信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会
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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School
of Medicine
2001.1.24 鎌田
1、体液分布
@細胞内液_細胞膜で囲まれた内部であり、細胞機能を行うために必要な環境を提供している。一番多い陽イオンはK+で、陰イオンとしてはリン酸イオンや陰イオン荷電蛋白が存在する。また情報伝達に重要な役割を果たしているCa2+は細胞内液に多い。細胞内液量は体重の約40%である。
A細胞外液_Na+が主要陽イオンである。陰イオンとしてはCl−やHCO3−がほとんどである。細胞外液量は体重の約20%である。
B間質液_細胞と細胞の間にある水分で、細胞外液の一部である。浮腫はこの間質に水分が貯留した状態をいう。
C細胞膜_リン脂質で構成しており、3層構造となっている。水や尿素は自由に透過するが、イオンには膜の性質によって透過しやすいイオンと透過しにくいイオンがある。通常、イオンは膜を透過しにくいと考えて水・電解質代謝を扱う。
マ輸液療法はこの細胞外液に直接水・電解質や炭水化物、脂質などを投与する方法である。
注意
小児の水分→受精後5〜6ヶ月の胎児では体重の約80%が水分である。胎児では脂肪やその他の固形成分が相対的に少ないためである。また、細胞外液と細胞内液の比率を見ると、成人とは異なり細胞外液の方が細胞内液よりも多い。新生児や乳児が下痢や嘔吐で容易に脱水に陥りやすいのは、細胞外液が多いからである。
高齢者の水分→高齢化すると脂肪分や筋肉量が少なくなり、全体水分量の比率は低くなる。しかし高齢者の特徴としては、細胞内の水分が少なく細胞外液の比率が高いため、やはり脱水に陥りやすい
2、体液の調節(腎臓の重要性)
Claude Bernardは細胞外液を内部環境と名付けている。その理由は、生命は海から発生し、進化によって陸上生活が可能になったが、原始の海を生体内部に保持することが生命維持に必要だったからである。この原始の海が細胞外液である。従って細胞外液の量と質(電解質組成)を一定にすることは生命にとって不可欠である。この恒常性維持を行っているのが腎臓である。
@蛋白代謝産物_人が摂取する3大栄養素は、タンパク質、炭水化物、脂肪である。この中で炭水化物と脂肪は基本的にC,H,Oの3つの元素でできている。従って、体内で使われると最終的にはH2OとCO2に分解することができる。このH2Oは不感蒸泄で、またCO2は肺から呼吸によって排泄できる。しかしNやSの元素をもつタンパク質は体の中で使われた後、NO3やSO4となり、生体内緩衝系で緩衝されるが、結局は腎臓から排泄しなければならない。従って、蛋白代謝産物の排泄には腎臓が絶対に必要となる。
A水電解質の調節_腎臓は、経口摂取された余分な水分やNaClを排泄し、必要な電解質を保持する役割をもっている。水分の調節は主として抗利尿ホルモンによるが、Naの調節は糸球体濾過量やアルドステロン、心房性Na利尿ペプチド、プロスタグランジンなどで行われている
B酸-塩基平衡の調節
Cホルモンの産生_腎臓で産生されるホルモンにはレニン、エリスロポイエチン、ビタミンD、ブラジキニン、プロスタグランジン、エンドセリンなどがある。
マ体液には経口摂取や代謝水として水が加わり、尿、不感蒸泄、便になって水として排泄される。この出納が毎日バランスよく行われているのである。水に限らずNa,Kについても同様のことがいえる。つまり、細胞外液に加わった水や電解質は生体内にある受容体で過剰か欠乏かが判断され、ホルモンあるいは神経系を介して腎臓に伝えられて、過剰ならば排泄、欠乏ならば貯留される。輸液はこの入力(経口摂取)が障害されたときに、その入力を補助するために使用される方法である。
3、尿からの情報
尿の重要性は血液検査とは異なり、患者に苦痛を与えることなく採取できる点である。尿量、尿中の電解質濃度、クレアチニン、尿素、浸透圧、ph、ミオグロビン、ヘモグロビンなどの情報が得られる。
輸液に必須となる尿の情報は、電解質濃度のほかに浸透圧である。尿浸透圧から計算される自由水クリアランスによって輸液剤の
Na+濃度を決定することができる。
@自由水_体液は細胞外液も細胞内液もほぼ同じ浸透圧に調節されており、この浸透圧よりも薄い輸液剤は純粋な水が加わり、体液よりも濃い輸液剤は体液からの自由水を減少させる作用がある。つまり、体液浸透圧と同じ浸透圧をもつ液体には自由水が含まれず、これに水だけが加わると加わった分の自由水ができる。自由水は体内で産生された浸透圧物質を吸収し等張液になり、体液浸透圧の乱れを防いでいる。
A自由水クリアランス_自由水クリアランスは尿量から溶質クリアランスを引いたものであり、尿が血漿よりも薄い場合(希釈尿)にプラスとなる。つまりCH2O=V−Cosm(CH2O:自由水クリアランス、V:尿量、Cosm:浸透圧クリアランス)で表される。血漿の浸透圧は約300mOsm/kgH2Oであるが、尿の浸透圧がこれよりも低いと図に示したように尿中の溶質を等張尿で排泄したときよりも多量の尿を排泄しており、その差は水だけの溶質を含まない尿を排泄した部分と考えることができる。この部分が自由水クリアランスである。
B輸液剤の選択_低張輸液剤を選択するか高張輸液剤を選択するかは、体液自由水の量と尿中への自由水排泄量(自由水クリアランス)によって決定される。例えば尿中に自由水を排泄(低張尿)している経口摂取できない患者に等張液を投与すると、この患者の血清は高張(高ナトリウム血症)になってしまう。
<参考文献>
一目でわかる輸液 メディカルサイエンス
シンプル生理学 南江堂
新生理学 文光堂
内科(82巻1998-10 82:613〜)
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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine