信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


輸液の実際

1. 輸液の基本

2001.1.10 藤森

輸液の基本的な考え方の流れをまとめると、

1)、欠乏量の推定
2)、維持輸液量の計算
3)、畜尿し尿量と有効浸透圧を測定する
4)、輸液剤の種類の決定と投与速度の設定
5)、輸液剤の見直し
      となります、基本的なことを以下に示します。(詳細は、後日お願いします。)

1、欠乏量の推定

輸液の基本は、なにが欠乏しているかであります。
欠乏する物としては、
1、水分
2、電解質「Na,K,Ca,P,HCO3、など
3、ビタミン
4、微量元素     
が挙げられます。

1)欠乏が有るか無いかの判定

血液検査をして血清電解質濃度を測定することで、欠乏しているかどうかの推測はつくが、水の過不足が不明で、濃度だけでは(脱水時は、高値を示す)欠乏を診断出来ない。そのため、欠乏を見極める方法としては、臨床症状と検査所見より行います。

2)それぞれの欠乏物質と臨床所見 

1、最も重要な項目→水とNa

 水とNaは密接に関係しており、水だけが欠乏しても脱水となるが、Na量に変化がなければ、高Na 血漿と成る。水とNaは、一緒に考えるべきで、血清濃度だけでNaの欠乏、過剰は判断出来ない。
 水とNaの欠乏量の推定は体重変化が、最も信頼できる、臨床症状としては
 :短時間で体重が減少し、下痢や嘔吐がある場合
 :皮膚の乾燥、頚静脈拍動、
 :Swan-Ganzカテーテルによる、肺動脈きつ入圧(PAWP)、中心静脈圧(CVP)
 が挙げられます。

 @水分欠乏量の推測 

(正常値、ヘマトクリット(Hct)=45%、血清総蛋白(TP)=7mg/dl、血清Na濃度=140mg/dl)

(水分量=体重の60%として)

  1、体重からの推測       →水分欠乏量 = 健常時体重 - 現在の体重  

  2、ヘマトクリット(Hct)を用いる→水分欠乏量 = (1-45/Hct)*体重*0.6

  3、血清総蛋白(TP)用いる    →水分欠乏量 = (1-7/TP)*体重*0.6

  4、血清Na濃度を用いる     →水分欠乏量 = (1-140/Na濃度)*体重*0.6

  注、2、3、4については、高張性脱水、低張性脱水、かにより変化するため、それ程正確な     値とならない。

 ANa欠乏量の推測

(血清Na濃度=140mg/dl、水分量=体重の60%として)

  Na欠乏量==(140-現在のNa濃度)*現在の体重*0.6+140*体重減少量

2、K欠乏

 Naの次に重要で、細胞に多い陽イオンで神経伝導、筋収縮、細胞機能などの重要な働きがある。
 大量の欠乏がないと、血清K濃度に現れない。←細胞内に多いから

3、Ca欠乏  

 Caは、血清濃度で欠乏を判断できる。しかし、血清Ca濃度は、血清アルブミン濃度によって影響 されるのでアルブミンが低下している時は、補正の必要がある。
 補正Ca濃度(mg/dl)=血清Ca濃度(mg/dl)+アルブミン濃度(g/dl)-4
 イオン化Ca濃度(mg/dl)= 血清Ca濃度(mg/dl)-0.87*血清蛋白濃度(g/dl)

4、Mg欠乏

 Mgは骨に多量に含まれていて1/10が血清中にある、そのため血清濃度が正常値でも、Mg欠乏 は、考えられる。また、血清Mg濃度の低値は明らかな欠乏であります。

5、ビタミン、微量元素欠乏

 欠乏により、特有の症状が出現する。また、血清濃度により推測できます。

2、維持輸液量の計算

 欠乏のない患者でも、経口摂取出来ない場合は、維持輸液が必要となる。短期間(だいたい1週間)であれば、主に腎臓の調節により血液組成は、恒常性は保てるが長期間になると欠乏が生じる、とくに、水や電解質は、普通は余剰な分を体内蓄積することが困難で、1日に必要な分をそのつど、補充する必要があります。
 また、疾患により恒常性が保てない場合も、輸液の必要性があります。

 参考資料

@、1日の調節の限界    B、日本人の平均食事量     C、1日必要量

水、0〜30L         水、2000ml       水、1500〜2000ml

Na、K,0~500mEq     Na、170mEq(食塩10g) Na,50〜80mEq

A、生存に必要な最低量      K、 40mEq       K,40〜60mEq

水、100〜400ml  Ca 500mEq       Ca,10mEq

Na,K, 10〜20mEq      カロリー2000kcal カロリー、ぶどう糖100g

D、水の代謝

 インとアウト(バランススタディ)を考える必要がある。

  入る水→食事、(通常の食事で、700ml)

    飲料水(平均1000ml) 

    代謝水(2000kcalの食事で、300ml)

  出る水→尿  (平均1500ml)

    不感蒸泄、発汗(平均800ml、目安15ml*体重)

    便  (通常約100〜200ml、下痢時1L以上も)

E、輸液が必要な疾患

   ショック、意識障害、脱水症、心不全、消化器疾患、肝硬変、糖尿病、感染症、熱傷など

3、畜尿し尿量と有効浸透圧を測定する。

1)尿量によりアウトが分かります。

2)尿の有効浸透圧

  Na,K,Cl,HCO3などの、尿素を除いた浸透圧(尿素は、細胞内液、外液を自由に居られるため)

  尿有効浸透圧=2(Na +K )+ブドウ糖(mg/dl)/18

4、輸液剤の種類の決定と投与速度の設定

1)欠乏量と維持量、合わせたもの輸液します。

2)基本的には、尿浸透圧より、輸液の選択を行ないます。

(輸液の浸透圧が尿浸透圧よりも、高いか、低いかで調整したい血清浸透圧が調整ができる。)  
(厳密に言えば、尿以外の不感蒸泄、便なども考慮する。)

@浸透圧変化に有効なもの
Na,K,アルブミン(長期)など、とマンニトール、グリシン、ブドウ糖(数時間有効→代謝されて水となる)など
A浸透圧変化に無効なもの
尿素、エタノール、メタノール、グリセリン(代謝が早っかたり、細胞内外を自由に通過)など

3)欠乏量を、1日で補充すると心肺機能に危険があるため

  1日の投与量の基本は、欠乏量*安全係数(1/2)とします。

4)急患においては、臨床症状から、とりあえず輸液する場合もあります。

  例としては、脱水症→ 1号輸液(開始液)の1000ml投与
        ショック時 → ハルトマン液(細胞外液補充液)の急速輸液

5)、輸液剤の見直し

  輸液は、細胞外液に大きな影響を示すため、毎回、身体所見、検査所見をチェックします。

  

<参考文献>

一目でわかる 輸液 - 
   株式会社メディカル.サイエンス.インターナショナル
                                                                                     


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