィルスの完全排除は難しい。
HBs抗体(+)でもーHbe抗原の消失、Hbe抗体(+)血中HBV-DNA, DNAポリメラーゼの陰性化によって肝炎の鎮静化がみられる。
(IFN投与時期−免疫寛容期−投与しても効果なし
        肝炎期−1年内に3〜5割でHBe抗原の消失と肝炎の鎮静化)
HBe抗原を産生しない突然変異体にはINF投与後の予後は不良とされる。

 AC型肝炎

目標:ウィルス排除による肝炎の鎮静化
ウィルス排除の指標にGPTが利用される。
INFα,INFβが投与される。

 BINF副作用

発熱、骨髄抑制、脱毛、腎不全、全身倦怠感、筋肉痛、抑鬱、間質性肺炎
眼底出血、自己免疫反応

予  後

B型肝炎−HBe抗原(+)−活動性が多い。

HBe抗体(+)−非活動性が多い。
抗原から抗体へのセロコンバージョンは年間5〜10%でそのうち90%に肝炎の鎮静化がおきる。
架橋壊死を認める活動性肝炎は40〜80%で肝硬変に移行する。
5〜10年で10%が肝硬変を経て肝癌に移行。

C型肝炎−自然治癒確率は5%前後、病変の進行は緩慢

非活動性から活動性への移行は約10年の経過がある。
活動性から肝硬変、肝癌への移行は5〜10年で約20%
輸血による感染例では輸血後約20〜30年で肝硬変、肝癌に移行する。

 

歯科治療時の注意点

@輸血歴、治療経過、現在の状態について把握する。

A投与可能性のある薬

肝臓病薬−プロヘパール、グリチロン、ウルソ、小柴胡湯、EPLなど
B型慢性肝炎−プロパゲルマニウム(セロシオン)

B急性、慢性肝炎の憎悪期、IFN治療時には積極的治療はさける。

C抗菌剤の選択

最高でも一週間程度の投与。3日では慢性肝炎では肝機能に障害がないとされる。
マクロライド系の使用は避け、ペニシンリン、セフェム系の使用が無難。
2週間以上投与する場合は投与後、一週から4週まで週一回の肝機能検査を行うのが望ましい。

D鎮痛消炎剤の選択

酸性非ステロイドに肝障害が多く発現する。
投与量、期間を十分に考慮する。
イブプロフェン(ブルフェン)以外のプロピオン酸系が安心して使用できる。

E感染、出血傾向には注意する。

 

肝炎ウィルスと血中ウィルスマーカー

【1】 B型肝炎ウィルス

@HBs抗原ム現在の感染状態を示す。B型肝炎診断の第一のマーカー

AHBs抗体ムウィルスが排除された状態。既往歴として調べる。
まれにウィルスのサブタイプにより抗体が検出されてもHBVが存在してることがある。

BHBe抗原ム血中ウィルス濃度が高く感染性が強いことを示す。

CHBe抗体−HBe抗原の消失と共に血中に出現する。感染性が弱くなった状態
慢性肝疾患では病変の鎮静化が認められる。
ウィルス突然変異体ではHBe抗体が(+)でも肝炎は鎮静化されない。

DHBc抗体-HBc抗原に対する抗体。急性肝炎か、キャリアーからの急性症状かの鑑別に用いられる。

EIgM-HBc抗体ムB型肝炎の初期に増加し急性肝炎の診断に用いられる。

FHBV関連DNAムポリメラーゼーIFNによる抗ウィルス効果の指標

Gpre-S抗原、pre-s抗体−HBV増殖マーカー

 

【2】 C型肝炎ウィルス

@HCV抗体ム急性期には陰性のことが多い。
既往感染例でも陽性が持続することが多い。

AHCV-RNA抗体ムHCV感染の確定診断、IFN治療時の抗ウィルス効果の判定に用いられる。

 

<参考文献>                         


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