信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

Copyright
Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


輸液の実際

             6, 輸液の選択と種類     2001.2.14 小塚

<輸液製剤の種類>

A. 電解質輸液

1. 細胞外液補充液:循環血液量、細胞間液減少時の細胞外液の補給・補充に使用。等張でNaを多く含む。
         大量・急速投与で脳浮腫、肺水腫、末梢の浮腫の出現に注意。
 ・生理食塩水、ラクテック、ヴィーンD(ブドウ糖として0.5g/kg/h以下でdiv.)  

2. 開始液:脱水時、病態不明時、手術前後の水分、電解質の初期補給に使う。Kを含まない。
 ・ソリタT1(300〜500ml/hでdiv.)乳酸血症の患者に禁忌(乳酸イオン含むので)電解質が血清の2/3

3.脱水補給液:K喪失性高張性脱水症、アシドーシスに使う。Kを含む。細胞外液のpHを高めKが細胞内に入りやすい。
 ・ソリタT2

4.維持液:不感蒸泄、尿から失われる水分や電解質を補う、しかしショックや脱水など急激な喪失には使わない。1日2000から2500ml輸液すると1日に必要な水分、電解質量が維持されることから維持液と呼ぶ。大量・急速投与で脳浮腫、肺水腫、末梢の浮腫の出現に注意。
 ・フィジオゾール3号、ソリタT3(300〜500ml/hでdiv.、尿量500ml/day or 20ml/h以上が望ましい)、アクチット

5.術後回復液:K貯留のおそれのあるときや、術後早期に使う。Kを全く含まないか少量で、Naも低濃度、腎機能低下時にも使う。
 ・ソリタT4

B. 栄養輸液

1.糖質輸液

:水分の補給に使う。ブドウ糖以外糖液はインスリン非依存性なので侵襲時でも血糖上昇が少ない。よって、耐糖能以上がある場合、グルコース以外の糖液を使うか、インスリンを併用しBSコントロールする。20%以上の糖液は熱量補給用として使う。
禁忌:低張性脱水
副作用:大量・急速投与で浸透圧利尿、電解質喪失、希釈性アシドーシス
・ 5%ブドウ糖液(10ml/kg/h以下でdiv.)、50%ブドウ糖液(1ml/kg/h以下でdiv.IVH)
・ 基本的に20%以上はIVHから、速度は0.5g/kg/h以下

2.脂肪乳剤

:必須脂肪酸欠乏、高カロリー投与に使う。
急性副作用:胸内苦悶感、背部痛、悪心嘔吐、発熱など
長期投与で貧血、凝固異常、肝障害、高脂血症、しかし、10日以上連用しなければほとんど起こらない。10日以上の場合間隔をおいて投与
・ 投与速度:0.5g/kg/h以下、投与量:2g/kg/day以下が安全。
・ イントラリピッド、イントラファット

3.アミノ酸液

:低蛋白、低栄養状態、手術後のアミノ酸補給に使用。
・ 単独投与では熱源になってしまうので、適正な熱量を併用する。
・ 速度:10〜15g/h
・アミノレバン

C.血漿増量剤:循環血液量維持に使う。

1.膠質輸液

:人工高分子化合物なので臓器沈着、凝固障害を起こすことあり。>尿細管細胞を障害して腎不全、出血傾向、血沈亢進、微小血管障害など。
・ 過剰投与は心負荷を増強、アレルギー反応がでることも。
・ サビオゾール

2. 血漿剤

:加熱血漿タンパクで肝炎の可能性少ないがある。
・プラスマネート、ヒトアルブミン

<輸液管理>

1. 術後の病態生理

@ 第1相:乏尿、尿中K排泄増加し生体がNa貯留に傾く。術後3〜4日間。
エネルギー面では異化亢進の状態、早期に体内貯蔵グルコース、グリコーゲンが消費され、その後は脂質、筋蛋白からの糖新生によってエネルギーが賄われる。

A 第2相:第1相の乏尿やKの排泄増加状態が改善へ向かう期間。術後7日で術前に戻る。
エネルギー面では異化相とも呼ばれ、この期間は手術侵襲によって異なる。通常1週間前後。一般的な術後輸液はここまでの管理をさす。

B 第3相:窒素の蓄積期。ここでは栄養管理、エネルギー平衡の管理を主体に行う。

C 第4相:さらに回復過程が進み、中性脂肪が蓄積する時期。

2. 術後輸液のポイント

1) Third Space:手術侵襲の程度に比例して細胞外液及び有効循環血液量の一部が分離され機能しなくなる状態、どこに移動しているかは、不明な点が多いが、術創隣接部、内臓血管床、腸管内腔、細胞内が考えられる。よって、輸液の際、体外への損失のみを補うのではなく、Third Spaceへの移動量を補うことが必要。0〜28%、第1、2相において。

2) 術後の体液の構成上、脳脊髄液、胸水、腹水、消化管腔、腎尿細管などへの浸出にも注意する(Trans Cellular Water)

3) 術後は循環血漿量の減少、代謝性アシドーシスが起こるので、術後輸液には細胞外液製剤を選択し、代謝性アシドーシスを補正できるタイプを選択する。よって、乳酸加リンゲル液(ハルトマン液が一般的)を中心とした輸液計画を立てる。

4) 術中大量出血が無くても7〜10ml/kg/hから最高30%の外液不足が起こる。手術中の出血は等量の血液で補われ、不感蒸泄やThird Spaceへ移行分は手術中に乳酸加リンゲル液で補われているとすれば、術後は、ゆっくりとしたスピードで輸液する。水分35〜45ml/kg/day、Na60〜100mEq/day、K20〜40mEq/dayを基本量と考え、これに術後の浸出液、消化液を考慮して、バランスシートにより輸液量を決める。

5) 術後の栄養管理は蛋白の消費をいかに抑えるかがポイント。ただし術後短期間に栄養摂取が回復する際には最小限として約100gの糖質を5〜10%濃度で投与しておけばよい。

6) 輸液管理の評価

時間尿量:輸液量の20〜30%、20〜25ml/hが腎の濃縮力の安全下限
尿比重 :1.003〜1.025程度
血圧、脈拍数、皮膚の状態、意識状態をチェックする。

7) 第2相に入るとThird Spaceから水とNaがいっせいに戻ってくるので、時間尿量の増加、中心静脈圧の上昇を指標として輸液量を落とす。必要であればループ利尿剤を使用して排出させる。落ち着いたら維持輸液に変更。

 

<参考文献>

 「輸液・輸血・救急薬TODAY」 
           山本保博ら編著 Mメディカ出版 1999

 「臨床医薬情報」1984

 「輸液ハンドブック」 越川昭三ら編著 M中外医学社 1999                                                                              


歯科口腔外科の勉強会・症例検討のページに戻る

Copyright

Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine