信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


輸液の実際

             4, 栄  養     2001.1.31 宮澤

〈糖質代謝〉

 〜ブドウ塘はエネルギー源である〜
  糖は小腸から吸収され、門脈を通って肝臓に運ばれる。肝臓で代謝を受けるが、その作用は3つある。

・エネルギー:肝臓に取り込まれた単糖(ブドウ糖など)は解糖系に入り、アデノシン三リン酸として用いられる。余分な糖はグリコーゲンとして肝臓に貯蔵される。※ブドウ糖1gにつき4kcalのエネルギー補給可能
・細胞構成:糖ヌクレオチドとして細胞の構成を行う。
・核酸、アミノ酸、脂質の合成:核酸合成に必要なリボースや脂肪酸合成に関与する。

 糖質輸液・・・神経、筋肉で使用される糖質はブドウ糖なので、基本的には輸液剤としてブドウ糖を用いる。

 ブドウ糖以外の糖質輸液

フルクトース:
@細胞膜通過にインスリンを必要としない
A代謝速度が速い
B尿中喪失が少ない
C血中乳酸、ピルビン酸濃度、中性脂肪が上昇する
D高尿酸血症となる
糖尿病患者、小児習慣性嘔吐症、肝疾患、脳圧低下目的で使用され、0.15g/kg/時間以下で投与

ソルビトール:肝臓でsorbitol dehydrogenaseの作用によりフルクトースに変換されるためほぼ同じと考えて良い
@代謝がフルクトース程速くない
A血中乳酸、ピルビン酸濃度の上昇は少ない
B尿中喪失量が多い

キシリトール:
@細胞膜通過にインスリンを必要としない
A尿中喪失がおこる
B高尿酸血症をきたす
C肝・腎障害を起こす可能性がある
糖尿病患者に用いられ、0.15g/kg/時間以下の投与速度で、1日100g以下 の投与量にすべき

マルトース:
@同じ浸透圧で2倍のカロリーを補給できる
Aインスリンを併用することなく細胞膜を通過できる
Bブドウ糖に比べ代謝が遅い
C尿中に喪失する
D腎代謝であり腎不全では使いにくい
※ブドウ糖:果糖:キシリトール=4:2:1が最も糖の利用率が良い

〈脂質代謝〉

 〜生体にとって脂質が重要なのは膜の構成成分としてである〜

生体にとって脂質が重要なのは膜の構成成分としてである。これは細胞の表面膜ばかりでなく、細胞内のミトコンドリアなどの細胞構成物の膜の脂質としても重要である。また、生体膜の流動性にも影響を与えるとともに、免疫機構にも関与している。脂質の1つであるアラキドン酸代謝産物は生理活性物質として、血管拡張、収縮、細胞機能に重要である。

脂肪輸液・・・エネルギーの供給と生体膜構成成分として重要な必須脂肪酸の供給を目的とする

 輸液として脂質を用いるのは細胞機能にとって重要であるばかりではなく、炭水化物や蛋白質に比べてカロリーが単位あたり倍近くあり、カロリー源として有用であるからである。(1g:9kcal).また、プロスタグランジンの前駆物質であるアラキドン酸のような必須脂肪酸の存在は、高カロリー輸液に脂肪が必要なことを示している。必須脂肪酸とはビタミンFともいわれ、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などが含まれる。長期の経口摂取不能な高カロリー輸液患者には、このような必須脂肪酸の投与が必要である。

 

〈蛋白質アミノ酸代謝、ビタミン〉

 〜アミノ酸は体を構成する蛋白質の元になっている〜

 長期栄養輸液を行う場合にはビタミンと微量金属の補給をする

〈アミノ酸〉

:アミノ酸は生命も元になる有機物(C:H:O)である。我々の体の最も重要な構成成分である蛋白質を構成しているアミノ酸は20種類あり、ヒトでは自分で産生できず外界から取り入れなければならない必須アミノ酸が8種類ある。糖や脂質と異なる点は窒素を含むことであり、蛋白質は約16%のNを含んでいる。
必須アミノ酸:体内で合成ができず外から補給する必要のあるアミノ酸
トレオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニンフェニルアラニン、トリプトファン、リジン

窒素平衡:窒素は主として尿から排泄されるが(34mgN/kg/日)、大便(12mgN/kg/日)や皮膚(8mgN/kg/日)からも失われる。飢餓時には体の構成蛋白が崩壊し、約10gのNが尿中に排泄される(蛋白量で約65g)。
十分なカロリー投与でこのN排泄は4gまでに減少させることができるが、窒素平衡を正にすることはできない。従って、外からの蛋白供給が窒素平衡を正にするためには必要である。

必要蛋白摂取量:FAO/WHO/UNU合同専門家協議会での報告では、安全摂取レベルが0.75g/kg体重となっている。消化吸収率を85%とすると、摂取量は0.88g/kgとなる。厚生省でも必要量として0.64g/kgとしており、吸収率、安全率を考慮すると約1g/kgとなる。

アミノ酸輸液:アミノ酸が輸液されて蛋白合成に用いられるためには35〜40kcal/kgのカロリー補給が必要である。また、蛋白質2gの合成には1mEqのKが必要であり、低カリウム血症では蛋白合成が低下する。その他にP,Mg,ビタミンBを補う必要がある。

〈ビタミン〉

:ビタミンとは人間の代謝に必要な微量元素であり、体内で合成出来ないため補給する必要がある。長期輸液を必要としている患者では経口摂取が困難な場合が多く、ビタミン欠乏になりやすい。ただし、肝機能障害や腎機能障害を合併している場合にはビタミン代謝が変化しており、ビタミン(特に脂溶性ビタミン)過剰投与にも注意する必要がある。

※脂溶性ビタミン・・・A,D,E  水溶性ビタミン・・・B,C
ビタミンA :欠乏にて夜盲症、皮膚炎、過剰にて流産、腎不全では貯留によりビタミンA中毒
ビタミンB :欠乏にて神経障害、皮膚炎
ビタミンC :欠乏にて壊血病、アミノ酸代謝・TCA回路・コラーゲン合成に関与
ビタミンD :血清Ca濃度を調節し、骨へのCa沈着を促進するホルモン
ビタミンE :欠乏により溶血性貧血がおこる。

   

<参考文献>

一目でわかる 輸液 - 
   株式会社メディカル.サイエンス.インターナショナル
                                                                                     


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