信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


輸液の実際

2. 輸液の生理学

2001.1.17 酒井

<水とNa>

総体液量(TBW):体重の60% 細胞内液(ICF):40% 細胞外液(ECF):20%

細胞外液において浸透圧に関与する陽イオンマほとんどがNaイオン
細胞内液の主要な陽イオンマKイオン

*水代謝について

水代謝には浸透圧調節系が主として働く

マ浸透圧が上昇→抗利尿ホルモン(ADH)分泌亢進→腎集合尿細管に作用→水透過性の亢進(体内に水を保持)→浸透圧が低下→正常化
マ浸透圧が低下→抗利尿ホルモン(ADH)分泌抑制

*Naについて

Naについては浸透圧調節系とともに容量調節系が働く

《容量調整系について》

@交感神経系
 脱水時には渇きの感覚を起こし水分摂取を行わせると同時にバゾプレッシン分泌促進し、腎からの水分排泄を抑える。マ心房の血液容量受容器、頸動脈洞や大動脈弓にある圧受容器

Aバソプレッシンは水分量の変化に大いに関係するがNaの量に関しては以下が大いに関与する。
 レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系:循環血液量が減少→糸球体
 血流量減少→糸球体近接細胞からレニンの分泌増加→系の活性化、心房性Na利尿ペプチド(ANP):心房筋はANPを合成、分泌するが、循環血液量の減少はANPの分泌を減少させる。

<酸・塩基平衡>

・血液のPHは7.40±0.05(水素イオン40nEq/l)に保たれている。PHは水素イオンのモル濃度の負の常用対数PH=-log[水素イオン]で表される値である。血液の水素イオン濃度は通常40*10 モルに維持されており、これをPHに直すと
・血液のPHは、主として呼吸機能と腎機能にて調整されている
・血液中の緩衝物質としては赤血球の蛋白が大きな作用をもち、その他に炭酸-重炭酸緩衝系がある                                

《血液の緩衝作用》

 組織で生じたCOや不揮発性の酸はHを遊離するが、これらは血液中で血漿蛋白やヘモグロビンなどの血液緩衝系に吸収される。また血液がアルカリ性に傾くときはOHが同様に血液緩衝系に吸収される。また、ヘモグロビンは蛋白であるので同様の緩衝作用を持つほかにイミダゾール基という強いH吸収能を持った基を持つため強い緩衝能を持つ。また、不揮発性の酸から解離したHは血液中の重炭酸イオンHCOとも反応する。すなわち COが肺から排出され、腎の尿細管の細胞がHの分泌を行う際にHCOが血中に放出されることによりこの緩衝系は持続的に働く。

《アシドーシス、アルカローシス》

 生体は、体内で行われる代謝の結果絶えずHを産生しており、体液のPHは低下する傾向にある。代謝によって生ずる酸の99%は炭酸で、残りは蛋白質から生じた硫酸や燐酸、糖質や脂肪の中間代謝物(乳酸、ケトン)である。炭酸HCOは栄養素の酸化の結果生ずるCOがHOと反応してできるが、これはHCOとHに解離して体液中の水素イオン濃度を増す(PH低下)。揮発性物質のCOは血液により肺へ運ばれて体外へ排出されるからCOによって生ずるHの濃度は呼吸量により影響を受ける。(COが体内に増えるとHCO産生増加マHが増加)呼吸量の減少によるアシドーシスを呼吸性アシドーシス(肺炎、閉塞性肺疾患、喘息)、呼吸量の増加によるアルカローシスを呼吸性アルカローシス(過換気症候群)という。また代謝の結果生ずる不揮発性の酸もHを解離して体液のH濃度を上昇させるが、この様に呼吸以外でPHを低下させる場合を代謝性アシドーシス(酸産生増加:糖尿病性、酸排出障害:慢性腎不全)といい、嘔吐により胃酸の喪失、アルカリ性薬物投与によるH濃度の低下が見られた場合を代謝性アルカローシスという。

<参考文献>

一目でわかる輸液     メディカルサイエンス

シンプル生理学      南江堂

新生理学         文光堂

内科(82巻1998-10 82:613〜)                                                               


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