信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会
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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School
of Medicine
1.術中輸液の目的
手術患者は当日絶飲食であり、手術侵襲により細胞外液の喪失や電解質バランスの異常が生じるため、これらの補正のために必要である。
2.術中輸液の組立て
1)術前の絶飲時間 (loss)
定期手術では6〜8時間前から絶飲絶食→この間の喪失量である1日の維持輸液量の1/4〜1/3は未補正分→つまり大人では維持液500〜800mlの輸液が必要2)術前の脱水 (loss)
大まかな指標として、乏尿では体重の5%(2.500ml)、ショックでは10%(5.000ml)が失われたとみなし補正する。尿流出が50ml/h以上あれば循環血液量は回復したとみなす。
出血例では、Hb10g/dl以上ない場合とりあえず輸液により循環の維持を図ることが重要。3)third spaceへの喪失 (shift)
ECFのthird spaceへの移行を考慮し、術中に積極的にECFの補充を図るのが現在の輸液の考え方。→細胞外液補充液(ヴィーンD,F等)を用いる。4)輸血削減のための輸液 (replacement)
500〜1.000mlの術中出血では輸血を控え輸液のみでの置換(replacement)をはかる。輸液量は出血量の3倍必要で細胞外補充液単独よりも代用血漿剤(デキストラン等)を併用すると輸液量が抑えられ る。5)前負荷増大のための輸液 (load)
全身麻酔薬は循環抑制作用があり、心拍出量減少、血圧低下をきたすため術前に体液不足がなくても輸液負荷(volume load)により心臓の前負荷を増大し循環を安定させる。
3.術中輸液の実際
前述したloss,shift,replacement,loadと年齢、手術内容、基礎疾患、心・肺・腎機能等を考慮し術中輸液を管理する必要があるが以下におよそのガイドラインを記します。
1)輸液剤
細胞外液補充液(ヴィーンD,F等)が主な輸液剤。third space分の補充、術後低血圧の予防、抗利尿ホルモンの分泌を抑制し乏尿の防止、術後腎不全を予防する効果がある。
術中はストレスによる耐糖能低下があるが最初は糖含有のものがよい。糖質としては血中濃度の測定が容易でインシュリンにより調節しやすいブドウ糖がよい。2)輸液量
5〜10ml/kg/hを基準とする。尿量(0.5ml/kg/h)、血圧、脈拍数、手術侵襲の程度、出血量も考慮する。
術後輸液
1.術後の病態生理
Mooreらによる外科侵襲に対する反応・回復過程について
1)第1相 (Adrenocortical Phase)
手術侵襲→視床下部 下垂体後葉→ADH→集合管 水の再吸収→乏尿
手術侵襲→視床下部 下垂体前葉→ACTH→副腎皮質→Aldosterone→遠位尿細管 Na再吸収→生体のNa貯溜 K排泄→尿中K排泄増加
手術侵襲→視床下部 下垂体前葉→ACTH→副腎皮質→Glucocorticoid→糖新生、異化亢進、末梢組織での糖利用抑制(surgical diabetes)2)第2相 (Corticoid Withdrawal Phase)
第1相で大きく動いた内分泌環境が平常に戻り始める時期。手術侵襲により異なるが通常1週間前後。
third spaceに死蔵されていた水とNaがいっせいにECFに戻ってくる(Refilling)。
一般的に術後輸液はこの時期までの輸液管理をいう。3)第3相 (Muscle Strength Phase)
脂肪組織を除いた組織での窒素の蓄積時期。
4)第4相 (Fat Gain Phase)
回復過程が進み、脂肪組織に中性脂肪の型で炭素が蓄積する時期。
2.術後輸液の実際
1)輸液量
基本量は、水分35〜45ml/kg/day,Na60〜100mEq/day,K20〜40mEq/dayであり、評価する点は、術中の水分出納、バイタルサイン、尿量である。このうち時間尿量(0.5ml/kg/h以上の確 保)は重要な指標となる。
2)術後輸液の実際
術直後〜12時間はthird spaceへの移行を考慮し、時間尿量とバイタルサイン安定させる量の細胞外液補充液(3ml/kg/h)を投与する。
術後2日目以降バイタルサインと尿量が安定してきたらK増量とNaの減量を図り維持液(2ml/kg/h) に変更する。
術後3日目以降からはさらに輸液量を制限していく。
<参考文献>
歯科麻酔学 医歯薬出版
輸液ハンドブック 中外医学社
臨床医学情報 1984/NOV-DEC 輸液療法の現在
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