信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会
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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School
of Medicine
2000.2.9 上原
1,胃・十二指腸潰瘍とは
胃・十二指腸粘膜における局所の組織欠損のこと。深さが粘膜筋板を越えるものを潰瘍、それより浅いものをびらんという。胃潰瘍患者は12万人、十二指腸潰瘍患者は3万人といわれている。
2,胃の構造と組織(図)
3,胃の生理
消化・・・胃液 pH 1〜2(塩酸{壁細胞}、ペプシン{主細胞})
ペプシン・・・蛋白消化酵素、ペプシノーゲン+塩酸から
防御・・・粘液(表層上皮細胞)、HCO3-(重炭酸塩)
※消化と自己防御の両立
胃粘膜面は、粘液に保護され、重炭酸塩によって pH 7ぐらいに保たれている
4,胃液の分泌機序
@頭相・・・神経調節による相(迷走神経による反射的な分泌が行われる)
A胃相・・・食物が胃にはいることで起こる胃液分泌の相(機械的刺激、化学的刺激)
B腸相・・・小腸粘膜からの神経反射・ホルモンにより胃液を分泌させる相
cf)分泌の機序には神経性機序と体液性機序がある。
5,胃・十二指腸潰瘍の病因
a) 攻撃因子と防御因子ののバランスが崩れると生じる。
@攻撃因子・・・胃液(塩酸=胃酸・ペプシン)
胃酸の分泌機序と胃酸分泌調節機構
・酸分泌促進因子→迷走神経・ガストリン・ヒスタミン・カルシウム・副腎皮質ホルモン
・酸分泌抑制因子→セクレチン・ソマトスタチン・CCK(cholecystokinin)
GIP(gastric inhibitory polypeptide)・
VIP(vasoactive intestinal polypeptide)・交感神経
・壁細胞の細胞レベルにおける分泌機序
壁細胞のレセプター(H2respter、ガストリンrespter、ムスカリンresepter)
細胞内伝達機構
A防御因子
・胃粘膜細胞回転・・・・・粘膜の再構築、胃被蓋上皮は2〜4日の寿命
・粘膜層・・・・・・・・・胃粘液(糖蛋白・アルブミン・ムコ多糖)←副細胞、粘膜上皮細胞
・重炭酸イオン・・・・・・塩酸を中和して粘膜表面のpHを7ぐらいにする
・プロスタグランジン・・・
・血流ー胃粘膜微小循環・・
・自律神経b)ヘリコバクターピロリ菌
胃炎や胃潰瘍・胃癌の原因を担っていると推測されている。胃潰瘍患者の70%、十二指腸潰瘍患者の90%で検出されるという。このため胃潰瘍患者でヘリコバクターピロリ菌が検出されると除菌を行うような治療が行われる。
6,症状
心窩部痛・空腹時or夜間痛・胃部重圧感・胸やけ・悪心・嘔吐・食後痛・背部放散痛・吐血・下血
7,診断
内科に対診
・造影剤を使った単純X−pで、造影剤が潰瘍の陥凹(ニッシェ)に入り込むことを確認
・内視鏡検査
8,治療
・20世紀初頭までは外科的に胃の切除を行っていた
・胃酸分泌の頭相の仕組みがわかると、選択的胃迷走神経切除術が行われるようになった
・ガストリンの発見で胃相の仕組みがわかると、幽門洞切除術が考案された。加えて、幽門洞形成術が行われた。
・現在は、塩酸分泌の生理機構が解明されヒスタミン2recepter を遮断するとガストリンやアセチルコリンによる胃酸分泌も抑制されることがわかった。
・プロトンポンプ阻害薬が近年開発され、強力な胃潰瘍治療薬として使用されている
(ヒスタミン・ガストリン・アセチルコリンの刺激がプロトンポンプに働きかけ胃酸が分泌される
胃酸分泌最終段階の[H+/K+]-ATPase を阻害する働きがある)
9,胃・十二指腸潰瘍患者の歯科治療時の注意点
@診療時の注意点
・急性期・治療期の潰瘍は、歯科治療のストレスで、潰瘍を増悪させるおそれがあるので歯科治療は延期し、緩解期や治療後に行うべきである。A投薬時の注意点
・NSAIDsは活動期胃潰瘍患者への投与は禁忌
・過去に潰瘍歴のある患者に NSAIDs を投与するときはプロスタグランジン製剤(サイトテック)を併用する方がよい
・シメチジン(タガメット)、ラニチジン(ザンタック)の服用患者に、セフェム系抗生剤を投与するときは、禁酒が必要。→顔面紅潮・動悸、嘔吐、頭痛などが起きる。
・シメチジン服用患者に、リドカイン注射をするときはその量に注意する。肝血流量を30%低下させるため、リドカインの血中濃度が増加する。B潰瘍患者に主に投薬される薬と、歯科で使用される薬との相互作用
・エステル型セフェム(トミロン、バナン、メイアクト、フロモックスなど)とH2ブロッカーブロッカーによる胃酸の分泌抑制のため胃のpH が上昇し、セフェム系抗菌薬の吸収が阻害される。
・ニューキノロンと消化性潰瘍治療薬
消化性潰瘍薬(炭酸水素ナトリウム・酸化マグネシウム・・マーロックスなど)とニューキノロンは、ニューキノロンが、マグネシウムやアルミニウムのイオンとキレート結合するので、腸管吸収が低下する。特にアルミニウムで吸収抑制が著しい
※クラビット・タリビットとアルミニウムで60〜70%の吸収阻害
オゼックス・スパラでは20〜30%の吸収阻害
※マーズレンS・ビオフェルミンR、ラックB、ミヤリサンBMはニューキノロンとの併用で影響を及ぼさない
<参考図書>
消化性潰瘍 南江堂
成人病のすべて 医歯薬出版
今日の治療薬 南江堂
からだのはたらき 医学書院
歯科における薬の使い方 デンタルダイヤモンド
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